天を破りて・後B05
意識を取り戻す。
まだ戦闘は続いていたが、ブリッジにいた全員が息を荒げていた。
多少混乱してはいたが、指揮系統は生きている。クランドは数秒前の現象の理解よりも先に、迫り来るアンノウンの対処を優先させた。それがなければパイロットたちが駆るガリウスが狙い撃ちされていた。
「時間にしてたったの10秒………被害報告急がせろ! なにか不備があってからでは遅い!」
「はい!」
オペレーターを総動員してグラディランド・フルブラスターのチェックをさせる。
原作では1分ほどの幽体離脱を経験し、無防備になったところをアンノウンに襲われて被害が続出した。
なんとか間に合ったようだ。さもなくば、俺も死んでいたかもしれない。
けれど、賭けに出た甲斐はあったようだ。レーダーに確かな存在がある。オペレーターがそれを察知するのと、俺が認知するのは同時だった。
「艦長っ」
「どうした!」
「Xタイプ出現! 今度こそ、はっきりと確認できます!」
「よし! ………いや、なぜこんな時に? まさか………お前か? エース」
あれだけ好き勝手にしていれば、俺たちが暴れまくってXタイプに悪影響を及ぼしたなどすぐに判明するよな。
クランドが横から俺を見る。俺は口元だけで笑みを浮かべた。
『まぁ、そんなところです。今のはXタイプの特殊能力のひとつで、感応現象って呼んでます。正式名称は知らないんですけどね』
最終回視聴後、すぐにこの世界に飛ばされた俺は、公式からの説明や考察勢の分析を見る時間がなかったからな。ビーツと会話して、この名称が決まった。集団催眠という案もあったが、そのままというのもね。
『それより艦長。今がチャンスです。展開的にXタイプがまた隠れることはなかったんですけど、隙を見せれば、また同じ現象を誘発させる可能性もある。だから………こちらも最大戦力で打って出ます』
「あ、ああ。そうだな。ならばイレイザーを中心に………待て? エース。お前は今、最大戦力と………まさか」
勘のいい男だからな。クランドは俺がしようとしていることを察知したらしい。
『クスド』
「は、はい」
なにか言われる前に、クスドの端末にアクセスして直接語りかける。
『お前はすげぇ奴だ。俺が知っているアニメの世界じゃ、もうお前は死亡していて、まともな作戦なんて無くて、それでもグラディオスはXタイプに挑んだんだが………大したもんだよな。お前がいるだけでこんなに違った。常に安定してるもんな。いや、すごいのはこうして駆け付けてくれたみんなもなんだけどさ。でもこれだけの、コーネリア少将の艦隊まで巻き込んで作戦を立案できるのは、お前だけの確かな才能だ。自信持てよ』
「エー先輩………?」
『クランド艦長。オペレーターのみんな。トーマス。アスティオールにいるグラディオスクルー。パイロットたち。みんなのお陰で延命できたし、これからもそう簡単に死ぬつもりもないけど、もしかしたらってこともあるからな。………お世話になりました。生きてたら、またどこかで会いましょうや』
「エー先輩っ!?」
「待て! よせエース! 行くなっ!」
いいや、行かせてもらう。なんと言われようが。これが俺の最後の仕事だ。
アリスランドのブリッジも騒がしくなっている。ビーツがしおらしいこと言ったせいで阿鼻叫喚としているのだろうけど。
それから俺とビーツは、クランドや周囲の人間が手を伸ばし、触れるよりも先に意識を内側へと飛ばした。肉体との繋がりが虚弱になるが、完全に放棄はしない。それをすれば生命活動ができなくなる。俺たちがこれからやろうとしていることが、できなくなる。呼吸と心臓の鼓動さえできていれば、それでいい。
ガクンと項垂れる俺をクランドが伸ばした手で受け止めて、なにか叫んでいる。でも今は応じる時間がない。
内側に潜った意識は、グラディランドを中継し、とある区画へ。
「グラディランドの区画………左腕と左足で熱源発生!」
「なに!? 内側だと!? 待て? 確かそこには………!」
魔改造を施したグラディオス改とアリスランドの合体艦であるグラディランドの設計図を所有し、アスティオールをさらに合体させるという頭のおかしい発想に至るくらいだ。クランドなら、その区画がなんなのか、なにを意味しているかくらいわかるだろう。
ボンッ───とクランドがなにかを指示する前に、ハッチが弾け飛ぶ。緊急脱出用のそれを、まさか今ここで使うことになろうとは。
次の瞬間、グラディランドの腕と足より、灰色と漆黒の機体が解き放たれた。使う予定もないので、封印していたのだ。
《………覚悟はできたか? 楠木》
《当たり前のことをほざくな。小此木》
グラディランド・フルブラスターの目前に移動し、向かい合う。
灰色を主体に赤いラインを入れた機体。俺だけのオリジナルガリウス。本編には無い異物。リヴァイヴ。
漆黒に統一された機体。ビーツが作ったオリジナルガリウス。本編にふたつと無かった異物。イレイザー。
《なんかイメチェンした?》
《ソータのイレイザーと差別化するべく、ブラックイレイザーと名をつけるために必要だったんでな》
雌雄を決したあの日、ビーツのイレイザーはネイキッド状態だった。ソータのイレイザーもネイキッド状態であったが、その日のために俺はソータのイレイザーにオリジナルのジャケットを製造した。それがビーツの度肝を抜いた。俺が合流後、俺とソータ、ビーツとアークが組んで4機がドッグファイトを行うと、ビーツはその性能に心胆を冷やしただろう。
ビーツは感応現象を打ち破った俺を天才と呼んだが、俺はどちらかといえばビーツの方が天才だと思う。
俺は目前の問題しか見えていなかった。いくら範囲を広げようが、やはり目の届く範囲しか意識できなかった。
しかしビーツは違う。ビーツの視野は広すぎる。目が届いていないにも関わらず、まるで目視しているかのように遠くまで問題を解決してしまうのだ。
そんなビーツは最終決戦において、スピンオフにまで着手し、クランドたちを宇宙に導いただけでも驚愕したのに、自分の機体も改修していたのだ。
なにより特徴的だったのが、ブラックイレイザーにジャケットを纏わせていたこと。妙に全体的に刺々しくなって見える。
《なんだそのジャケット。なーんか………既視感があるような?》
《ダークネスジャケットだ。俺のイメージしたイレイザーは、決してお飾りではなく、ソータのイレイザーにも匹敵し、そしてお前のその機体にも劣らない。そのために作り上げた最終決戦装備だ》
《ブラックとダークネスって………中二病かな? まぁいいや。その外見からなにしたいのか大体理解できたし》
《リヴァイヴとオールパーパスとかける、とっておきの中二病にだけは言われたくはない。お前のような劣った頭脳で、俺のイメージの全体像を捉えることができるかは不明だが、できるものならやってみればいい》
一通りの挨拶を済ませ、リヴァイヴとブラックイレイザーはゆっくりと旋回する。
目前に広がる戦争の布陣。現れたXタイプ。すべてを解決するために、シーナとライラという原作にはない組み合わせに感覚されたように、俺とビーツという原作には絶対に登場しない2機を馳せ、戦線を俯瞰した。
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