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天を破りて・前A02

 今日も私とライラのペアは最強だった。


 作中で最強と呼ばれるソータのイレイザーにも匹敵する撃墜数を誇り、今やドイツ支部内での単独撃破数ならソータと比肩するくらいに。


「攻めと受けの絶妙なバランスは、最早芸術! 世界の美しさを知れクソどもぉぉおおおお!!」


『しーな。ごめんね。なにいってるかわからない』


 ついにツッコミを覚えた。少し私も熱くなって語りすぎたようだ。


 しかし、感情のオーバーフローの果てに習得した技術がある。


 エースのリヴァイヴのオールパーパスジャケットを模倣し、ライラの姿を模した雌型のアンノウンであることから、長い髪を変形させて射出したところ、イメージどおりに伸びてくれた。オールレンジ攻撃の完成である。


 全方位に射出できる髪の槍は、アンノウンを的確に射抜くと、超妄想世界を注入する。途端に多くが滅ぶ。


「いいじゃん。ライラの体、すげぇなぁ」


『しーなのいめーじがすごいからだよ』


 それは褒めすぎだ。


 原作の赤黒くなったアンノウンに戻ったライラの全貌は、刺々しい獣だった。本能のままに動き、敵を貪り殺す。無差別的で、原始的で、なによりソータのイレイザーでさえ苦戦させる膂力があった。俊敏性も高い。


 それと比較すればかなりのスペックダウンをしていると思うが、今はライラがライラのままでいられるアンノウン化だ。決して、それは悪いことではない。


 こうして私が受け持った北側はすべての敵影が消えて、東のドイツ支部のガリウスF部隊が担当する防衛網の加勢に突入する。


「損傷した機体は撤退しろ! 無理するな! ここは私たちが請け負う!」


『す、済まない。頼む!』


「おう!」


 アンノウン化したライラの胸のなかにいる私は、エメラルドグリーンの液体に漬けられているような感触が全身を包んでいたが、呼吸もできるし、腕の端末も使える。よってこの空域にいるパイロットたちと音声による通信も可能としていた。


 Jタイプの数は少ないが、FタイプとGタイプの姿もある。ガリウスFでは、どうしても力負けするところがあった。数十機いるとはいえ、相手をするのは難しいだろう。


 今後の対策として、グラディオス時代に培った技術を一部譲渡して、ガリウスF部隊を強化するという方針に出るらしい。おそらくジャケットの製造方法を渡すのだろうが、それで本当に間に合うのだろうか。


『しーな! みぎ! おっきなどりる!』


「Dタイプか! でも今なら受け止めてやんよぉおおおおおお!!」


 髪を伸ばしてDタイプの全身に巻きつけ絡めとる。


 これはガリウスでやろうとすると、アンカーなどが触れて絡まった途端に、ワイヤーを牽引され腕を、最悪全身を持って行かれるくらいの回転力を有していたが、ほぼ同じ素材のライラなら問題なく回転を止められた。


 ブンとDタイプを振り回し、周囲のアンノウンを弾くか貫通させて消滅を促し、最後にDタイプを崩壊に導く。


 周囲の環境を利用する。時として敵さえもうまく使えば、戦況はいくらでも動く。私がエースの代わりにパイロット科に転属して、シドウから教わった戦術だ。


 当初こそ実感がなかったが、実践してみると案外これがうまくいく。


 ガリウスの運用を想定していても、ライラというアンノウンは規格外なので合致する。そこは私が微調整してやればいい。ミリ単位調整まで整備の仕事でやっていたんだ。これくらいなら問題ない。


「オペレーター! 次はどこに向かえばいい!」


 ライラのなかでも通信が可能だったのはとても助かった。人類と意思疎通できなければ、やはり私も最終的に味方の頭数どころか、枠にさえ入れてもらえなかっただろう。


『シーナ、ライラ両名、その場で待機願います! 北と東の制圧は完了しましたが、第2陣が接近しないとも限りません!』


「………了解。このまま待機する」


 アスティオールのブリッジには、グラディオスの倍以上のオペレーターが増員され、戦局をコントロールしている。


 以前ならかなりギリギリだったのだが、今となっては余裕のあるコントロールを可能にしていた。


 超巨大な艦に対して、艦載機が少ないからとも言える。


 フルで動かせるのはソータのイレイザーと、ガリウスGナンバーズの二号機から十三号機まで。そして私たち。オペレーターはこの14人に指示を伝えている。それがオペレーターが増えてしまったことで、各員の仕事が減ってしまい、スムーズではあるが、やはり危うさの感じられるコントロールであると実感している。


 単に連携がうまく取れていないのと、新しい環境に慣れていないからでもあるだろう。


 私のように新参者のパイロットが戦闘に参加するのとはわけが違う。


 グラディオスとアリスランド。そのふたつのクルーを再編成し、合致させた烏合の衆でもある。


 敵として殺し合った者同士が、同じ部屋にいるとストレスが蓄積する一方である。モーリスはかつての私怨などを気にする子供はいないとは言っていたが、そこはどうしても浮き彫りになってしまい、遠慮したり、理解が及ばずにミスに繋がってしまう。


 グラディオス時代なら、私がこうしてライラと同化していれば───きっと手薄になりつつある南へと向かわせるだろう。エースがそう進言してくれたりして。


 クランドも手一杯で、戦闘のすべてに視界が追いつかない。クスドもそう。


 誰もが慣熟訓練を終えていないんだな。そして敵同士だった者へ、どう対応するのが正解なのか手探りで感触を掴もうとしている時点でもある。


 こればかりはどうしても、私もどうにもならない。エースだったら、どうしたものか。


「エースだったら………」


『どうしたの? しーな』


「いや、なんでもない。それより周囲を見張ってくれよ? 私だって、まだライラのすべてを知ってるわけじゃない。お前の感覚が頼りなところもあるんだからな」


『うん。わかった』


 ライラはいつでも素直だ。


 アスティオール勢となった両軍も、これくらい素直になればいいのに。というのが実際の不満なのだが、それができないのが大人でもある。


 実際に宇宙に飛び発つまでは時間がある。今は、その残された時間に任せるしかないということだ。


 私は静かに周囲を見渡す。


 しかし、結局そのまま戦闘は終了。後続が出現する様子もなかったので、帰投命令が出る。


 バリアの内側へと潜りながら、まだ一度も飛ぶことなく、今回も出撃することなく司令塔となったアスティオールへと戻るのだった。


「なんだかみんな、ピリピリしてるね」


 アンノウン化を解除したライラが、新調された軍服の袖や襟首を嫌がり、腕で緩めつつ述べた。


 ライラの隣に降りた私は、ハンガー直通のエレベーターに十二号機と十三号機とともに乗り、下へと移動する。


『無理もない。こんな状況ではな』


『気持ちはみんな同じだよ。ライラさん』


 コウとアレンにも聞こえていたのだろう。機体のスピーカーから応えを返した。


「でも、みんないっしょにたたかってるのに、なんでなかよくしないの?」


「本音と建て前ってやつさ。大人ってやつは、どうしても自分のプライドが邪魔をする時があるんだよ」


「ふーん。よくわかんない」


『シーナも、そうだったのか?』


 人間の本性を学ばせていると、コウが会話に混じった。


 あれからコウと、何回か話し合った。私の正体を知ってもなお、受け入れてくれた時は泣いた。


 けれどもやはり、コウも気にしているのだろうな。前世の私と、今の私を。


「私は人付き合いや、心理戦ってやつが苦手だったんだ。プライドだけで生きてる連中とは、そもそも話しはしなかった。友人も少なかったしな。だから、お前が考えてるような生き方はしてないよ。安心しな、コウ」


『そ、そうか。ならいいんだ………』


 前世の大人の私の相関図でも気になったのだろう。彼氏がいたのかとか、そういう部分で探りを入れてくるコウが可愛くて、ついニヤッと笑ってしまった。


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