天を破りて・後A01
幻聴だと思った。
だって、そうだろ?
なんで声が聞こえるんだ?
ここにいるはず、ないじゃないか。
頭のなかに飛び込んできた声。それはまるで、ヒナに似ていた。
でもヒナがここに来ることはない。グラディオスは俺が奪った。ヒナ含め、グラディオスクルーが無残にXタイプに殺されないために。俺が守るはずだったんだ。
『エー先輩!!』
別の少女の声が聞こえる。と、同時に超長距離射撃。なんとLタイプを正確に撃ち抜いた。
声だけでなく、技術までがシェリーに似ている。いや、俺の記憶のなかで、これだけ性格無慈悲な狙撃ができる少女といったら、ひとりしかいない。
『エー先輩だけに辛い思いはさせないわぁ!!』
ゾクッとするねっとりとした声質の少女が叫ぶ。怒っているようで、泣いているようにも聞こえた。ユリンにとても似ている。いや、この感じはユリンにしか出せない。
《おい………おい、ビーツ。どういうことだ………これは》
《フッ………言っただろう? 俺は貴様が嫌がることをしたり、驚いたりする顔を見るのが好きだと。で? 実際、そうなった気分はどうだ? 驚き過ぎて、思考がバグったか?》
《これはもう嫌がらせとか、そういう範疇じゃない………なんであいつらが、ここにいる?》
《はっ。これは俺の予防策といったところかな。貴様の計画すべてに誰が従うと言った? 出来損ないが作った穴だらけの計画書などに従うのは自殺行為に過ぎん。ゆえに俺は独自に動いた。予防線を張り、こうして俺たちが危機に瀕するであろうタイミングで来るよう、お前にとってはこれ以上とない嫌がらせとなる増援だ! どうだ小此木ィッ! スピンオフまでは予想していなかっただろう! 出し抜いてやったぞ。ザマァみろ!》
なんてことだ。
スピンオフといえば「アスティオールの奇跡」のことか。
ズームすれば、ビーツの証言が真実であったことがよくわかる。
なんかすごく巨大化しているけど、こちらに向かっている翡翠色の艦は、紛れも無く連合軍の特殊強襲特装艦グラディオス級三番艦アスティオールそのものだった。
ここに来て三番艦の合流。それこそ原作にはない。この3隻が揃う描写など無かった。
こうなるよう単独ですべてを整え実行したというのなら、それはビーツによる究極の原作破壊行為だ。クズでカスで下衆だけど、この俺も認めざるを得ないくらいの天才だ。
《ああ………そうか。お前、南極支部にアリスランドを収容して改造させたんだっけ。それなら、南極支部にいるスピンオフに登場するキャラクターに接触して、絆すことができたってわけか》
《はっ。舐めるな出来損ない。貴様がまだこちらに来ていない時からすでに、南極支部とコネは作っておいた。すべては俺に優位に働くようにするためだ。貴様も転生したと知った時からアスティオールを製造させていた。300メートルではなく、500メートルという超弩級戦艦としてな。俺がアリスランドをうしなったとしても、それに代わる切り札としてな。南極支部への支援は怠らず、予算を増やしてオルコットの庇護下になるよう差し向けたのだが………まさか、この最終局面に投入することになるとはな。だが、貴様の思惑どおりにことが運ばず、犠牲ゼロとかいう甘ったれた思想を打ち砕き、悔しがる顔を見る要素になるというのなら。俺のやってきたことも無駄ではなかったということだ》
確かに、ビーツの言うとおり、無駄のない行為となったことには違いない。
指摘にあったように、俺の暴挙の果てとも言える略奪と、子供の妄想に等しい思想は穴だらけだったのだろう。
そこでビーツは俺への嫌がらせのように、そして勝利するために、計画の一部を曲げてでも、アスティオールを未来のために運用した。
涙が出そうだった。出なかったけど。もう顔の左側面が固まってしまっている。体表面のみが金属化して、それが体内にまで侵食すれば、ついに俺は死ぬところだった。
それでも右を注視し続ける。
俺が情けないせいで、アスティオールに乗り換えたグラディオスクルーがここまで来てしまった。
悔しい反面、なぜか………嬉しかった。
『こちら、連合軍特殊強襲特装艦グラディオス級三番艦、アスティオール。グラディオス………のみではないか。グラディオスと、アリスランド。エース。ビーツ。聞こえるか? ………私だ。クランドだ』
普段から耳にしていた男の声。
俺を安心させる、クランドの声。
『お前たちには様々な罪状が突き付けられる………ところではあるが、連合軍のみならず、全人類の危機に単独で立ち向かったという事実を、コーネリア少将が認めてくださった。無罪とは呼べないだろうが、罪は軽くなるだろう。………よく頑張ったな』
クランドの声。その賞賛が、俺の凝り固まった心を解してくれる。
半年間という離れ過ぎていた時間。ずっと乾き切っていた心が、潤っていく。
『これよりその合体艦を回収する。敵の群れは減ったようだが、さらに減らして体制を整える! 各機、そのための時間を稼げ! エースとビーツを守るのだ! ただし深追いは不要。後続に任せればいい!』
後続とはなんのことかと、アスティオールの後方を注視する。
なんか、すごい数の艦隊がいた。どこの所属か───なんて調べるまでもない。コーネリアだ。彼女まで全艦隊を引き連れて、この最終決戦に駆けつけてくれた。
『ダメだ………奴は、Xタイプは厄介だし、Kタイプもまた新たに出現した………逃げろ………』
俺は必死に呼びかける。電子音声でしか届けられなかったが、こんなところでグラディオスクルーを失いたくはないし、俺たち転生者でも勝てない相手に、現状ではどうあっても勝機など皆無に等しい。
だが、そんな俺の悲痛な声を合図に、陣形を整えたアンノウンどもが一斉に仕掛けた。
グラディランドが盾になればいいのか。そう考えたが、操縦権は断たれたままで、そして仮に盾になったとしても、それは一時の時間稼ぎくらいにしかならない。
せめて迎撃でも───と火器管制をビーツから奪おうとした、その時だった。
『エー先輩に、手を出すな』
背筋が凍り付くようなプレッシャーを感じた。グラディランドのレーダーと繋がっていた影響かもしれない。
この感じは間違いなく覚醒だ。
ソータ、アイリ、ヒナ、シェリー、アーク。この5人が一斉に覚醒を使用したことで発生する、形容し難い圧力。原作ではソータしか使えなかったが、原作破壊行為によってなぜか他の4人も使えるようになってしまった。
けれど………なにかが、おかしい。
なんだ? この数は。いつもよりも倍のプレッシャーを感じる。
どうも気になって、きっとアスティオールに搭載したであろうハルモニに接触してみた。
《ハルモニ》
『イェス。メカニック・エース』
ハルモニのこの反応は、やはりクランドは未だに俺がグラディオスのクルーであると認めてくれている証拠だ。
ならば、俺はまだあの権限を使えるかもしれない。
《ハルモニ。俺がその艦で、どのような扱いを、いや肩書を持っているのか教えてくれ》
『あなたの階級は少尉です。そして参謀補佐。そしてパイロットチームの副隊長です』
《よし………なら、副隊長権限を行使。パイロットのコクピット内部の映像を………見せてくれ。早く》
『イェス。メカニック・エース』
よかった。副隊長権限が使えるならば、こっちのものだ。
脳裏にガリウスGに搭乗しているパイロットたちの映像が映る。
その結果、俺は絶句することになった。
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