天を破りて・後B06
《ケイスマン》
『なんだ?』
《………いいんだな?》
ビーツとの挨拶を済ませると、次にケイスマンの意志に語りかける。
俺とビーツは今、遠隔操縦でリヴァイヴとブラックイレイザーを操作している。
ビーツはともかく、俺はこうもすんなりと操縦を許してもらえるとは思わなかった。俺は死ぬつもりでここに来た。すべての能力を使って戦った結果、ケイスマンの意志はリヴァイヴを封印してしまったのだ。苦言のひとつでも呈されると予想していたのに、それがまったくない。少し気になって、確認を取ってみた。
『………少し前のお前なら、リヴァイヴを取り上げたままにした。しかし今、お前は死ぬためにこの機体に乗っているわけではないのだろう? 人間が人間たるべき理由を見定めた。そしてその志向、確かに見届けた。勝利するためにリヴァイヴに乗る。勝ち得て生きて帰る。それならば、なにも言うまいよ』
そうか。俺は延命措置を施されて、目標が変わったのか。
死んでもみんなを守るという以前の意地の塊みたいだった目的から、生きてみんなと帰るという、ネガティブ然としたものからポジティブ然としたものに変化したため、ケイスマンの意志が自ら封印を解いたと。
素直じゃないねぇ、この人工知能も。
『エース。再度確認する。リモートとはいえ、リヴァイヴに搭乗したのは生半可な覚悟ではあるまい。遠隔操縦とて、全力を出せば必ず悪影響が出る。それでも………お前は死ぬことを選ばず、己が体内に巣食う魔物から克己し、そして生きることを主とする。相違ないか?』
《もちろん。俺の命については未練タラタラだぜ》
『………ならば、いい。持っていけ。この機体のすべて』
命への執着。それは決して、機械にはできないことだ。命の価値は命を持つ者にしかわからない。
俺の情けない本心を聞き遂げると、ケイスマンはリヴァイヴのすべてを委ねてくれた。
右腕の義手のインターフェースはグラディランドと接続されたままとなっている。脳内チップだけではリヴァイヴは動かせない。あとはリモートに必要なもの、デメリットとなるもの、すべてをケイスマンの意志が解決してくれる。
やっぱり、俺といえばこれだ。脳内チップと義手。すべてはアイリを助けるため、彼女が負うはずだった負傷を、他の被害者含めてすべて背負った結果、極度の二酸化炭素中毒で脳死判定を受けた時から歯車が回り出したのだ。
それまでの俺は、まさか自分がパイロットになるだなんて思いもしなかった。スタッフロールにも正式な名前のないNPC、さしずめただの「整備士A」として微々たる活躍と大きな暗躍を繰り返して、裏から支えるのだと決意していたはずなのに。
それがいつしか、いやすべては偶然であり、そのいくつもの偶然が重なった結果、タキオンを手にして、そのパイロットとなってしまった。
笑えるよな。異世界転生して、なにもチート能力なんて与えられなかったモブキャラが、今じゃ主力のひとりだなんてさ。
『この世界に来て1年と数ヶ月か。長いようで短かったけど、充実した時間だったなぁ………』
『馬鹿言ってんじゃねぇぞモブオス。なに黄昏てんだ? 似合わねぇしキメェんだよテメェ。1年と数ヶ月で満足すんなカス』
『まったくだ。3年は過ごしてから感慨に耽ることだな。出来損ない』
こいつら………シーナとビーツは、いつの間に仲良くなったのかな?
そりゃあシーナとビーツは、俺よりも先にこの世界に来た。時系列なんてほぼバラバラで、なんなら俺とビーツの数日後に異世界転生したシーナの方が、俺よりも先にこの世界のドイツ支部にいたくらいだ。いったいどうなってんのかね。神様の気紛れ? なんのために?
『別に、何年こっちの世界で過ごした方が偉いってわけでもねぇだろ』
『そうだね。そんなの俺たちには関係ない。エー先輩が俺たちの近くにいてくれる今と、未来がすべてだ』
そんな俺を慰めるように、ソータが通信に割り込んだ。
リヴァイヴとブラックイレイザーの隣に、ライラが並んだと思えば、数秒後にはミチザネ隊が俺たちの周囲に集まっていた。
『これまた………懐かしいな。また一緒に戦えるとは思っていなかったけど』
俺の前に展開する14機。ガリウス二号機から十三号機。イレイザー。タキオン。ついでに隣にライラとシーナ。
原作ではイレイザーと七号機と八号機とタキオンしかいなかったのに。10機も最終盤まで生き残った。これはすごいことだと我ながら感心する。壮観の一言だ。
『実を言うと俺もさ。お前がリモートでリヴァイヴを出撃させるとは思わなかった。………エース。そこにいる因縁深き黒いイレイザーだが、この戦いにおいては信用していいのだな?』
シドウの七号機が頭部だけでブラックイレイザーを一瞥する。ここにいる全員が同じ疑問を抱いていただろう。
『この戦いにおいては、という限定的な条件ですが。でも主力のひとつとカウントしても問題ありません。なーに。裏切り行為をした瞬間が、こいつの最後だ。全員で星屑にしちまえばいい』
『あらぁ。それはいいわねぇ。いつかのお返しができそぉ』
ユリンはコクピットのなかで瞳を怪しく輝かせる。
以前は、ドイツ支部とアメリカ支部との、愚かしいこと極まりない戦争に発展したあの事件にて、ユリンたちは危うく暴走したビーツに絞め殺されるところだった。ユリンのことだ。あの時のことを忘れるはずがない。むしろ「早く裏切らないかなぁこいつ」と変な期待をしているだろう。
ダークネスジャケットとかいう刺々しい新装備を誂えたブラックイレイザーは、またもや一筋縄ではいかないだろうが、ユリンもまた覚醒を使えるというアドバンテージを確保した。これは正面からぶつかっても勝負がどう転ぶかわからない。
『………ビーツ艦長』
『お前はまだ俺を艦長と呼ぶのか? 俺はお前を使い捨てにしようとしたんだぞ?』
あの戦争で、ビーツはアークを道具然として扱った。その前からビーツは心身共に異常が出ていて、さらにアークもシーナの毒牙みたいな精神攻撃でまともといえるコンディションをしていなかった。
その前ならアークはビーツを、縋るしかない上司として認知していただろうが、約束を破った上にソータを殺すよう命じられ、普通ならここで絶縁を宣言されてもおかしくなかった。だってアークは、グラディランドに突入した時アリスランド側のブリッジには行かなかったし。俺のところに来たくらいだ。
だから、アークがまだビーツを艦長呼ばわりしている件については、俺も多少なり驚いていた。
『確かにあなたは、僕にそこまで良くしてくれなかった。エー先輩と比較すれば雲泥の差だ。エー先輩は僕の兄貴になるって言ってくれた。とても温かいひとだった。………けれど、それでも、暗闇のなかにいた僕を、そこから引っ張り上げて、ソータに会わせてくれたのはあなただから。初めてひとりの人間として扱ってくれたのもあなただ。だから、そこは………感謝してる。お世話になりました。ビーツ艦長。その挨拶をしておきたくて』
『生意気なクソガキめ。………まぁいいさ。この戦いが終わったら、お前の心が言うままに、どこへなりとも行ってしまえ』
素直ではない言動をするビーツ。しかし脳内チップが伝えてくれた。ビーツは多少なりとも寂しがっていると。
けれどもこの戦いが終われば、もう原作から解放され、原作破壊行為も無関係となる。劇場版の予備知識もないし。ビーツも心のままに動くだろう。無罪で済むとは思えないけど。
それでも部活の巣立ちを惜しむ、人間らしい感情を持っているのだと改めて知った。
前世では、1年生の頃に「4年生の追いコンなんてなんの興味もない」と豪語していたくせにね。
リアクションありがとうございます!
さてさて、終盤ですね。もう少し膨らませたいところ。土日は完結のために突っ走りたいと思います!
日曜日に2回更新したいと思います。完結は来週になるでしょう。いよいよお別れの時です。
作者からのお願いです。
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