天を破りて・前A03
アスティオールのライトハンガーに収容された私たち。
艦首寄りに位置するのはグラディオスとアリスランドの造形の名残で、前後左右に拡張したことから左右にハンガーを設けられ、私たちは広々とブースを使うことができた。
この広大なハンガーは、現在右側のみしか機能していない。正確に述べればレフトハンガーも稼働中なのだが、製造専用に改造しているので、右側に集中してガリウスを置いて整備しているのだ。
しかし片側に置いてもブースは埋まらない。当初はビーツの切り札として運用しようとしていたと聞いていたので、これを手にしたあの馬鹿が、どれだけの物量差で攻め込んでくるはずだったのかと考えるだけでゾッとする。
「十二号機、十三号機をクレーンに接続!」
「ブースに移動開始」
「総員、頭上注意!」
知った声と知らない声が混じる。
されども業務はなにひとつとして、差し支えなく進行する。
元グラディオスクルーと元アリスランドクルーが混然として働く整備科なのだが、他のセクションとは異なり、ハンガーだけは妙に一体化しているのが印象的だった。他のセクションはまだ少しだけギスギスしているというのに。
理由はいくつか思い当たる節がある。
ひとつ。ハンガーに収容されている14機のなかには、ほぼグラディオスの機体しかないのだが、アリスランドの機体もあること。アークのタキオンだ。そのアークがソータたちグラディオスのパイロットや整備士と仲良くしているのが印象的で、元アリスランドクルーの疑念を晴らした。
もうひとつがどちらかと言えば決定的で、やはりネームドキャラクターが双方の陣営のトップにいて、お互いにリスペクトしていることを表明したことで、真っ先に打ち解けたからだろう。それがカイドウとトーマス。モーリスはクランドに服従を誓った。同時に整備科に配属されると、整備長であるカイドウにも服従を誓うのだが、カイドウはそういう関係を嫌う。奴隷ではなく、部下として扱うと宣言。そして有言実行。カイドウはそれができる男だ。
それからと言うものの、モーリスはカイドウにべったりとなった。豪胆かつ繊細な技術、多岐にわたる知識、部下の域を超えて弟子とする人望の厚さ、なにより誰かの長所を見抜き伸ばせる指導者としての格。モーリスが惚れないわけがない。
モーリス・テラーは、ガリウスFを開発したエングレルファクトリー社の本社に技術者として勤務していたという。しかし父親でありマッドサイエンティストの気が強すぎるケイスマンの才能を受け継いでおり、異端児として扱われ、地球に左遷同然に送られた。
エングレルファクトリー社でも理解されない才能を、原作を知り尽くしたビーツが引き抜いたことで、たった1話限りの登場がこうして継続して私たちの関わりを作り出したが、それでもビーツはモーリスのすべてを引き出すことができなかったが、同じく才能と努力で実績を築いたカイドウなら、モーリスの良き理解者となることができた。今となっては本弟子連中と同じところにいるし、画期的なアイデアを出すことができる第一人者。
アリスランドでは整備長をしていたモーリスとカイドウが合致することで、整備科は逸早く連携を得る形となることができたのだ。
これまでそれとなくアドバイスやアイデアを出し続けたのはエースや私だが、モーリスまで加わり、最終話まで到達すればその役目も譲れる。
ひょんなことから私も戦うことができるようになったのだ。ポジションに未練はないし、なによりエースを驚かせてやりたいという気持ちから、私がいた場所をモーリスに譲ることには賛成した。
「パイロット、集合!」
おっと。お呼びがかかった。
これまでの倍もある広域のハンガー、機材の動く音、整備士たちの声もあるのに、よくこれほどまで響く。親父譲りの大声だ。いや、さもなくばパイロットリーダーなどやっていられないか。
各機のコクピットから搭乗者が降りてきたところだったので、いつものように駆け足で隊長たるシドウの前に整列した。私は最後尾だ。なにも、エースのいた副隊長というポジションまで受け継いだわけではない。
「………新しい環境となり、未だ一部のシステムの恩恵が受けられていない状況だとはいえ………正直、これは予想外だな」
今回の戦闘のことだ。あれは散々だった。
頭を掻くシドウは、渋面しながら全員を見渡す。隊員すべて、共通して暗澹たる面持ちをしていた。私とライラはしていないけど。
というのも、私が防衛した北、ドイツ支部のガリウスF部隊が受け持った東以外は、アスティオールの艦載機が二手に分かれて防衛を受け持ったのだ。
その結果、その防衛率が過去最低を記録するほどのものと化してしまった。ソータたちが初めてガリウスGを手にした時と同じくらいのスコアだ。
「俺たちはこれまで、なにを積み上げて一人前になったのだと嘆きたくなるスコアではある。目を覆いたくなるだろう。それは俺も同じだ。まさか全機出撃するとなると、不完全なハルモニにここまで強い過負荷をかけてしまい、全機に満足できる補助が行き渡ることがなくなるとは………親父!」
モーリスと会話していたカイドウを大声で呼びよせる。
カイドウはなにを聞かれるのか理解しているのだろう。シドウたちと同じ表情をしながら私たちに歩み寄る。
「ハルモニはいつ万全になる?」
「またそれかよ………俺が開発したとはいえ、高性能AIだったからな。それを初期化しちまったとあれば、すぐにセッティングが完了するわけねぇだろうがよ。これまで学習させたことを最初から学ばせてんだぞ。そううまくいってたまるか」
「とはいえ、シドウ隊長たち艦の戦力の要が蓄積させるフラストレーションはもっともです。我々もグラディオスで運用していたという高性能AIの復旧に尽力し、1日も早く解消できるよう努力します。今は、どうか耐えてください。シドウ隊長」
「………了解した。済まないな。時間を取らせてしまって」
カイドウだけでなく、モーリスも説明に加わると、シドウは罪悪感でまた渋りつつ、引き下がる。
ファンは知らない裏事情というやつだな。
連合軍の最新鋭艦を支えていたのは人員もそうだが、高性能AIという文明の利器があってこそ、その恩恵を受けられていた。
ハルモニという高性能AIがグラディオスをバックアップしていたからこそ、作業の効率が促され、高速化を実現できたのだ。
それはなにもガリウスだけではない。ブリッジもそう。
私が今日感じたフラストレーションは、ハルモニのバックアップ無しでオペレーターがすべての作業をマニュアルで行わなければならず、それが指示の遅滞に直結した。優秀な人員を揃えた艦とはいえど、目が回るような殺人的スケジュールからハルモニが最優先事項を予測していたのも大きい。
「俺たちは………ハルモニを失って、弱体化したようにも思えてしまう」
「そう自分を責めるなシドウ。お前たちはよくやってる。確かにスコアは最悪だったがよ、こうして全員無事に帰投したし、なにより機体に損害がない。AIに頼らなくってもな、お前たちは一人前だぜ」
シドウが自信を失いかけると、カイドウやモーリスがフォローする。シドウも成長しているのだ。部下の前で弱音を吐くなど、滅多なことでは見られない。いや、シドウの悩みは全員共通しているからか。
「こうなってくると、ハルモニを失ったエースは、なぜグラディオスを奪えたのかも謎だな。まさか奴は、ハルモニのバックアップ無しで、俺たち以上の作業ができるということか?」
「そりゃありえねぇだろ。脳内チップこそ限界がある」
「ビーツ艦長はアリスランドのすべてを熟知していたので、単独でも操舵が可能でした。しかしエース少尉は………ええと、私が思うに、なにか別の………なんて言えばいいのでしょうね。そうだ。ハルモニのバックアップをいつも保存していたというではないですか。本体を失っても、コピーで操舵くらいはできるのでは?」
………なんだ? 今の。
モーリスが謎の沈黙から、思考を重ねて無理矢理修正したような回答を出したぞ?
ハルモニのバックアップなんて、本体に保存していたからダウンロードできるのに。初期化してはそれは無理だとわかっているのに、なんで強引な修正をした?
まさかこいつ、私たちが知らないなにかを知っているんじゃないのか?
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久々の四拍子! 気合いが入りますね。
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