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天を破りて・後A09

 ~ソータSide~


 エー先輩はすべて知っていた。その上で改善を行ったと、シーナから教わった時の衝撃は、今でも覚えている。


 俺にとってエー先輩は、どんなひとだっただろう。俺がアスクノーツ学園に入学してから、知る機会があった。パイロット科から整備科に移ったエー先輩は、実技で使用したマシーンの整備をしてくれたからだ。


 サボり癖という共通点もあり、俺はすぐエー先輩と打ち解けた。効率の良いサボり方なんて教わった翌週には、もう俺の方がエー先輩より効率よく昼寝ができていたのだけど。


 でも………そのエー先輩と、今のエー先輩は別人だった。


 エースケ・オコノギという男の魂と人格が入ったと知って、それはもう驚いた。俺は疑いもしなかった。なにも変わってないし、前のエー先輩もよく俺たちを庇ってくれたり、守ってくれたりしたから。人格がすり替わろうと無茶をする癖だけは変わらなかったし、疑問に思うこともなかった。


 俺はどうすればいいのだろう。どうするべきだったのか。


 この数ヶ月間、悩みに悩んだ。


 アイリにも相談した。アスティオールは思っていたよりも広く、居住区も拡張され、グラディオスとアリスランドのクルーを乗せても問題なかった。それにこれまでの戦績を評価してくれた連合軍が、俺を少尉にしてくれたこともあり、士官室を正式に貸与された。アイリは何回か訪れてくれたので、悩んだならば誰かに相談して解決するというこれまでのスタンスを実行した。


 アイリも同じことを悩んでいた。特にアスクノーツ学園出身の学徒兵なら、絶対に行きつく疑問だとも言っていた。


 もちろん、すぐに解決する問題ではなかった。


 そこで俺たちは、ベッドでふたり並んで、寝落ちするまで語り合った。


 エー先輩との思い出を。アンノウンに襲われる前は、面倒見がよく、なにかと声をかけてくれる先輩という認識だった。けどアンノウンの襲撃を受けたあの日からエー先輩は変わった。今でこそ「狂人」とかいう称号を与えられているけど、その片鱗を見せるような、迷いのない大胆さと、過剰なコミュニケーションが目立ち始めたという認識が強くなった。


 会話の途中、俺にいきなりキスしようとしてアイリの嫉妬を駆り立てたりと、なにかと俺とアイリが密着するような環境を作り出すことに躍起になって特化しているような立ち回りだった。


 シーナも言っていたな。エー先輩は「天破のグラディオス」というアニメ? で俺たちを知って、傷付きながらも進むことに憂い、やっと手を繋げるようになった俺とアイリに感動したと。俺とアイリのカップリング? とかいうのに夢中だったと。


 結局のところ、この戦いが始まる前と後とを比較して、どちらのエー先輩も良いひとという評価が出る。


 しかし、より好感を持てたのは、グラディオスに乗った後だった。


 それまでただの学校の先輩という認識から、少なくとも俺は兄のように感じていたのである。俺はそれまで家族というものを知らず、幼馴染のアイリが近くにいたから、それが当然のように思えていた。そんななにひとつとして変わらなかった日常が崩壊し、戦争という非日常的な日々とストレスフルな環境で、俺たちはいつ壊れてもおかしくなかったのに、エー先輩はいつでも俺たちを助け、救ってくれた。


 より親身になってくれたのは今のエー先輩だ。


 エー先輩は俺たちの一部となり、中心となった。ただの整備士だったはずが、大切なひとになった。


 少し考えるだけでも道理だった。エー先輩が俺たちにくれたものを考えれば。


 そんなエー先輩がいなくなった時が何回かあった。たったひとりを失うだけだったのに、それだけで俺たちは崩壊の危機を迎えた。


 その時痛感した。なんで守れなかったのだと。


 俺たちが俺たちでいるために必要なひとこそ、エー先輩だった。


 考えるまでもなかったんだな。とアイリと笑い合う。苦笑に近かった。だから追いついたら絶対に助けようと誓う。


 そして、今───



「エー先輩に、近付くなぁあああああああああ!!」



 やっと追いついた宇宙にて。


 グラディランドという合体艦に乗り、瀕死だったエー先輩に接近する、400メートルもあるアンノウン、Kタイプを目視。山のような巨体を前に、俺は微塵も怯まなかった。


『行ってソータ! 援護する!』


「頼む!」


 アイリと組んだ俺は、彼女が脳波で操るガンビットのダイレクトサポートを受け、Kタイプに挑む。


 新型がいることは聞いていた。Eタイプよりも巨大なタイプかもしれない。それゆえにイレイザーにはバスターソードを懸架して出撃したのだが、クスドの予想は本当によく当たる。


 エー先輩をサポートする人工知能から共有した情報で、ハルモニがKタイプと呼称する巨人を相手にするなら、やはりバスターソードが効率がいい。ロングソード3本を分解してひとつにしただけはある。質量と速度と出力を絶妙なバランスで保つことにより、あのEタイプの特殊固体を討伐した時よりも迅速にKタイプを解体することができた。


 なにもかも経験によるものだ。エー先輩が与えてくれた。それが今の俺を、俺たちを支えてくれている。


「アイリ!」


『なに?』


 Kタイプ討伐のタイムレコードを毎回更新する勢いで突破しながら、俺はあとに続くアイリに問いかけた。きっとエー先輩なら脳内チップを使って聞いていると信じて。


「この戦いが終わったら、結婚しようか!」


『は、ハァアァァアアッ!?』


 俺のなんの脈絡も突拍子もない衝撃的なプロポーズに、アイリが面白いくらい狼狽する。危うく、コントロールが乱れて追従しているガンビッド同士が衝突しそうになったくらいだ。その他にも通信越しに様々なリアクションが返る。祝福ついでにもてはやしたり、戦闘中に不謹慎だと叱責されたり、あるいはアイリみたいに慌てたり。でもなんでだろう。リアクションのなかには『ヂッ!!』とネズミの威嚇する時の声みたいな舌打ちが聞こえた。誰だろう?


『ど、どさくさに紛れて、なにを言い出すのよソータ!! 気紛れにもほどがあるじゃない!』


「え、別に気紛れじゃなかったんだけど。真剣に将来を考えて………あ、そっか。婚約の方がいいのかな?」


『それ、今する話しじゃないでしょ!? いったいなに考えてるのよ!!』


「ん? ああ、どうせこの宙域の通信を聞いてるエー先輩が喜んで、飛びあがるくらい回復しないかなぁって期待したんだ」


 多分、この戦いが終わったら、怒った艦長の命令で、焦るくらいの量の始末書を書かされるのだろうけど、関係ない。エー先輩ならきっと聞いているはずだから。


 それに賭けた俺は、もちろんアンノウンの討伐にも気を抜かず最前線を飛ぶ。


 するとアイリもちょっとだけ共感してくれたのか『もう』と笑いながら後ろに続いてくれた。


『冗談を言うにも、時と場所を考えてよ』


「別に冗談のつもりなんかないよ。エー先輩のことは関係なしに俺、アイリとの将来を真剣に考えてるんだけど? 家族なんて身近にいなかったから漠然としたイメージしかなかったんだけど、でも最近になってやっとわかったことがあるんだ。だから俺、アイリと近いうちに結婚しようと思うんだけど、ダメ?」


『ッ、ア゛!? そ、ソータ!? な、なんでそんなことをサラッと言っちゃうかなぁ!? グラディオスクルーだけじゃなくて、アリスランドだったり、コーネリア少将の部隊だって、みんな聞いてるのにぃいっ!! よりにもよってなんでこんな時にいつものボケを発動しないで、真面目なことを言うのかなあ!!』


「え? 違ったの? じゃあ結婚も婚約も、なし?」


『いや結婚も婚約もするけどぉおお! って、なに言わせるのよぉおおおおおお!!』


「わ、うるさっ………」


 ダメだ。またアイリを怒らせてしまった。


 やっぱり異性との向き合い方や、付き合い方って難しいね。エー先輩は、よく3人と同時に交際できると感心した。


 でも言質は取った。エー先輩の言うとおりだった。証人はここにいる全員。これでアイリは言い逃れはできない。


「どうせそこで聞いてるんでしょ? エー先輩。えっと、なんて言ったかな………あ、そうだ。仲人? ってやつになってもらいたいからさ。こんなところで死なないでよね? ずっと俺たちの近くにいてよね? エー先輩」


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