天を破りて・前B05
「ちょ、ちょっと待ってよエースくん! この進路は正気なのかい!? このままではアリスランドと衝突してしまうよ! ギリギリで避けようにも、周囲のEタイプが邪魔でクリアランスなんて確保できない!」
「安心しな。もちろん安全は確保してある。余計なことは考えずに、アリスランドと速度を合わせて接近しろ! 元日本支部跡地でシミュレーションしたなら、俺たちの計画についても知ってるはずだ。それをこれからやるんだよ!」
「安心できる回答じゃない! ああ、もう! もちろんシミュレーションはできてるけど、あれってグラディオスがアリスランドの斜め上から覆い被さるようなコンタクトじゃなかったっけ!?」
「大丈夫だ。正面からアプローチもできる。むしろシークエンスを3つほど省略できるからな。誘導とかの支援は続行する。とにかくやれ!」
「なんて最悪なキャプテンなんだ!」
わかってる。俺はクランドほど有能ではないからな。
だから指揮系統はこれが俺の限界で、たったひとりの操舵士に指示を出すだけでもこの有様だ。
レーダーで索敵しつつEタイプへの対策を講じる。
ケイスマンの意志が述べたように、Eタイプは内蔵しているアンノウンを射出する形態に入っている。あのなかにBタイプやCタイプがいる。もしすべて射出されでもすれば全方位が銀色で埋め尽くされるだろう。グラディオス改であっても数秒ともたない。
「優先順位を再設定。Eタイプがアンノウンを射出するタイミング。それに合わせれば………そこ!」
前方だけでもEタイプを黙らせる必要があった。
捉えられるだけの数をロックオン。脳内チップのキャパシティは、ケイスマンの意志とリンクすることでグラディオス改のサーバーに無線接続し、負荷を軽減させている。それゆえに無茶な使い方ができた。ただし脳を酷使しているには違いない。発熱と眩暈が連続で襲い掛かるも無視する。
艦外カメラに視線を接続。もう肉眼は必要ない。
ロックオンしたEタイプへ冷凍弾が発射され、口腔を氷で塞ぐ。宇宙空間なら燃焼よりも過冷却が働く。すると口を塞がれたEタイプは、発射を目前としていたため、押し寄せるBタイプやCタイプで頬から裂けていき、やがて圧に耐えきれずふたつに割れた。
「よし」
『しかしEタイプの能力はそれだけではあるまい。ワープが来るぞ!』
「チッ。サーモグラフィーに切り替えろ! それから………ビーツ!」
『クソ忙しい時に話しかけるな貴様!』
周囲のEタイプが一斉に弾け飛んだことで進路がより確保されるも、これからアンノウンを出撃させるはずだったEタイプが、ワープを使って内蔵している小型を放とうとしていた。そこでビーツに警告と提案を促す。
「SNSとかで、アンノウンとの戦闘時における掟破り級の、破綻行為ってのがあったよな。確か、炎の理解者っていうアカウントが書いた滅茶苦茶理論だ。お前も知らないはずがねぇ。タイミングを間違えるなよ!」
『懐かしい名前を思い出させてくれる。掟破り級の禁じ手か。それをやると物語が進行しなくなるようなヌルゲーになるから推奨しないというトンデモ論だったな。ああ、そうか。なるほど。面白い。破綻しようがこの際関係ない!』
「そういうことだ!」
これは第2話の、歴史の裏側で俺が実行した掟破り行為だ。
サーモグラフィーに切り替え、宙域の熱の変化を調べる。原作ではもちろんそんな描写はない。
すると目論見どおり、Eタイプから100メートルほど離れた場所が、急激に加熱され始めた。色が変わり始める。もうその頃になれば、誘導弾の弾頭を別の特殊弾に変更が完了していた。
「焼夷弾、発射!」
グラディオス改とアリスランドは同時にそれらを放つ。
Eタイプへではない。急激な加熱が行われた虚空へと到達すると、その周囲にさらなる熱が拡散した。
『まさか本当に成功するとはな』
「もう実証済みだったからな」
第2話という最序盤で、俺は非武装だったプロトタイプガリウスGでアンノウンを撃破しなければならないという窮地に立たされた。その時使ったのが肩のサブスラスターだ。
アンノウンが使用するワープには、一定の温度まで高めた熱が必要で、達するとゲートが開く。しかし一定の温度以上の熱が加わった際、ワープのためのゲートは効果どころかホールの形状すら保てなくなるのだ。
ワープホールが出現するであろう宙域が高温化するのは、こちらにとっては好都合だ。さらに熱を上げれば増援は現れない。
グラディオス改はさらに前進しながらEタイプを撃破していく。大盤振る舞いの大サービスがごとくエネルギーや砲弾を消費するも、艦には俺とトーマスしかいないから弾薬庫を拡張していていたので、消費率はまだ半分にも満たない。それにこれから始まる祭りを思えば、これくらいド派手な花火をぶち上げるくらいでなければ。
失いかけた感情が、なぜか動き出す。高揚感、緊張、興奮───などといった、ファンの域を超えた転生者として。取得する方法は誤ったが、グラディオスとアリスランドを動かす者として。
ここにいることが、なによりも感情を刺激して、再起動を訴えるようだ。
「敵の総数は!」
『会敵時より1割が減っている。Eタイプをこうも容易く倒してしまうとは』
「魔改造の成果ってやつだな」
『しかし臨界状態にあるレイライトリアクターへの負担が大きい。このままでいけば生産できるエネルギーが不足するやもしれない』
ケイスマンの意志は至って冷静だ。たった数分で敵の総数が1割減ったからと雀躍などしない。そしてこちらにとってのデメリットを瞬時に提示する。
グラディオス改のレイライトリアクターはもちろん調整している。新たな能力を活かすために。しかし半永久機関のデメリットも大きかった。
それは生産できるエネルギーがほぼ無尽蔵であったとしても、一定の量を超える増産ができないこと。臨界に達すればそれ以上のエネルギー供給は得られない。どこかの機能を落として火器管制に回すなりしなければならない。そして臨界に達すれば負担も大きい。制御も間に合わないだろう。
クランドはいつでも正しかった。俺と比較すれば、嫌でも優秀さが浮き彫りとなってしまう。第12話でも、クランドはこのような無茶な指揮は執らなかったし、いつも予防策と呼べるなにかを用意していたものな。
予防策どころかレイライトリアクターを潰す勢いで運用している俺の愚策こそ、死へのカウントダウンを進めているようなものなのだ。
それなら───
「それなら───」
『それなら?』
「強引にレイライトリアクターを制御してやるよ!」
『おかしいな? お前の頭脳の不可は軽減しているはずなのに、言語能力に支障が出るなど早すぎるのだが』
「うるせぇ! っていうか、お前だって全部知ってるんだろうが! グラディオス改のレイライトリアクターがぶっ壊れる前に安定させる方法!」
『無論知っているとも。………きみが過負荷により、寿命を数分に縮めてしまうことも』
結局は俺に踏み止まらせたかっただけか? とんだツンデレ人工知能だ。でも、そうはいかない。
絶対に、あの計画だけは実行を───
「エースくん!! 左舷、敵陣後方に高エネルギー体が出現するよ! まずいって………ヤバいでしょ。なにこれ………全長………400メートル!?」
トーマスの報告に、耳を疑った。
同時に舌打ちをしてしまう。
アンノウンも、ただやられてばかりではなかったのだ。
最悪だ。
全長400メートルだと?
かつて第12話で戦ったEタイプは原作とは異なり特殊固体で、250メートルにも達したというのに。
さらにそれを越えるEタイプの特殊固体?
いや………これは多分、違う。
「ッ………原作破壊行為のツケで、原作に登場していない、もっとヤベェ敵を作り出しちまったってことか!」
ついにワープに成功する銀色の巨体。それも複数。
全長400メートルの、巨人を模したアンノウン。
Kタイプだ。
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