天を破りて・前B01
航路は順調だった。
サフラビオロスを訪れたグラディオスが地球へ向けて進んだ航路ではなく、無駄な時間を省略するため一直線で進む。
それにしても、グラディオスを強奪した上に勝手に乗り回しているというのに、連合軍本部からはなんのアプローチがなかった。
航路にはどうしても本部のすぐ近くを通らなければならず、そこで俺を逮捕するために戦艦のひとつでも布陣していると思いきや、足止めすら現れなかった。
もちろん、アンノウンの群れが迫っているから、それどころではないことも知っている。しかしグラディオス改が本部のレーダーに引っかかってもなんの反応もないというのもね。
なんてトーマスに愚痴同然に言ってみたところ、そこはオードリアインジェクション社で、なにかが動いたと言っていた。本部には俺がトーマスに紹介してもらったハヴェクの他にも、オードリアインジェクション社をスポンサーとする者がいるらしく、グラディオス改が利益のある実験を兼ねて大きな戦争に挑むとあっては邪魔をされたくもないので、その者たちを動かしてグラディオス改を見逃すように手引きしたとか。
そしてトーマス自身、本社との窓口ではなく、グラディオス改に実際に搭乗し、実験の成果を記録する人員として正式に派遣されることが決定したようだ。元日本支部跡地には、しばらくしてから誰かが窓口として送られるか、戦いが終わればトーマスが戻されるかのどちらかという。
だから、是非とも生き残ろうね。だとさ。毎度、勝手を言いやがる。
さらに時が過ぎる。道中で友軍どころかアンノウンにすら遭遇しなかった。
アンノウンについての理由はひとつ。
サフラビオロスがあった場所の近くに大軍がワープして出現した時点から、いるわけだ。
これまで作戦らしい作戦を、連携らしい連携を取らなかったアンノウンが、そのふたつを兼ね備えて、さらに遠くから迫るというプレッシャーを与える心理戦までやるという、劇的な進化を遂げたラスボス級の司令官をも兼ねるアンノウン、Xタイプが。
俺は最初からラスボスの出現とポイントを知っていたし、宇宙にあるオードリアインジェクション社の本社に独自の観測を依頼した。その結果、原作の10倍はいる軍勢と規模を知り、こうしてわざわざ、全員を裏切って、刺し違えてでもXタイプを殺そうとしているわけだ。
道連れにはビーツを選んだ。
おそらくビーツも南極ドックでアリスランドを改造しているはず。
特殊強襲特装艦の魔改造を行えるドックといえば、宇宙ならまだしも、地球では元日本支部跡地と、スピンオフで登場した南極支部のドックしかないのだ。
そうなると、ビーツは自らの愚行のせいで元日本支部跡地の高田たちには死ぬほど嫌われているし、必然的に南極ドックに行くしかない。その代わり、俺は顔見知りとなった高田たちとトーマスに助力を請うことができる。
そういえば以前、俺はシーナにこんな質問をしたことがあった。
無人島に行く時、なにかひとつだけ持ち込んでいいとするなら、お前ならなにを選ぶ? と。
シーナはメジャーに工具を選んだが、俺は「ライバル」と真剣に答えた。結果、シーナには嘲笑半分、呆れ半分のような反応をされた。
でもあいつ、気付いたかな。その質問こそヒントだったのだと。いや、シーナの考察力は高い方だけど、推理とかにはちょっと向かないところがあるし、もしかしたら今でも理解していないかもしれない。俺とビーツのような騙し合い同然の心理戦は、ちょっと彼女には難しかったかな。
ドイツ支部の艦のなかに拘束されていたビーツと脳内チップでやり取りし、俺は短命、ビーツは処刑という末路が決定したのなら、最後くらいド派手に暴れて、歴史に名を刻んでやろうぜという提案が可決。ビーツはどうせ罪を重ねるだけだしと、あっさりと承諾したのは驚きだった。ビーツの本性は変わらないし更生したとも思えないけど、グラディオスとアリスランドは最終決戦に揃って挑むのは原作と変わりない。それを俺たちライバルが手を組んでやり遂げるのも、悪くない。
「………キャプテン。おーい、キャプテン。エースくん? エースくんったら。寝てるの?」
「………いや、寝てない。悪い。考え事してた。どうした?」
「あ、そう。ならいいんだ。レーダーに反応あり。熱紋照合。………どうやら、来たみたいだよ」
「………ふむ」
ブリッジにて。操舵を務めるトーマスは実に優秀で、いやただ直進するだけなのだからわき目でレーダーを確認することくらいできるのだが、現状を報告した。
俺も脳内チップでグラディオス改にアクセスし、レーダーに意識を繋げる。
5時の方向。斜め上。漆黒たる宇宙に、同系色の艦があった。
「ま………飲み会とか、サークルのイベントなら時間を厳守する奴だったからな。興味のない講義はギリギリか、遅刻しまくってたっぽいけど」
「え、なんのこと? サークル? 講義?」
「こっちの話だ。なに。ちょっとした、つまらない昔話だよ」
「ふーん? 別にいいけどさ。でもエースくん、まだ未成年のくせに、たまにおっさんぽいこと言うよね。懐古するほどの年齢じゃないくせにさ」
「うっせ。余計なお世話だ」
トーマスには、俺が転生者であることは教えていない。計画の全貌くらいしか明かしていないのは、トーマスと俺との間柄に、余計な情報は不要だからだ。ケイスマンの意志というトップシークレットをくれてやったのだ。今はそれで満足させている。
さて、せっかくこうして、決戦前にのこのこと俺の目が届く場所に現れたのだ。
作戦の立案者として、殊勝な心掛けでいる馬鹿野郎に、嫌味のひとつでも添えて功を労ってやろう───と通信を繋げようとした、その時。
ブリッジのメインモニターがハッキングされ、できるなら目視したくない阿呆の顔が現れる。
『おい貴様。作戦に関係のない人物を連れるなど聞いていないぞ。普段からだらしのない生活をしている怠惰が代名詞たる貴様の失態か。どう責任を取るつもりだ』
クソが。まさか先手を取られるだなんて。
俺が嫌味というスパイスを利かせた労いの言葉をかけてやろうとすると、ビーツが嫌味全開で不満をぶちまけた。
ああ………おかしいな。感情が欠落しているはずなのに、苛立ちを通り越して、怒りの念が彷彿としてきちゃったぞっと。
「やかましいぞ負け犬。テメェ、誰に指図してやがる。さては脳内チップがふたつとも暴走して、自分に都合のいい記憶に改竄しやがったな? 俺とお前、どっちが上なのかはもう教えたはずだよな。お前は黙って従え、カス」
「うわーお。エースくん辛辣ぅ! ………おっと。これはこれはビーツさんじゃないですかぁ! これはご機嫌麗しゅう! ご無沙汰しておりますなぁ!」
「俺の頭脳は貴様の3倍は優秀だ。脳内チップが増えようが記憶に支障はない。そしてあのような小競り合いごときで俺と貴様の優劣がはっきりしたとは一切思っていな………なに? 貴様………トーマスか!」
「っははぁ! 当たりですぅ! その昔、あなたにグラディオスに極秘情報があるって教えてもらった、エージェントでーす」
なんか、トーマスのやつ妙にテンションが高いな。
出会った時はビーツをある意味で信奉してたけど、色々あって変わりつつあるというところか。
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