天を破りて・後B11
ヒナとシェリーとユリンが連携してEタイプを倒す方法は、動きが複雑なだけで案外単調だった。本部のエリートパイロットが個人でそれを可能にするのかと問われれば、不可能だろうけど。
まずユリン。パピヨンジャケットが発するビームの翼がEタイプの一部に触れると。ほんのちょっとの推進力さえあれば軌道を変える。二号機は触れるか触れないかのギリギリを見極めている。熱はビームの翼がうまく遮断していた。
とにかくそれを繰り返す。二号機は縦横無尽に飛び回り、複数のEタイプを誘導。火炎や雷撃も翼で受け流しては周囲のEタイプへ直撃させていた。
すると軌道を変えられたEタイプが傾倒していき、勢いを殺せず、周囲のEタイプと次々と衝突していくのだ。ユリンたちを殺すべく密集していたのが仇となった。
ガリウスGの武装では質量が違いすぎて、それこそバスターソードやブラスタージャケットでなければ重くて硬いEタイプを貫くことはできない。ところが、同じ性質を持ったもの同士が衝突すれば───両方、あるいはどちらか一方が潰れ、傷付き、裂けていく。
ヒナがロングソードでEタイプの解体ショーをしていた。ビームシールドで熱を防ぎつつ、裂傷から刃を突き立てては広げていく。二号機ほどではないが、苛烈なダンスだった。
そうやって傷を広げていくと、次々と玉突き事故のごとくEタイプが密集しては互いに互いを押し付け合い、脆くなった部分から崩壊していく。シェリーの五号機はその瞬間を見逃さない。どれだけ狭い内側であろうと、ほんの少しの隙間さえあれば露出したコアを狙撃する。
紙一重でありつつも、確実な駆除。誰にも真似できない。
ところがそこに、余計な邪魔をする乱入者が手を突っ込んだ。Kタイプである。400メートルからなるリーチは凄まじく、振り下ろされた拳は隕石を思わせる。
これは───ユリンのパピヨンジャケットであっても回避はできてもダメージを完全には殺しきれない。
『さっせるかぁぁあああああああ!!』
次の瞬間、俺は魂に火がついた剣鬼のごとく、あろうことかKタイプの巨大すぎる腕に単騎で挑んでいた。たまらずヒナたちが『エー先輩っ!?』と叫ぶも、ここまで生きてくれた3人を死なせたくない一心を維持していたため、その声を無視してしまう。
脳内チップが数秒で計算を終える。相対速度を合わせつつ、オールパーパスジャケットのワイヤーを掴むと、主翼の一端を担っていたブレードを引き抜き、最小限のダメージでKタイプの腕に接近してブレードを突き立てる。
剣尖から放たれる高圧縮ガスにより、内側から崩壊するKタイプの腕。ただし、これまでの的とは異なりその質量まで覆すことはできなかった。内側から爆発させたのだが、完全に消し飛ばすには放出するガスの量があまりにも少なかった。内側から弾けても半分ほど繋がっていた。
いや違う。これでいい。俺の計算は、あくまでヒナたちの生存を前提としている。Kタイプを倒すことではない。
振り下ろされた拳の軌道が逸れて、団子状になっていたEタイプの上に直撃。
やはりとんでもない化け物だ。Eタイプもかなり硬かった。先程まで大半が脆くなっていたとはいえ、一撃で6体は纏まっていたそれをコアごと粉々にしてしまった。
『っ………俺、よくあんなのと殴り合いしたよな。視点が違うだけで、Kタイプが怖くて仕方ねぇよ』
『グラディランドはKタイプよりも巨大だったゆえ、心理も優位に働いたのだろう。そしてお前の考えるとおり、質量が違いすぎる。Kタイプは無視しろ。ここで消耗していては、お前の体が続かない』
『ああ………わかってるよ』
Kタイプは平均して全長が400メートルだった。一方でグラディランドは全長500メートル。あの時は大人と子供の殴り合いのような印象だったが、搭乗機がたった12メートルになっただけで恐怖が増した。勝率で言えばリヴァイヴならオールパーパスジャケットを使えば勝てるだろうが、まだKタイプは左右にいる。気が滅入る一方だ。
『けど………』
『迷わないでエー先輩! 私たちは大丈夫ですから!』
ここでも憂いからくる躊躇いが、心を縛りそうになる。こんな巨大な敵に囲まれつつ、彼女たちはEタイプを潰さなければならないことに。
せめて俺だけでも残るべきかと迷うも、シェリーに先手を打たれた。
『エー先輩。はっきり言って、Kタイプは破壊力がとんでもないだけで、愚鈍だよ!』
『速度なら、私たちが負けるはずがないわぁ!』
どうやらヒナとユリンにも見抜かれたようだ。
左右のKタイプが腕を伸ばし、ハッとした時にはもうすでにファイターモードに変形した3機が離脱。
そうだ。失念していた。彼女たちが駆るガリウスGは改修型。可変機なのだ。ファルコンジャケットの両翼に搭載していたミサイルポッドはすでにパージしていた。重いし、序盤で撃ち尽くしたのだろう。身軽になりさえすれば、Kタイプの攻撃など戦闘機の形態となりさえすれば悠々と回避できる。
『っ………任せて、いいか?』
『うん! むしろ、エー先輩のお陰でKタイプの攻撃速度や初動を知れて助かったよ!』
『遅い敵が密集するだけで動きにくそうですし』
『Eタイプを潰すの、Kタイプにやらええてもいいかもねぇ。それにほら………援軍も来たみたいだしぃ?』
俺の彼女たちは勇猛果敢だ。ある意味、俺よりも勇気がある。
周りが見えていないのは、俺の方だった。
左のKタイプの頭部にバスターソードが突き立つ。直感でコアの位置を特定したソータのイレイザーが、螺旋の外縁軌道から俺に合流しつつ、Kタイプにとどめを刺した。
右のKタイプもロングソードや、なにか見えざる刃のようなものが貫通する。アークのタキオンとビーツのブラックイレイザーが組んで倒した。
そしてさらに右側。何回か周囲で目にしたエメラルドグリーンの閃光と───汚ぇ咆哮。
『美男子だらけの私の理想郷ォォオオオオオオオオオオッ!!』
酷い必殺技の名前もあったものだ。
そもそも必殺技なんてありゃしないのだけど。あったら欲しいけど。
シーナのやつめ。ライラを介して絶対強者に君臨した挙句、全男子の理想たる必殺技を会得しては叫び、暴れ散らかしていた。
エメラルドグリーンの燐光が撒き散るように見えたのは、ライラの手足が伸びて、なんなら俺のリヴァイヴの眼前を通過してKタイプ4体に触れると、妄想を垂れ流して自壊に追い込みやがった。
『お前さぁ………』
『ぁんだよ、文句あっか? モブカス。やんのかコラ。テメェの脳内チップも腐女子の理想郷に染め上げてやっか? ええんだぞコラ。Xタイプを前に踊り狂ってみっか? ぉお?』
過激派はおもちゃを得た途端に凶暴になるから困る。もう収集がつかない。
『ハァ………わかったよ。好きにしろよ。その能力、Xタイプにぶつけてやれよ』
『ハッ。それでいいんだよ。そいじゃあ、まぁ………』
Kタイプを半分減らし、後続の余裕を確保する。
クスドの戦術をすべてクリアした俺たち。
敵陣の最後尾にてふんぞり返っていた大将、Xタイプとついに対面を果たす。
『パーティと洒落込もうぜェッ!!』
絶叫するシーナ。
首魁を前に再集結した人類の主戦力4機と1体が、各々の構えを取り、いよいよ最後の戦いへと突入した。
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