天を破りて・後B17
『本気を出す………なるほど。覚えがあるよ。エー先輩が半端なく興奮してた、俺の集中状態………確か、覚醒っていうんだっけ? それを使えばいいんだ? ふぅん? なんだ………簡単なことじゃん!』
『それも、自分も機体も顧みない全力のか。確かに、そうでもしないと………こいつに勝てそうにないなぁ!』
俺が再び前を向く、砲撃が止んだのでライラを手放すと、前方で気配が爆発した。
それは言葉にするだけなら簡単だが、実際に実行するには、自分で自分のリミッターを外す必要がある。例えば握った拳でなにか硬いものを強打する際、誰しも骨折を恐れて無意識でどこかセーブをかけてしまう。そのセーブを無意識であっても外すような、暴走状態と称してもいい。
このゾクゾクとする感覚。間違いない。2回目の覚醒を使った。それも自分のなかにあるタガを外し、強引に領域をこじ開けた。双子の片割れを失った絶望で開くはずのドアを、自らの選択だけで。
ソータはアークの犠牲を必要としなかった。しかもアークも同じ覚醒を使っている。反動を考えると、やはり長時間の戦闘は無理だ。きっと今、ふたりは同じ色の瞳をこれまで以上に輝かせながらXタイプを迎撃している。動きが段違いだ。化け物に追いついてしまった。
最終回においての覚醒は瞳から発するエフェクトも電流に似たものを纏っており、常に軌道の残光を描いている。それがXタイプを追い詰める。この期に及んで使い手がふたりに増えた。それだけでも俺にとっては興奮し、驚愕すべき誤算であり、短期決戦に持ち込んだというゴングが鳴ったも同然であった。
そして仮にソータとアークが無事でも、イレイザーとタキオンが操縦に耐久できるとも限らない。
もちろんシーナはそれも予想して、関節周りを徹底して強化を施しただろう。よって原作よりも激しく、そして長く動けることも十分予想できる。
けれど、真の覚醒を遂げたソータとアークにすべてを託していいのか? 俺たちは主人公とライバルの背中に隠れて、甘い汁を吸うだけの小判鮫に成り下がると?
冗談じゃねぇ。その程度で俺たちが、引き下がるはずがない。
ソータとアークはこれから自分にも跳ね返ってくるであろうデメリットも含めて、すべてを覚悟してXタイプという名の悪魔に挑んだのだ。俺たちもまた、それに似た技術を持っているのなら、手のうちにあるカードのすべてを切る。
最善を選んだ上で生きる。そう決めたのだ。負けるためでもない。生きるために。
俺とビーツは、リヴァイヴとブラックイレイザーは並ぶと、ソータとアークの覚悟を読み解く。
『ソータとアークが命を削ってる。俺たちの前で、原作の戦闘を忠実に再現しているのか』
『あれは倍速に等しいがな。それにしては珍しいではないか。貴様が自分も混ぜろと主張し、しゃしゃり出ないとはな。やはり自分の能力の限界を悟ったか? 賢明な判断だな』
『笑えねぇ冗談ほざいてんじゃねぇよ。今から本気出すんだ。お前も付き合えよ』
『ふん。言われるまでもない!』
ビーツの纏う雰囲気が変わる。背筋に氷塊が滑り落ちる悪寒とも言える感覚。俺にはない超絶技術により会得した、ビーツだけの能力。それは所詮、作り物に過ぎないし、本物と比較すれば純度も半分ほどしかない。それでも俺では届かなかった領域にいることは間違いない。
擬似覚醒。ビーツは過去の負傷で、脳内チップを2枚移植するだけでなく、右目を義眼にする必要があったのだが、その義眼が擬似覚醒を発動する必須とされるアイテムであることは違いない。
デメリットとしては、擬似覚醒は本物の覚醒より短時間しか発動できない上に、タイムリミットが過ぎればブラックイレイザーの制御を失い、ただの的になってしまうことだ。以前ビーツと衝突した際は、そのデメリットを突いて倒した。
『改良は加えてあるんだろうな?』
『無論だ。貴様と衝突した時の倍の時間は維持できるようになったぞ』
『そうかい。なら………俺も腹括るしかねぇなあッ!! カウンターシステム、起動ッ!!』
ソータ、アーク、ビーツが覚悟を決めて挑んだとあらば、俺が手抜きをするのは恥となる。
命は粗末にしない。しかし危険に晒さなければ勝てない。なれば俺とて、デメリット満載の奥の手を使うことに、なんの躊躇いもない。
俺の命を蝕み、寿命を残り数秒まで削り取った悪夢の根源。命を廉価にすることで得る、覚醒の能力に匹敵する俺だけの能力。新たなナノマシンを再起動。
すると脳内で、グラディランドを制御しているケイスマンの意志がはっきりと告げる。誰にも聞かれないように回線を固定しながら。
『エース。………お前の肉体で、金属化現象が再発した。アスティオールへ移動し、接続作業に入ったグラディオスのブリッジが騒然となっている。説得を試みた甲斐あって、お前とリヴァイヴの接続は切断されずに済んだ。シーナという3人目の特異点と、ライラというこちら側にいるという特異なアンノウンの働きもあって、今のお前の寿命は1日分だけ伸びたと考えることができるだろう。だが………』
『わかってる。治療すれば最短で治るんだろ? でも、俺はそんなの望まない。みんなと一緒に戦う。生きて、また会うために。だからお前も、最後まで付き合えよ? 途中で接続を切ったりしたら許さねえからな?』
ケイスマンの意志が告げるように、新しいナノマシンを起動して、カウンターシステムを用いれば、より最悪な肉体の金属化現象が再発することなど、最初からわかっていた。
『………承知した。最短で倒し生きて帰るという目標があるというのなら。それに賭けるしかあるまい。バックアップは任せろ』
『頼む』
ケイスマンの意志の協力を得て、俺もビーツとは似て非なるもの、というかまったく別物ではあるが、それでもXタイプに通用するであろう領域に足を踏み入れる。
ヴッ───とリヴァイヴとブラックイレイザーが唸り、超高速戦の軌跡を宇宙に描き、剣と拳を交えている主力と化け物たちの乱舞へと、強引に割り込んだ。
『俺もリミッターを外す! 全機───2秒後に後退!』
『っ………了解!』
俺のリミッターのことはソータも知っている。限界まで酷使した末に、命が幾許もない状態で全員に会って、泣かせてしまった。
シーナの改善策のお陰で寿命が1日伸びたが、治療せずに再び酷使するとなれば、ソータやアークとて焦るに違いない。
しかしだ。告げた2秒後に回避運動に入るソータとアークは、極限の覚醒状態にあるとはいえ、とても焦りを感じている動作をしなかった。むしろ冴えさえ感じる。
マイナス的な要素が脳を刺激したのか。原作でも覚醒は劣勢に陥ってから使用していた。不安やプレッシャーがあったからこそ、それを跳ね除ける力が備わったと考えられる。今のがそうなのか。
リヴァイヴは俺のカウンターシステムに関連するナノマシンに連動して、オールパーパスジャケットの真価を発揮する。ナノマシンで制御するワイヤーが発射され、アンカーの先端に接続されたブレードが一斉にXタイプに襲い掛かる。
『チッ! 弾かれた………ならもっと精度を上げる!』
10本の腕がブレードを防ぐ。突き刺されば高圧縮ガスを注入して内側から弾けさせてやるのに。
さらにカウンターシステムの精度を高めて、未来予測を強化する。
ところが、その先に見えた未来で、俺がゾッとするものが見えてしまった。
Xタイプの背中から生えた腕が、一斉に消えるのだ。
それはオールパーパスジャケットによるものではない。Xタイプの能力のひとつだった。
評価、リアクションありがとうございます!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




