天を破りて・後A07
4基のダブルリアクターシステムをツインリアクターシステムで運用する発想がおかしかった。というか、もうその時点でツインリアクターシステムじゃないし。
なんていうのかな。ちょっと算数が苦手な小学生の男の子が口にする「ぼくの考えたさいきょーのロボット」の内部システムを実現したみたいな、いやはっきり言って実現させるようとするだけで馬鹿なのかと表現したくなる、夢のような、というか夢を実現した動力源だった。
もう笑うしかねぇよこんなの。俺が必死こいて考えたプランを超えてくるんだもんな。元凶のビーツは言いたくもないが恩人として昇格するが、それだけでは癪なので本当に嫌な奴という認定もくれてやろう。
「アスティオール、グラディランドに装着完了。大型レイライトリアクター、正常に稼働。グラディオスに装着したパーツも、接続を確認。各部異常無し。グラディランド・フルブラスター、いけます!」
3隻合体した結果、全長が600メートルにも及ぶという想像もしなかったサイズとなる。平日午後7時に放送している子供向けのロボットアニメの最終局面でもこうはならない。こんなの、全国の小さいお友達に夢を届けられる規模じゃない。きっとキッズたちが見ても理解が及ばない。俺でさえ絶句したもん。この超弩級のクソデカ合体艦に。
火力と推力と防御力がグラディランドの倍あるとか、頭おかしいって。ああ、だからカイドウがあんなにはしゃいでたわけね。俺が驚く結果になるとか言ってたような? もう驚くとか、そういう次元じゃないんだわ。もう呆れを通り越して感服の領域となる。馬鹿じゃねぇの? って。
奇跡の3隻合体艦の名称が「グラディランド・フルブラスター」ね。かっこいいけどさ。
なんか………俺、踏み台にされた気分? いや、これが欺いてしまったみんなからの報復だとするなら、甘んじて受けるけど。
「コーネリア少将の艦隊が、中央から左右に分断しました!」
「道を譲ってくださったのだ。全艦、このまま最前線に突入開始!」
前方の艦隊が左右に移動したところに、グラディランド・フルブラスターが突撃を仕掛ける。
出撃したガリウスG部隊、イレイザーとタキオンを伴って、広く戦闘宙域を拡大した空間に飛び込んだ。
「クスド! 戦術を全機に共有! コーネリア少将も、お前の戦術になら従うと仰った。遠慮なく使い倒せ!」
「了解!」
クスドの戦術が瞬時に連合軍に共有される。
俺もその全貌を脳内チップでキャッチして展開し、脱帽する。
「へ、へ………」
「エース? なにを笑っている?」
「あ………」
感心した直後、金属化が若干治りほぐれた筋肉が動いて、俺は無意識に笑っていた。
隣に座るクランドが訝しそうに尋ねる。クスドも構築した戦術に穴が発見したのかと、不安そうに振り返った。
『いや、すみません。なにもおかしくないんです。クスドも戦術も相変わらず冴えていて。満足してますよ』
「なら、なぜ笑う?」
『嬉しくて』
「嬉しい?」
声にならない掠れた声で笑うのが精一杯だったので、応答はスピーカー越しに電子音声を使う。
俺が嬉しいと言うと、クスドは安心して微笑を浮かべるも、クランドはまだ俺の意図が理解できていなかったので、より踏み込んでくる。
構いやしない。もうすでに、シーナから俺がこの世界の、アニメのファンであると露呈されているし、なにより俺がやってきたことの意味も、すべて晒されている。隠すことなく、心の裡を告げた。
『原作第25話………まぁ、ついさっきまでのことなんでしょうけどね。敵の規模はこれより少なかったけど、それでも大多数を少数精鋭かつブレインを欠いた状態で討たなければならなかったんです。クスドはもういなかった。頼れるのは自分と、少なくなった仲間たち。そこでソータは無意識に呟くんですよ。それがとても印象的だった』
「その世界のソータは、なんと?」
『ここに、みんながいてくれたらな───と。まさに、さっきまでの俺の心境だ』
「そうか」
クランドはすべて理解してくれた。イメージとして極限の少数精鋭で挑んだ俺を選んだのが正解だったのかもしれない。
そして、自分は当然他人にも厳しく、優秀な代わりにあまり感情を面に出そうとしないクランドは、珍しく柔和な笑みを浮かべて右手を伸ばし、俺の頭の上に置いた。
「大丈夫だ。私たちが来た。もうお前はひとりではない」
『………はい。艦長』
ひとりではない。それがどれだけ心強いことか。
これまで何度か孤軍奮闘しなければならない時があったが、その時も必ず仲間たちが駆けつけてくれた。今回も、今度こそはもうダメかもしれないと諦めたのに、クランドたちは俺の願望を裏切って、ビーツの用意した予防策により宇宙に上がって駆けつけた。
結局、俺はみんなを助けるつもりで暴挙を働いたのに、裏切ったのに、最後にはみんなに助けられてしまった。
絶対に望んではいけないのに。この厳しい戦いで多くの犠牲が出るかもしれないのに。それなのに俺は、隣にクランドがいてくれることに、とても安心している。
こんなの俺が望んだ狂気たる推し活ではない。でも、結局は狂人という不名誉な称号を与えられたとしても、俺もひとりの人間だから。機械ではないんだ。非効率で不合理であっても、そこに最善という小さな光があれば、縋ってはいけないとわかっていながら、縋ってしまうんだな。シーナに女々しく心境を吐露したら「馬鹿じゃねぇの?」と一蹴されそうだ。
ならば、俺も最善を選ばなければ。
《ビーツ》
《あ?》
《体の調子はどうよ》
《すこぶる健康体そのものだ》
《適当ぶっこいてんじゃねぇぞカス野郎。意識が朦朧としていた分際で、強がってんじゃねぇぞクズ》
脳内チップの共鳴にて、クランドやハルモニに聞かれない、ふたりだけの会話を続ける。
《そういう貴様は、あと少しでくたばるところだったのにな。あのシーナとかいう貧乳猿め。余計なことをしてくれた》
《好きなだけ言ってろよ。この戦いが終わったら、お前はシーナにボコされることが確定している。なんか、前世でシーナはお前に間接的に恨みがあるんだってよ》
《あ? どうせ前世でも変わらず貧乳ネズミだったんだろ? 幼児体型など抱く気にもなれんが》
《シーナが働いてた工場に就職した新卒の後輩がいたらしい。可愛がってたんだと。で、ある日の合コンでお前にお持ち帰りされて、散々遊ばれて捨てられた影響で鬱病になって退職したんだってさ。お前、本当にクズだよな》
《………ああ、なんかいたな。そういう女。あの女の先輩だったのか。なるほど。因果はあるわけだ。まぁ、だからとて簡単に殴らせるつもりはないが》
《先に頭でも下げておけば半殺しで済むだろうよ。………って、そうじゃねぇよ。今後の俺たちについてだ。クスドの戦術は共有したな? 問題は───》
《………Xタイプだな》
《ああ。Xタイプはまだなにか隠してる。いざとなったら俺たちで対処するしかねぇ。今のうちに力を貯めておけ》
《ふん。言われるまでもない。癪に障るが、また貴様と手を組む必要があるということか》
俺だって、できるならもうビーツと組みたくはない。
しかし、それでもビーツを利用しなければ厳しい戦況に突入するだろう。そのためなら、俺たちは手段など選んではいられないのだ。
《それから、中盤の感応現象だけど》
《わかっている。俺とお前で打ち消す》
友軍の最大の危機に陥りそうな心配な要素がひとつだけある。俺たちは、その対策も同時進行で行う必要があった。
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