天を破りて・後B09
『不思議と安定してるよな。お前ら』
最初こそハーモンとコウは犬猿の仲で、サフラビオロスにいた頃はいつも喧嘩ばかりしていたアウトローだったのに。
今では立派なパイロットとして、この戦争を終わらせるための戦力として、生きてここにいる。
ハナもオルコットのスパイだったはずが、裏切って俺たちの側についた。実力はヒナと同じだったし、継続してこの場にいてくれることが嬉しく、心強い。
『不思議とはな。言ってくれるじゃないか副隊長』
ハナが会話に応じた。
『そうか? でも特にハーモンとハナの組み合わせだよ。コウとはよく組むけど、ハナが入ってより安定した。お前がハーモンを御してるからか? それにしてもお前ら、いつからこんな仲良くなった? 俺がグラディオスに戻って少ししたら距離が縮まっててびっくりしたぞ』
『え、あっ、なぁ!?』
俺がふたりの距離が近くなっているのを知ったのは、アークに面会するために乗り込んだヘリのなかだった。そこではハーモンとコウでハナを挟み込む形で着席していたのだが、窓から見える風景に会話が盛り上がり、ハーモンが何気なく終戦後にその土地を訪れようと提案したことで、ハナが珍しく狼狽したりと、面白いものが見れた。
その時から、俺のファンとしてのレーダーが作動した。
ハーモンとハナの距離の近さと会話内容から、惹かれているのではないかと。
いやぁ。あれは面白かった。なにが面白いって、原作では両名とも戦死するし、そこまで絡みがなかったからカップリングとして成立する要素がなかったのだ。イラスト投稿サイトなどでもそんな組み合わせをする投稿者はいなかったくらいだし。
なんだかとても新鮮だった。それに決定的な瞬間となったのは、俺がみんなを裏切る形で去ってから、アンノウンの襲撃などの有事の際のため、しばらくドイツ支部のガリウスFにリモートで意識を接続している時、ハナがハーモンを頼るように寄りかかっていたシーンや、逆にハナがハーモンを励ますように頭を撫でていたシーンも見ている。
これでワクワクしない方が無理がある!
ああ、なんでだろうな。さっきから疼きが収まらない。
多分だけど、諦めていた推し活が、また別の形で、想定外のカップルを見たせいで再燃しているのかもしれない!
『水臭ぇじゃんかハナ。そういうことなら、俺は喜んでいくらでも協力させてもらうってのによ』
『くっ………これがシーナの言っていた、エース副隊長の推し活の狂気か! なんて厄介な!』
『あー。つまりだ? お前の気持ちは伝えてないわけね? そういうことか。わかった。それならいくらでも方法はあるからな! 俺に任せておけよ! どこぞのパイロットと整備士見習いだった男女を最短でくっつけてやった実績を信じろって!』
『や、やめろエース! 副隊長、貴様っ! 恥ずかしいからやめてくれぇ!』
案外、初心なところがあるのね。ハナって女は。歳は俺と同じで、でもどこか大人びていて達観してたところがあり、味方に引き込む際は勘違いして体を捧げようとしたポンコツみたいな一面と、従妹のヒナを重視するガチ百合勢みたいな部分もあるけど、根はシーナとほぼ同じだったってわけだ。
『エー先輩。ハナがなんなんすか? なにを任せるって………え? なんでハナはそんな慌ててるんすか?』
『違う! 私はなにも慌ててなんかいない! お前は前を見て飛べハーモン!』
『お、おう?』
愉快よのぅ愉快よのぅ。
まるで初恋を自覚した中学生のやり取り。いや高校生もこんな感じか? ならなにも不思議ではないか。
ハナに気圧されて、振り返ろうとしたハーモンは渋々と前を見る。
うーん。こりゃあ変態ソムリエ的な視点から鑑みれば………ハーモンにも若干の独占欲があるような? 少なくともハナについての印象は良い。だからハナと親しげにする俺に、牽制しようとしたと?
いいねぇ。そういうの大好き。面白え男女最っ高!
………とはいえ、今は最終決戦の真っ最中。いつまでも想定外のカップリングにうつつを抜かしてなどいられない。九号機と十二号機に牽引されつつも、改めて周囲を観察する。
接近するGタイプは九号機と十二号機を阻止できず、そうなると物量差でぶつけてでも止めようとするのだが、その動きを読んだハナがファルコンジャケットのオプションで懸架したミサイルポッドで迎撃する。全方位に対応しているハナがいるからこそ成立する突撃だ。
『俺もなにか手伝おうか?』
『いや、副隊長はこのままじっとしてくれていい。私たちはこの陣形を保ちつつ、あなたを前方へ送り届けることが仕事だ。このままあなたを、次の中継ポイントまで護送する! あと少しだ! 気合を入れろよハーモン! コウ!』
『おうよぉっ!』
『見えたぞ! 隊長たちだ!』
最短で敵陣を突っ切り、半分を過ぎて6割ほどに来る。するとハーモンとコウが割れて進路を開ける。俺に行けと言っている。
『死ぬなよお前ら! 帰って祝勝会だ!』
『そりゃエー先輩の方っすよ!』
『心配せずとも、この宙域を侵食してみせる!』
応えを返したハーモンとコウの気配が、爆発した。ゾクッとする。彼らは再び覚醒を駆使した。
覚醒といえば、パイロットの集中力や瞬間の判断力を加速させたりする効果がデフォルトであるが、その他にも個性が現れる追加能力が発揮すると今回知ることができた。
ハーモンとコウの場合はどうだろう。と2秒ほど観察すると、ヒナと同じくマネジメントだと判明した。ヒナはエネルギー効率を極限まで見極めることができる。それと同じだ。
タイタンジャケットは、高熱を発するアンノウンに対抗するため、重厚な装甲に冷却剤を備えることで、どのガリウスよりも長く近接戦を行うことができる。接近すればするほど消耗も多くなるが───ふたりはそれをピンポイントで探り当てることで、冷却剤の消耗を最低限まで抑え、より長期戦に臨むことを可能にしていた。
だからこそこれまでの常識である「アンノウンに近接戦を仕掛けることは自殺行為」を打ち破った。
体当たりを仕掛けるにも、重厚な装甲の一点に冷却を集中させることで、何度もアンノウンを轢き飛ばしている。後ろに控えるハナも安定した射撃を行える。
これがハーモンとコウの完成した姿。それを実感できただけでも、助けたことに価値があると思える。
敵陣の7割を突っ切ると、前方に特に派手な戦闘を行っているポイントがあった。
たった2機。七号機のシドウと、八号機のアイリである。
ふたりはすでに覚醒を用いていて、背筋がゾクゾクする原因は感覚のみならず、リヴァイヴのメインカメラから取り入れる視覚情報にもあったのだ。
なんていうか、凄まじいことになっている。
『すっげ………クククク………』
『遅いぞエース』
『ちょっと。なに笑ってるんですかエー先輩』
『いや、もう笑うしかねぇだろ。これ』
そう。笑ってしまうほどの圧倒的な戦力である。
なにがすごいって、シドウが得た覚醒の追加能力は、アイリと同じく脳波の拡張で、ここに来るまでアスティオールで量産したガンビッドをフル動員していたのである。1機につき30。つまり60機のガンビッドが宙を飛び交い、HタイプとIタイプを迎撃していたのだ。
ガンビッドはかつて、タキオンが製造される前に俺が使っていた攻撃特化改造したドローンカメラである。
それらを自在に操って、オールレンジ攻撃を間断なく仕掛け、アラスカ支部などで数多の被害者を出したHタイプや、最終決戦使用アンノウンであるIタイプにビーム砲を連射していた。
まさしく鬼畜みたいな所業である。
リアクションありがとうございます!
あと少しで完結です。今週中には終わります。どうか最後までお付き合いください!
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