天を破りて・前C01
二連レイライトブラスターが照射される。
これで大打撃を与えられるはずだ。群れさえ多く削れれば、勝機はまだある。
が───俺の微かな希望は、儚くも霧散することとなる。
Lタイプが閉じ切らぬままだったカーテンを、サッと振った。淡く銀色に光る半透明のレースみたいな薄さのはずなのに、なんとそれだけの動作で二連レイライトブラスターを受け止めたのだ。
嘘だろ。と嘆きたくなる。
これでもう、俺の手が届かなくなるのが決定したからだ。
『こちらの主砲を防いだ………くっ! なにをしている小此木! 諦めるというのか!? まだ時間はあるだろう!』
ああ。まだ時間はある。たった数分。俺が足掻いて、最後の最後を生きるための時間。
でもどうしても、それを実行するという気力がない。Xタイプに仕掛けた消耗戦を、見事に返されて心が折られた。
全宇宙にいるアンノウンを、なんなら地球にいる軍勢をもかき集めたような規模を連続して投入された。
その規模たるや、単純計算なら原作の約25倍だぞ。
『まずい………エースの生命力が極端に低下している!』
『なんとかしろ人工知能!』
『肉体の金属化現象の進行を遅らせる処置はしている! だがそれも手一杯で、もう四肢は完全に固まり、あとは内臓を守るくらいしかない! すでに体表面の半分以上が金属化している。エースの命はもう………』
『お前が諦めてどうする! ………もういい! その出来損ないの接続を切れ! ここから先は、俺がやる!』
この戦闘の半ばで、もし俺の命が尽きた場合、引き継ぐのはビーツしかいない。操縦もトーマスに戻る。
まだ数分だけ猶予があるが、インターフェースは接続されたまま、内部でグラディランドとの接続が、つまり操縦権が断たれた。すべてビーツに譲渡される。
その他は保たれたままゆえ、アリスランドのブリッジを見た。
《………お前》
《そこで見ていろ出来損ない! 確かに………俺は主人公になろうとして、しかし貴様に阻止され、イレイザーも満足に扱えなかった。だが、それゆえにと無力で終わるつもりもない。ここから先は俺の物語として継続する。果てるというなら、勝手に果てていろ!》
脳内チップの通信でやり取りする。
ビーツはグラディランドの武装すべてを駆使した。トーマスに前進命令を下し、主砲以外の武器とビームシールドを併用して突撃を開始する。
ただその操縦というのが、トーマスのように操縦桿を握ったり、武装を操るトリガーを握り込むような動作を一切行ってはいない。
脳内チップですべてを管制し、適切に、そして正確に反撃に転じた。
それだけに集中するために、ビーツは肉体への過負荷を無視した。意識のすべてをグラディランドに同化させる。肉体の金属化現象は無いが、過負荷のダメージがすべて肉体にフィードバックし、俺のように出血していた。
《この一戦に命を投じる覚悟が貴様だけにあると思うなよ。俺だって………俺だって………ライバルのポジションであろうと、最終回では人類のために奮起した艦の艦長である自覚くらいはある! この俺がすべてを変えると、変えてやるという覚悟もある!》
ビームシールドを出力全開にして、前面を防御するビーツは、グラディランドを敵陣に突撃させた。雑な扱いだが、すべてが悪いというわけではない。全砲門を開き、周囲のアンノウンを迎撃しながら進む。
だが、その間に第2陣でワープしたアンノウンの残存戦力がグラディランドに砲撃を開始。最初のLタイプがワープさせたアンノウンは、すべて倒せてはいない。Xタイプだけを見ていたゆえ、まだ半数ほど残っていた。
「うっ………ダメージコントロール………ダメだ。間に合わない!」
『無茶だビーツ! 無謀な特攻を仕掛ければ、この艦とて耐久できるはずがない!』
『うるせぇ! こっちが沈む前にXタイプをぶちのめせばいい話だ! いいから、黙って全権を俺に委ねろ!』
俺とは異なる操縦に、グラディランドが数秒で悲鳴を上げる。俺もビーツも未来がない立場だが、特にビーツはなにかに駆り立てられ、形振り構わず無謀な特攻を仕掛けている印象があった。前世含め、ビーツらしくない。胸にこみ上げる熱いなにかを感じる。
だが敵は、その程度で落とせるような雑魚ではない。いくらグラディランドが一撃でKタイプを倒せるからと言っても、Xタイプは原作にないテレポートが使える。
俺やビーツの脳内チップのキャパをすべて使いきるような計算を重ねても、果たして追いつけるだろうか。
『進め! とにかく進め! 時間を無駄にするな! Xタイプの視線をこの機体に釘づけにしろ!』
どういうことだ?
Xタイプの視線を釘づけにしろ? 注意を向けさせるという意味だろうか?
もちろん、この宙域には俺たちしかいない。Xタイプ含め、アンノウンすべての敵はグラディランドしかないのだ。
それがなぜ、今さらそんな指示を出す必要がある?
「っ………」
『動くなエース! カウンターシステムは緊急停止させたが、お前の体に起きている症状は深刻だ。それでももし、まだ戦いたいというのなら、その時を待て!』
唇だけを動かしたら、察知したケイスマンの意志に叱咤される。
諦めていないのか。早々に心が折れた俺の代わりに戦い続けるだけでなく、ビーツも、ケイスマンの意志も、トーマスも、生きようと抗っている。
正直、すげぇと思った。最終決戦の、俺は勝手に終盤だと思っていた時でも、勝率が限りなくゼロに等しくても、まだ諦めていない。心は折れずにいる。
優秀な頭脳を持つビーツだってわかっているはずだ。このまま戦っても負けるだけだと。
意識をグラディランドの状態にアクセス。全方位から集中攻撃を受けて装甲はもう持たない。乱暴な扱いをするビーツの操縦と火器管制のせいで、内側からも弾けそうになっている。
あと数分もすればグラディランドは爆発しかねない。
それでも戦う。
いったい、どこにそんな活力がある?
なにか、狙いでもあるというのか?
『Lタイプに反応あり! これは………レイライトブラスターだと!?』
『チィッ! 鬱陶しいカーテン野郎め。先程のレイライトブラスターを受け止めるだけでなく、吸収して撃ち返すつもりか!』
『避けろビーツ!』
『間に合わねえ! 全エネルギーを両腕のビームシールドに回せ!』
最悪だ。Lタイプがレイライトブラスターをタイミングをずらして反射した。Xタイプの戦術だ。うまく懐のなかに入れて、ここぞというタイミングで撃つなんて。
グラディランドはビームシールドを強化して、レイライトブラスターを受け止める。しかし推進力さえ防御に回している影響で、敵陣よりも遠くへと放り出された。
「ぐ………ヤバいね、これは………」
辛うじて直撃だけは避けたが、レイライトリアクターが生産するエネルギーの大半を費やしただけでなく、両腕のビーム発生基部がついに焼けただれた。もう二度と使えないほどに。
グラディランドは宇宙を漂うデブリにこそならなかったが、しばらくは動けない。
アンノウンの大群は陣を再形成。グラディランドに今度こそ引導を渡すつもりだろう。
『ここまで、か………俺の全人生をかけたのに………負けた………』
声を出せないから、スピーカーが俺の心境を電子音声にして発してしまう。
悔しい。負けるなんて。勝つつもりでここに来たのに。
グラディランドの敗北は、つまり全人類の敗退に直結するだろう。
なぜならグラディオスならびアリスランドほどの高性能艦は他にないし、Xタイプも新しい能力を手にして、より凶悪になっている。地球圏でソータたちが迎撃したとしても、勝てるかどうか。
《小此木………》
《なんだよ》
《まだ終わってねぇんだよ》
《なにが》
《俺はな、お前に嫌がらせをするのが大好きなんだ》
《ついに頭イカれたか》
《まだ至って正常だ》
こんな時であっても、因縁を持ち込むビーツ。
はっきり言って最悪だ。人生最後の話し相手がビーツだと? 気色悪い。
せめてトーマスの方が、まだいい。健闘をたたえ合い、勝てなかったことを謝罪し、最後に雄叫びでも上げながら突撃した方がスッキリするだろうに。
されども俺の心境などお構いなしに、ビーツは続ける。
《お前が嫌がったり、驚いたりする顔を見るのはスカッとする》
《キモ………じゃあ、させてみろよ》
《ああ。いいぞ? 右を見ろ。ついでにオープンチャンネルで声を聞いておけ》
《は?》
なにがしたいのか、まったくわからなかった。
メインモニターで右を見る。
なにかが見えた。
光っていた。緑色のなにか。
そして頭のなかに、猛然とした勢いで、誰かの絶叫が響き渡るのだった。
『エー先輩ッ!!』
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次回、やっと26話。つまり最終回です。やっとここまで来ました。
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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