天を破りて・前B03
『………なるほど。そうか。モーリスができるなら入手しておきたいと言っていたわけだ。チッ。惜しいことをしたな。ペンタリブルで多少強引にでも奪取しておけば、俺の栄光が不動のものとなっていたというわけか』
「ああ。マジでそうなってただろうよ。あの時、プロトタイプガリウスGがお前の手に渡ってたら、俺はガリウスに乗ることはなかったし、多少機械に強いだけの整備士を続行してたかもな。目覚めてから、もう1回休眠に入ったんだけど、お前に叩き落されてから目覚めたらしい。あとのことはわかるな? お蔭で俺は無事にリヴァイヴを作ることができて、お前をいい子ちゃんに更生してやる機会を得たわけだ。マジでケイスマンの意志がなけりゃ詰んでたぜ」
『そのようなチートツールを入手できて、さぞかし満足だったろうよ』
「手にしたのは偶然だったとしても、お前みたいに勝つためじゃなく、守るためならなんでも使うさ。でもそれを言うならお前だって脳内チップ2枚あるし、原作とは比べ物にならない改造したり、人員登用してるじゃないか」
連合軍艦隊の残骸のアーチを通過しながら、俺たちは論争を続ける。
最低限の回避行動をするため蛇行どころか上下にも揺れるため、軽いアトラクションのようにも思えるほどだ。
だが………やがてその回避行動も少なくなる。
「艦隊の残骸が小さくなってきたよ」
『レーダーで把握できるものも少なくなってきた。先頭の隊列か。………集中砲火を受けて蜂の巣どころかミンチになったらしい。確かにこれは、想定の10倍の戦力が揃っていそうだな』
デブリ帯を思わせる空間が終わりに近づいていた。
ビーツの述べるとおり、戦闘記録で見た先頭の艦の残骸は、それこそ粉微塵と化している。それはミンチなんてものではない。
「連合軍艦隊の残骸を抜けるよ」
「………あと数時間、いや数分かもしれないな。あの残骸は後方に流れていた。で、アンノウンの群れも決して動いていないわけではない。前進しているはずだ。ビーツ。トーマス。覚悟決めろよ」
『誰に言っている貴様』
確かに、ビーツは仕損じる奴ではない。準備は万端にしているだろう。
その意思表示をするべく、アリスランドが速度を上げ、グラディオスに並んだ。
原作ではこの第25話の終盤で助力するべくテンプスを更迭して、残るクルーで緊急運用して駆けつけた。その頃にはアークも改心して、ソータの力になりたいと強く願い、自分の意思で参戦する。涙が出るくらい熱いシーンの俺的ランキングベスト3にランクインに入るくらいだ。
しかし今回は、序盤からアリスランドはグラディオスと並走している。
これはこれで、胸熱展開なのかもな。
俺とビーツ。切ろうとしても切れなかった因縁。宿命のライバル。殺し合った仲。
互いの実力を知っているからこそ、こうしてタッグを組めるのだ。
「まぁ………お前とは色々あったけどさ」
『あ?』
「こうして肩を並べて、同じ敵に立ち向かうとは思わなかったよ」
『………』
「覚えてるか? ローマで組んだこと。あれはお前が俺を呼んだから、最初のイレギュラーと戦ったんだったな。どうせ第2クールで再会して戦うことになるって覚悟してたのに、あんなタイミングで呼び出されるとは思わなかったし、なによりあの時、お前の実力を知れたから、こうして最終決戦でタッグを組むことを決意したんだけど。お前、性格はどうしようもないくらい下衆だし、救いようのないくらいクズだけど、他の誰かのために命を張ることができる奴だって知れたからな」
『今日はとんだお喋りだな。饒舌になるなど貴様らしくもない。陰キャは陰キャらしく挙動不審にしていればいいものを。それともなにか? 今ここで撃たれたいと?』
「そう興奮するなよカス。怒るってことはその自覚があるんだろうけどさ。事実を言われたからって苛つくの、よくないぜ?」
『喧嘩を売っているのだよな? ならそう言え』
「今の俺の文言、飲み会の席でお前が俺に言ったこと、そのまんまだからな?」
『………死ね』
ああ、ダメだな。
どうしても素直になれないんだ。
なんで俺は正直に「お前みたいなカスでも実力だけはあるから、この最終決戦だけは頼りにしてる」って言えないんだろう?
それに、さっきから俺の胸にこみ上げるこの高揚感。
一瞬の自己分析の結果、俺は脳内チップの副作用により、禁欲の果てに進行してしまった思考の機械化、あるいは効率化重視の傾向が、若干緩和されていることに気付いた。
なぜ? ビーツに会ったから───いやそれはありえない。死んでもあり得ない。
思い当たること───ひとつだけ検出。以前、俺に与えられた部屋で、思い出に溢れた映像を閲覧したことで、死にたくないと望んでしまった。ヒナたちの笑顔を見た。それで涙を流した。それしか該当するものがない。
「………未練たらたらだな」
「エースくんっ!」
「………来たか」
感情をほんのわずかだけ取り戻したところで、なにも変わらないし、決意も揺らぐことは許されない。後戻りはできないのだから。
改めて決意を固めた矢先。
トーマスが叫ぶ。
レーダーに反応。早い。やはり数分後に遭遇してしまった。
意識を艦のレーダーに再び接続。拡大化した感覚で、前方の熱源を探る。
「う、わ………」
トーマスが、思わず驚愕した声を上げるほどの惨状。
レーダーで見る必要などない。
もう目視で捉えられる距離だ。
この漆黒の宇宙空間で、銀色に輝く無数の光。それが前方に広く拡散していたのだから。
「エースくん………あれ、もしかして」
「ああ、Eタイプだ。気を緩めるなよトーマス。あのEタイプのなかに、吐き気がするくらいのアンノウンが搭載されている。一斉に射出されたら、数秒で包囲されるかもな」
「戦い様が、あるのかい?」
「まぁな。そのために元日本支部で、徹底的に改修してもらったんだ。さぁ………来るぞ! ビーツ!!」
『命令するな出来損ない!!』
ブリッジからでは数え切れないほどの物量差を展開するアンノウンも、おそらくグラディオスとアリスランドを感知しているはずだ。
連合軍の艦隊は初手で間違ったから全滅した。
対する俺たちは、絶対に間違わない。
最終決戦の直前なのだから、もっと感慨深いなにかが発生するのかと期待したが、そんなものはない。
アンノウンは知性に欠ける。人間の感情など知りもしない。ただ学習する意欲はあるようで、ライラを送り出したものの、そのライラは今回は人間側に寝返ったままだ。原作はアンノウン側に帰ったので、ライラが学習したものを得ることはできなかった。
つまり獲物を目前に、狩りの体勢に入った獣同然というわけだ。
挨拶などしない。降伏の勧告も無い。
敵が目の前にいる。ゆえに殺す。至ってシンプル。ただそれだけ。
前方の光にわずかな動きがあった。トーマスには見えていない。艦の超望遠カメラで捕捉していたゆえに察知できた。
「うわぁあっ!?」
グラディオスの船体が大きく揺さぶるように動く。操舵していたトーマスは、自分の意思ではない挙動に驚いて声を上げた。
「俺が誘導する! 3秒後にコントロールを返すから、そのとおりに走れ!」
「ッ………アイアイサーッ!」
約300メートルの巨体が、宇宙空間で鯨のように跳ねた。
右隣を見る。アリスランドも同じ軌道で跳ねた。どうやら考えることは同じらしい。
次の瞬間、グラディオスとアリスランドがあった場所に集中砲火が注がれる。
「ま、マジか………こんな攻撃量………蜂の巣どころじゃない」
「ああ、そうだよ。だから、死にたくなかったら全力でグラディオスを操縦しろ! その他のことは俺がやる! 最大船速!! 目標、敵左舷! 厚みの薄いところから突破する!!」
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