天を破りて・後A04
第3の転生者であるシーナは、最初から最後までのストーリーを知り、裏設定も熟知し、頼りになる存在であったが、趣味に没頭する傾向にあった知識であったため、どうしても俺とビーツの間には入れず、どちらかといえば一歩及ばず、ずっと俺たちの後に続いて進んでいるという印象だった。
それでも彼女は成長を遂げた。俺が認めている部分もあるし、彼女しか知らない部分もあった。
そして今回のことで、俺は認識を改めざるを得ない状況になってしまった。
ついにシーナが俺に並んだのである。
原作にはない自分だけの展開を作ることができた。ライラと同化してアンノウンの体内に吸収され、戦力として数えられるようになったのもそれだ。だがなにより、グラディオスを封じられていた環境にも関わらずに足掻き続け、活路を見出した。
俺を出し抜いたのがその証拠だ。俺はここで死ぬはずだった。その運命には抗えなかったのに、シーナが運命を捻じ曲げてしまった。
俺の「武士道とは死ぬことと見つけたり」という極端すぎるほど男くさい哲学を「知るかバーカ」と一蹴してしまったのだ。
「………シー、ナ」
「喋れるようになったな。イチかバチかの勝負だったけど、成功してよかったよ」
え、つまりなにか? こいつ成功するかどうかもわからず、ライラの血で作った血清をぶち込んだのか? いや、臨床実験のしようがないことはわかっているけど。知識のなかにあった症例だけで賭けに出たのかよ。相変わらずのぶっ飛んだ度胸だな。
『お前の発想には驚かされる。ライラに左腕を治してもらったことはあるけど、ダイレクトにライラの血で作った血清みたいなものを注射されるとは思わなかった。いやそれ以前に、お前ライラと同化したのかよ』
「まぁな。私自身、ここまでうまくことが運ぶとは考えてなかった。精々、その場しのぎとかさ。けど予想以上の効果があってよかったよ。………よくも好き勝手してくれたな。会えたら何発かぶん殴ってやるって思ってたけど、殴ると私の指が折れそうだ。命拾いしたな?」
『………そうかい。一応感謝しておくよ。俺の体についてはな。けどライラの件はまた違うからな? 聞けば、お前の英才教育と妄想が形になったっていうじゃないか。ド腐れ悪魔ハムスターめ。ついにお前の影響がモロにライラに影響しちまってるじゃねぇかよ。説教したあと拳骨でもくれてやりたいけど、まだ腕は動かない。命拾いしたな?』
口のなかが乾いていたし、筋肉まで硬直してうまく声が出せなかったので、電子音声に切り替える。こりゃしばらく、また声の出ない生活になりそうだ。けど、生きられるというのなら。
再会して、早速悪罵の応酬をする俺とシーナ。シーナはフフンと鼻を鳴らす。
それでいい。俺とシーナは対等だ。転生者としても。実力からしても。
『………艦長。ご迷惑をおかけしました』
「言うな。今は、今だけはそのことは言わなくてもいい。せっかくまだ生きられる可能性が大きく現れたんだ。余計な心配はしなくていい。私は、お前のような子供………というわけでもないのだろうが、それは前世の話で、今は精神年齢だけ大人なのだろう。そのような勇気ある者に敬意を示す。その覚悟、これから私たちが引き継ぐと同時に、共にこの苦難を乗り越えてようじゃないか。この戦いが終われば、ひと段落つくのだろう? きみは療養して、そして改めて戻ってくればいい。そのためにも、勝つぞ。エース」
『………はい。ありがとうございます。艦長』
謝罪すると、クランドは俺の肩に手を置いて微笑する。
クランドが聖人君子みたく思えた。この領域に達すると、ある程度の悟りを開けた賢者のような精神力を養えるのかもしれない。
嬉しかった。もう二度と会えないと思っていたグラディオスクルーとの再会。欺きに対する恩赦。そして再び共に戦えるという事実。
俺はまだここにいる。それを実感できる。
声は出せないが、わずかに開いた右目だけを動かして、周囲を見る。
みんな驚いて、そして安心して、喜んでいた。
『みんな………ごめん。悪かった』
「本当っすよ。マジで俺らの寿命まで縮むところだったじゃないっすか」
「私も思うところがあったが、ここまでとはな。なら、言いっこ無しだよ。副隊長」
俺にできるのは精一杯の謝罪だ。こんな言葉しか出ないが、それでも届いたらしい。ハーモンは深く息を吐いて、目に涙を浮かべていた。そんな彼に、ハナが手を伸ばして頭を撫でながら苦笑する。
「だがジグのようにならなくて、本当によかった………」
「謝罪をするのはこちらです。エー先輩。僕は………エー先輩の覚悟も知らず、暗殺なんていう愚策を………」
「俺たちは、お前のことを知ったつもりでいるようで、なにひとつとして理解できていなかった。済まない、エース。そんな姿になるまで戦っていたなどとは………」
コウ、クスド、シドウが述べる。
「でも無事で、少しだけ元に戻ってよかった………んですよね?」
「当たり前じゃない」
「これで副隊長が戻ってきたってことだし」
「ミチザネ隊復活ね」
アレン、キルカ、ナリヤ、マイアが喜ぶ。
「エー先輩。この戦いが終わったら、ちゃんと治療してよね? 俺………エー先輩がいない世界なんて、やっぱり嫌だ。エー先輩の前世とか関係ない。転生者だろうが、俺たちを守るためにしてくれたことは事実だから。それが罪だっていうなら、一緒に背負うよ。いくらでも。だから………勝って帰ろうよ。そのためなら俺、全力でこの戦いを終わらせてやる」
「まだ信じられない部分がありますけど、私が負うはずだった怪我の身代わりになったっていう、その右腕とか………死ぬはずだったみんなとか………うん。エー先輩がどれだけ必死だったか、ちゃんと見てましたから。改めて信じます。助けてくれてありがとう。エー先輩。私とソータが仲良くするのが薬だって言うなら、その、かなり恥ずかしいけどあとでちゃんと見せてあげますから、生きてください!」
「僕はあなたにもらってばかりだ。新しい居場所。仲間。家族。戦う理由。生きたい理由。恩を返す前にあなたは去ってしまったけど、またこうして会えた。まだ恩を返すチャンスがある。ここからは任せてよ。僕もソータと同じだ。こんな戦争、とっとと終わらせる。僕のもうひとりの兄貴になってくれるひとを、死なせやしない!」
ソータとアイリとアーク。俺の大好物たちが嬉しいことを言ってくれる。なら是非とも俺の目の前でイチャイチャさせてやろう。ビール片手に鑑賞会だ。ド変態の極みと蔑まれても、この推し活はやめられない。
「信じてあげられなくてごめんなさい。エー先輩。もう、絶対に離しませんから。大好きです」
「私たちを騙してまで助けようとしてくれたひとの愛を否定するつもりはないわぁ。だからね、今度は私たちの愛を受け入れてねぇ。治療に何年かかろうと、最後まで付き合うわぁ」
「エー先輩がどんな姿になろうと、私たちはいつでも一緒だよ」
シェリー、ユリン、ヒナが抱擁してくれる。金属化した皮膚では感触が伝わらないが、温かい。
俺はやっぱり、これが欲しかったんだ。
映像で見た時よりも、さらに感情が戻ってくる。やっと動くようになった右目から、静かに涙が滴り落ちた。
「お久しぶりです、クランド艦長。感動の再会に水を差すようで申し訳ないんですけどね、前線が押され始めています。そろそろこっちも動かなければ!」
一区切りついたところでトーマスが叫んだ。確かに戦況はあまりよろしくない。こちら側にも被害が出ている。
クランドは表情を引き締め、トーマスに相対しながら、副艦長の席に座った。
「トーマス。きみにも最大の感謝をする。エースがここまで生き永らえたのはきみのお陰だ。リヴァイヴの時もそうだったな。………わかっている。コーネリア少将の艦隊とて、これだけの物量差では厳しいだろう。各員、配置につけ! ここに来た者たちで、この機体を操縦する! トーマス、申し訳ないがきみはこのまま操舵士として、その席にいてほしい。グラディオスの操舵士はアスティオールの操縦がある。いけるか?」
「アイアイサー。やってみせます。………んで、えっと………このあと、どうするんです?」
臨時と暫定でグラディランドの操舵士を任命されるトーマス。しかし、クランドが合流したのであれば、グラディランドもその指揮下に入るのだ。
トーマスがいかに優秀な能力を持っているといえど、集団行動に慣れてはいないだろう。いきなり指揮に従うというのは無理な話だ。
しかし、クランドもクスドも、それくらいわかっている。
「この機体………そうか。グラディランドというのか。前進させてほしい。それ以降のことは心配しなくてもいい。すべてこちらが請け負う」
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