天を破りて・前B08
「ぐぉぁああああああああああ!!」
覚悟はできていた。しかし、これは予想以上の苦痛だ。
タキオンに神経接続システムの起動実験を行った時も衝撃的だったけど、グラディランドとなるとその倍とかの次元ではない。
頭のなかが混濁を超えたなにかに支配される。データの奔流に晒され、自我が保てなくなりそうだった。辛うじて思考はできるのだが、グラディランドと一体化した影響で思考さえも掻き消される。記憶も保てない。
全身の血液が沸騰しながら逆流するような、そんな苦痛と戦いながらも、俺は辛うじて抗っていた。
グラディランドに意志があるなら言ってやりたい。「舐めるんじゃねぇ」と。
こちとら常に苦痛と戦い、傷付きながらも進んできた果てに、全員から「狂人」と呼ばれた猛者ぞ。
そしてなにより、発狂しそうな苦痛というのは、すでに体験済みなのだ。
ライラショックの身代わりになって受けた拷問。元日本支部跡地でリヴァイヴに搭載した新システムに対応するため、体に異物の極みみたいな新たなナノマシンを注入したあの日。
どちらも死ぬかと思った。実際、ナノマシンを注入してから数時間は発狂してた。
「く、クククク………はははっ」
「エースくん! しっかりしろ!」
「しっかり? ああ、してるさ。こんなの………この程度。思考がぶっ飛びそうなくらいの苦痛程度、ナノマシンを注入した時に比べれば、なんてこともない!! 俺の意志が保てていれば、なんとでもなる!!」
これぞ狂人の極みだろうか。
目と鼻と口から出血しても、もうなんとも思わない。
むしろ苦痛があることが当然で、安心さえもしているくらいだ。
『信じられん………その状態で、よくも。………システムオールグリーン。ダブルリアクターシステム良好。冷却システム正常。エネルギー充填完了。いやこれは、予想以上の速さだ。ダブルリアクターシステムと、ツインリアクターシステムを両立させているからか!』
ケイスマンの意志が、人工知能であっても驚愕を述べるのも無理もない。
人工知能からすれば机上の空論でしかなかったとしても、人間であればたった0.1パーセントでも可能性があるなら、それに全額賭けてしまう究極行為も辞さない時もあり、そして極めて低かった可能性でも成功させる時もある。
グラディランドの特徴といえば、グラディオス改とアリスランドの後部に設置していた大型レイライトリアクターを艦首まで移動させ、接続した場所に近くで直列に繋ぐことにあった。それが俺が考案したダブルリアクターシステム。理論上では二乗に近いエネルギーの量産を可能としている。そこにシーナ考案の並列、つまりツインリアクターシステムを動員。新規冷却システムも増やし、安定したエネルギー供給を可能とした。
なぜそこまでするのかといえば、このグラディランドの全長は、なんとKタイプをも上回る500メートルにも達していたからだ。
これだけの巨体を動かすために大型レイライトリアクターを6機用意した。
その制御もケイスマンの意志の補助がなければ、俺はとっくに廃人になっていたかもしれない。
ランダムで選出されたパイロットの命を糧に動くロボットアニメがあったが、まさに今がそれだ。俺は、俺のなかにあるものすべてをエネルギーに変換し、消費しながらグラディランドを動かしている。
レイライトブラスターの衝突による衝撃波で、遠くまで突き飛ばされたKタイプが戻ってくる。グラディランドは各スラスターを用いて振り返りつつ、迎撃体制に移行した。
「さてと………人間を、画面の向こう側のファンたちを本気にさせるとどうなるかって、教えてやるぜぇぇぇえええええっ!!」
グラディランドが唸りながら動く。
速くもないが遅くもない。しかしそれでいい。グラディランドは巨大なあまり、初速がどうしても遅くなるのだ。ギアを重くした自転車と同じだ。初動が遅れたとしても距離があるし、その距離が詰まる頃には速度に乗っている。
メインスラスターが全開となる。両足と背中にある、グラディオスとアリスランドのそれらが合わさると、ダブルリアクターシステムとツインリアクターシステムの恩恵を受けて、これまで以上のエネルギーを安定して供給され、全コンデンサーに貯蓄するのみならず、推力と武力を兼ね備えた完全強襲形態の真価を発揮する。
「ビームシールド全開!」
Kタイプが右腕を振り上げる。グラディランドは左腕を振りかぶる。
ただ殴るわけではない。こちらの被害を最小限に留め、アンノウンに与えるダメージを最大にするべく知恵を絞る。
俺だって異世界転生して、なにもしてこなかったわけではないのだ。
拳に対して拳を選ぶ。先に拳を振り上げたKタイプが先手を取る───わけではない。ボッとグラディランドの左腕がサブスラスターで加速し、展開したビームシールドを纏ったまま殴りにいく。
Kタイプが拳を振り抜く前にグラディランドの渾身のストレートがKタイプを捉えた。握ったマニュピレーターではない。展開したビームシールドの先端が胴体に突き立つと、回転を開始し、真っ二つに切り裂いた。
「こちとらこれまでの4倍以上の出力があるんだよぉっ!」
ビームシールドを展開して回転させる、まさに攻防一体の技術。そんなことをガリウスGにさせれば数分でエネルギーが尽きるが、大型レイライトリアクターにふたつのシステムを組み込んだことで、これまでにない運用を可能にした。
最初のKタイプを倒すと押し退けて、次のKタイプに襲い掛かる。3体を連続で薙ぎ倒す。
『Kタイプばかりに注目するな出来損ない!』
「ロックオンはお前に預けるから、周囲の敵を一掃しろ!」
『それは丁度いいな。制御ばかりに飽きてきたところだ。俺は勝手にやらせてもらうぞ』
グラディオス改のブリッジの下に、アリスランドのブリッジが移動している。あくまで上下に並んだだけだ。ビーツと同じ空間にいるだけでも精神衛生問題に直結して吐き気がするし、それはビーツも同じだろう。
火器管制の一部をビーツに譲渡すると、これまでグラディランドのモーションにかかる負荷などのダメージコントロールを請け負ってばかりだったのを不服に思った阿呆が、嬉々として攻撃に参加する。
「エースくん。僕がこのデカブツを動かすから、エースくんも攻撃に集中していいよ!」
「そう来ると思ったよ。けど、案外難しいぞ。できるのか?」
トーマスも手放し状態であったのが煮え切らなかったのだろう。自分の仕事を率先して請け負った。
「今ので9割理解した。大丈夫、なにがあっても落とされはしない!」
「この時点で、お前はグラディオスの操舵士を超えたな。………任せる!」
「おう!」
良い友を持った。この死線を共に潜り抜けてくれるトーマスには、感謝してもしきれない。
『後方のEタイプがアンノウンを射出! B、C、F、G、H、I、Jタイプが無数に展開! グラディランドは強固な造りとなっていることは認めるが、この数に飛び掛かられては耐久はできない。どうする?』
ケイスマンの意志が状況を報せる。
「それは想定内だ。他の雑魚はビーツに任せればいい。俺はKタイプを薙ぎ倒しながら、Lタイプも警戒して………Xタイプを探す!」
『Xタイプ………それがこの集団の指揮官か』
「そうだ。とんでもなく手強い奴で、知能が異様に高い個体だ。発見できたとしても油断はできないぞ」
この後に控えているラスボス戦。余力を残す必要があった。
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