天を破りて・前A04
まぁ、そんなことを今詰問したとしても、なにも変わらないだろう。
私はライラによって独立した存在となっている。ハルモニのバックアップなど無くても主力になれる。
それよりも今は、ハルモニの問題を、どう解消するかが先決だ。
なにせ、効率化の問題はガリウスにも影響する。
特にオリジナルガリウス。そして次に移動ではなく攻撃専用のジャケットを使うナンバーズ。
ソータのイレイザー。アークのタキオン。ユリンの二号機のパピヨンジャケット。コウの十二号機のブラスタージャケットがそうだ。
エネルギー効率の演算補助。最適化。これを片手間に機体を操縦するのは、現段階で全員できることはできるのだが、絶対に集中できなくなる。集中力を欠くのは死活問題だ。
他のことに気を取られて撃墜されたなど洒落にもならない。
「バックアップデータねぇ。………そんなのがあれば、せめてこれまでの、数年分の学習させた経験を、そのまま導入できるんだが………残念だが、それがありそうな器はエースが持って行っちまった」
エースを通じてオードリアインジェクション社をスポンサーにしているハヴェクが動き、グラディオスに再編成命令を出してから、すべての機材や荷物を持ちだしたあとにエースがグラディオスを強奪してしまった。
確かにこれでは、保存できる場所など、どこにも………どこにも?
それって、本当にどこにもないのか?
なんだろう。私は、なにかを見落としていないか?
思い出せそうで思い出せない気持ち悪い感じが渦巻く。
やはりカギを握るのはエースだ。
エースの共犯者になると決めたあの日、私は私の知らない第1クールのすべてを聞いた。エースの対抗策、原作破壊行為に至るすべてを教えてもらった。
そのなかになにかあるはずだ。
グラディオスではない。私のなかにあるカードのなかから、決定的となる1枚の切り札が残されているような。
ではそれはなにか。
ガリウス? ───違う。確かに機体はハルモニと繋がり、その恩恵を受けたし保存できる場所もありそうだけど、もっとも繋がりが必要とされていたエースのタキオン改めリヴァイヴはグラディオスとともに持って行かれた。
カイドウたちが持ち込んだ機材? ───それも違う。カイドウはそんなミスはしない。あったとすれば、必ず思い出す。
ではなにか?
「うーん………」
「あ、しーな。うで、ひかってるよ」
「ああ、これは端末って言うんだよ。………ゲッ! レイシアさんの健診の時間じゃん! シドウ隊長、すみませんが抜けま───レイシアさん?」
私はライラと同化するようになって、レイシアの定期健診を義務付けられた。
人間がアンノウンと同化して、なにかが起きてからでは遅いのだ。3日置きに、そして出撃後は必ず検査を受けることで、パイロット科に転属する許可が下りた。
「シーナ? おい、なにをしている。ここはいい。レイシアのところに行くなら構わんが」
「それだ!!」
「うぉ………ど、どうした? いきなり大声を出して」
いきなり停止した私を見かねて声をかけたシドウだが、大声に伸ばしかけた手を止めてしまう。
だが、それでも構わない。引かれようが、今はこれに賭けるしかない。
「おやっさん! モーリス! レイシアさんのところに行きますよ! 早く!」
「なんだよシーナ。俺ぁ、別に体に異常なんてないんだが」
「LAフォルダです!!」
「な、なんだそりゃ」
「行けばわかります! いや、これは賭けだけど、もしかしたらうまくいくかもしれないんです!」
カイドウとモーリスの手を引っ張って、強引にライトハンガーから連れ出す。最初こそ軽く抵抗されたが、必死に懇願すると仕方なく後に続いてくれた。
すると、ライラだけでなく、気になったパイロット全員が動き出し、全員で新しいメディカルルームに直行するのだった。
200メートルも延長された艦なだけあって移動も苦労するが、数分かけてやっと到着する。
「レイシアさん!」
「あ、やっと来た………って、ちょっと。なんでカイドウさんやモーリスさんまで………え? パイロットのみんなもいるの!?」
私とライラのみが呼ばれているはずが、10人を超える人数で押しかけてしまったため驚くレイシア。
グラディオスの倍はある広域だったため、全員が軽く収容できるのだが、予定にない訪問になってしまえば、それは仕方ないことだ。
ただ、今はレイシアの質問に答えている時間さえ惜しい。
エースに教わっていたとおりのファイルは、きっとまだあるはずだ。
「レイシアさん。見せてもらいたいファイルがあります。エースと共有しているクラウドにあるファイルです! 緊急なので見せてください!」
「え、えー………と………なんのことかなー………」
ここで出し惜しみか。いや、それも違う。レイシアはわかっているのだが、それを全員の前で見せられるのが苦痛というか、羞恥があるのだ。
LAフォルダ。初期にエースがレイシアに持ちかけて作られた、決して外部に漏れてはいけないものばかりが詰まったもの。内容はレイシアがカウンセリングした結果をエースに報せ、エースもまた自身が主要人物と関わった感じたことを載せるもの。
この場合、エースの対価としてレイシアの好物たるシドウの隠し撮り写真が大量にあることが問題視されるのか。なんたって、その人物が目の前にいるのだものな。
「わかりましたよ。はい、全員回れ右! 絶対にこっち見るな! 特に野郎ども!」
「お、おいシーナ。パイロットどもならともかく、お前が俺たち連れてきたんだろ? 俺とモーリスまで例外なく後ろ向けってどういうことだ?」
「プライバシーってもんがあるんです! いいから、ほら早く!」
レイシアには世話になっている。原作とは異なり、かなり早期にシドウと交際していることは気に食わないが、私の事情など後回しだ。
私とライラしか見ていないこともあり、レイシアは「エースくんめ覚えてろよ」と恨めしい文言を呟きながら渋々とフォルダを見せてくれた。
「リークしたのってエースくんでしょ」
「まぁそういうことです。その不満は、会えたらお礼をしてやってください。私は報酬の件は興味ないです………あ、いや。ちょっと見てみたい気もするけど、今はどうでもいいんです。ねぇレイシアさん。なんでエースは、権限を抹消されてもハルモニのバックアップデータを保存できたと思います? どこからダウンロードしたか。答えはここにあります」
「え、えー………でもさ、そんな記録どこにも………あっ」
レイシアはようやく思い出した。
私は半信半疑かつ神頼み同然であったが、エースは偶然から生まれたバックアップデータの保存先を、先に叱られたことで隠れ蓑にして、レイシアに預けていたのだ。
レイシアの腕の端末にある隠し共有フォルダのなかにあるひとつ。それは───
「やっぱりまだあった! ビームシールドの設計図! 今となっちゃ全機にデフォルトで装備されてるから、もうレイシアさんも注意深く見ないデータ。エースはここにうまく隠してたんだ。ハルモニのフォローなんてなくても、端末にさえアクセスすれば共有フォルダも開ける。だから………これだ! おやさん! モーリス!」
目的のものを発見し、カイドウとモーリスを呼び寄せる。
やっと振り向く許可が降りたふたりは嘆息しながらも、ビームシールド設計図が載ったフォルダをコピーさせてふたりの端末に送ると、驚愕のあまり瞠目するのだった。
「こ、これはっ………」
「驚いたぜ………確かにエースの野郎は、俺とアーレスが吊し上げ大会したあとに全権限を取り上げたことがあったが、いつの間にかハルモニと副隊長権限を自分で取り戻してたもんな………んでもって、これは………ハルモニのデータそのものじゃねぇか! 全部ってわけじゃねぇが………でも必要なものが全部ここにある! これを読み込ませて学習を促せば………ああ、でかしたぞシーナ! これならハルモニが早期修復できる! よし、行くぞモーリス!」
「はい!」
よしよし。思ったとおり、これでうまくいく。
エースが作ったバックドアみたいな抜け道のお陰で、私たちはエースの目論見から外れて、再びあいつとともに戦うことが───
「シーナちゃん。ちょっとお話があります。ここ、座ろうか」
「は………はぁい」
代償として、ここにいる全員に隠し共有フォルダの存在を知られたレイシアの、八つ当たり同然のお説教を食うことになった。
目が笑ってねぇ。なんだこのメス。Jタイプよりおっかねぇぞ………っ!
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