天を破りて・後B16
『最悪な方向で学習してるのと、こっちに順応し始めているってのもな。このままじゃ、俺たちの攻撃が通用しなくなるかもしれねぇ』
『気にすんな。その時は私がやる。私のBL聖書たるイラストだけじゃねぇ。直筆漫画1巻から10巻まで、余すことなくたたき込んでやる。いくら学習しようが、これだけは理解できねぇだろ。ククク………絶対崩壊させてやる』
『そのイラストと漫画が通用しなかったら?』
『脳内アニメーションだな。劇場版なみの時間のをブチ込む。絵じゃなくてアニメーションだ。これに耐えられるか、むしろ実験してみてぇなぁ』
そんなの、Xタイプじゃなくても崩壊しそう。仮に俺に注入されたら精神崩壊は避けられないだろうなぁ。
悶々と凶悪プランを脳内で構築するシーナ。こうなれば彼女が奥の手だ。ならば、なんとしても守り通すしかない。
『じゃ、下がってな。さっきみたく攻撃を受けて、お前の意識が飛んだままじゃ───』
『エー先輩! 後ろ!』
『なにっ!?』
アークが叫ぶ。サブカメラに視点を切り替える。
Xタイプがイレイザーとタキオンを突破したわけではない。ソータとアークは善戦している。それでも警鐘を鳴らす理由は、Xタイプの手にあった。薄いなにかを作り出し、高速回転を加えている。
なにをするつもりなのか。いや、あれには覚えがある。
『ライラ! シーナを守れ!』
『うん!』
『ちょ、お前なにし、おわぁあっ!?』
ライラを抱きかかえて飛ぶ。先程の接触で判明したが、ライラはアンノウンでありながら、そこまで高熱を発していなかった。ゆえに接触しても装甲に問題視するほどのダメージはなかった。
急上昇すると、Xタイプが放ったものすべてがライラを追尾する。
『どうやらその貧乳ザルが切り札らしいな。ならば死守しろよ小此木!』
ビーツのブラックイレイザーが合流し、ビットとともに俺たちを追尾する銀色の円盤を狙撃する。
『テメェ、ビーツこの野郎ァッ! 喧嘩売ってんなら買ってやんよ! テメェが抱えてるメスどもがぶら下げてる脂肪の塊なんかよりもなぁ、こっちの方が優れてんだよ! なんなら今すぐテメェの脳みそに直接教育してやろうかァッ!!』
『暴れんな馬鹿! 守れねぇだろうが! 全機聞け! そいつはHタイプを模している! 薄っぺらくて脆いが、高速回転をしているから物理的な武器は真正面からじゃ防がれる! だから上下から真芯を狙え! ロングソードの剣尖を突き立てるだけで崩壊させることができる!』
飽きることのないビーツの罵倒を込めた提案に、案の定激昂するシーナ。Xタイプのために温存していたイメージのすべてをビーツに注入されては、主力のひとつを失うことになる。普段ならなんら問題はないのだが、戦闘中に限定してはそれだけは避けたい。
ジタバタするシーナの影響で、ライラまで暴れそうだったので、強引にでも戦闘に意識を集中させるべく指示を出す。
イレイザー、タキオン、ブラックイレイザーはHタイプを模した円盤を注目し、ノールックや直掩機で円盤を狙撃して撃墜する。やはりソータとアークは、この最終決戦の最中でより成長を続けていると実感する。
『ねぇ、こんな化け物どうやって倒すの?』
追尾する円盤を撃墜しながらアークが問う。
『本編ではお前が死ぬことで、ソータがブチギレた。機体と自らを顧みない全力の覚醒で、イレイザーを中破させながらも撃破した。そのバトルはなかなか見応えがあったが』
『そこまでだビーツ。アークを犠牲にすることは許さねえ。けどな、それくらいの覚悟で挑まねえと、勝てない相手になった上に、俺たちが知ってるXタイプよりも格段に強くなってる。攻略するには………ぐっ!』
円盤を放出する攻撃を中断したXタイプが、10本の腕を俺たちに掲げると、なんとビームを放った。その規模たるや、Fタイプが両腕を結合させて放つ照射と同じかそれ以上。それを片手で放つ。連射に切り替えると回避も困難となる。
『こいつ………第二形態で第一形態の射撃を行うのか!?』
『原作にはない攻撃………しまった!』
失態を悟る。レンジの長い散弾のような射撃は、俺たちは辛うじて回避や防御が成功したが、それより後方が問題だった。
俺たちは広大な宇宙を自在に飛び回っていたが、友軍のことを一度たりとも忘れたことはない。ただでさえも危険なXタイプの動きを制限するべく、第二形態に移行してからはより厳しく牽制と迎撃、あるいは防御や支援を繰り返した。俺たちそのものが壁になるべく、Xタイプの進行を妨げ、そして注意を常に俺たちの誰かに集中させた。
しかしこの結果だ。俺たちは背後に友軍を庇う形で布陣していたが、それが失着だった。俺たちは壁になることができなかった。薄氷にして、被弾を恐れて回避に専念した結果、Xタイプの散弾の雨が、友軍を襲ったのである。
あまりにも広すぎるマップ兵器。やっと敵陣に食い込んで、様々な武装を駆使して進むグラディランド・フルブラスターにも襲いかかる。さらに後方のコーネリアの艦隊にも被害が出る。
アンノウンごと打ち砕きながらガリウスG、ガリウスHにも被弾する。
ゾッとした。近接特化したはずの第二形態が、これほどのロングレンジ攻撃を行うはずがないと、俺たちは自らの固定概念により友軍を危険に晒してしまったのである。
『なんてこった………コウッ!』
『心配すんな。十二号機はファルコンジャケットに被弾、パージしてことなきを得た。コウは無傷だ。けど………』
『け、けど?』
『アンノウンも減ったけど、グラディランドとコーネリア少将の艦隊が………かなり酷いことになってる。グラディランドはもう主砲を撃てない。ブリッジにいる面々も、アスティオール側に避難するようだ。油断した………まさかXタイプがここまでやるなんて』
油断が招く失態が、自分のみならず他人の死を招くことになる。
それは第6話で、クランドが学徒兵が調子に乗らないよう偏見と差別的な発言を連発して、反感を買いながらも釘を刺すあのイベントでも言っていたことなのに。俺はこんな簡単なことさえ忘れてしまっていた。
『どうする………俺だけでも戻って、誰かを助けるべきか………?』
『よせ小此木! 貴様とて主戦力だろうが! 出来損ないの貴様でも、1匹いないだけでこちらの負担が倍増し、貴様が大嫌いな犠牲が出る! 戦線離脱は許さんぞ!』
ビーツの現実主義的な発言はもっともだ。俺が抜ければその役割を4人が分担する。ただでさえもギリギリなのに。それでは4人のうち誰かが死ぬかもしれない。それこそ本末転倒だし、これまでの俺の努力が水の泡と化す。
かといって、旗艦を無視するわけにもいかない。
どうすれば───と焦りながら突破口を探るべく四方八方に視線を飛ばす。利用できるものはないかと。
すると、俺の不安を打ち消すための通信が割り込んだ。
『エース………聞こえるか、エース!』
『艦長!? そっちは無事なんですか!?」
クランドからだ。俺の本体はクランドの隣にいるが、意識はすべてリヴァイヴに転送しているから、肉体に語りかけても応えることはない。よって応答はリヴァイヴに通信を繋げるしかないのだ。
『ああ、辛うじて全員無事だ。ただ被害が予想以上だった。これより我々は、ブリッジを後方に動かしてアスティオール側へ向かう。グラディランドを盾にするようで気が引けるが、後退するための時間を作るにはこうするしかないのでな。エース。その強敵はこちらでも見ていたが、まさに化け物だな。しかしお前の知る世界では勝てたのだろう? ならば………我々はそれを知るお前たちを信じる。勝て! こちらのことは気にするな。機能が半分ほど停止したとはいえ、グラディランドはまだ健在だ。意地でも生き残ってみせる。お前たちはXタイプだけに集中すればいい! 誰も生きることを諦める者はいない。お前たちが健在し続ける限りな!』
さすがは往年の艦長。言うことが違う。
絶対に生きることを諦めない。
たったそれだけのこと。しかし困難な道。そうであっても進み続ける。
そんな事実があるだけで、俺の不安が半減するのだった。
リアクションありがとうございます!
次回は19時に更新します。気付けばBパートも16まで来ていました。さすがラスボス。久々に長い戦闘となることでしょう。でもあと10もないと思うのですが………
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