星に抱かれし者C02
ビーツはどこまで読んで行動していたのだろう?
エースと比較するとスケールが違うと思い知る。やはり下衆ではあるけど、優秀なのだと。
例えば、エースは目先のことに集中する傾向にあった。そりゃ、主人公勢の乗る船だったし、思い入れのあるキャラたちがいるし。絶対にひとりも死なせないために動いていた。世界規模で動けたのは今回が初めてなくらいだ。
対してビーツは、いつも世界規模で考え動く。目先の人物たちは放置する傾向にあるけど、政治面では滅法強い。規模収縮するしかなかったとはいえ、オルコットという連合軍の重鎮のひとりを、様々な策略を巡らせて顎で使うくらいだ。
「グラディオス、任務了承しました。では、これより新たなる艦を受領し、総力を挙げてセッティングを行う! 各員、アスティオールに搭乗し、把握を急げ!」
「はい!」
エースではなくビーツの粋な計らいにより、私たちは新たな足を手に入れた。
各員、先日とは異なり、気合いの入った面持ちに切り替わっている。
「とはいえ、ドルテ。すぐにアスティオールを動かせる状態にはできないだろう。継続して世話になる。その間、ドイツ支部防衛の助力は惜しまない。協力をしてもらえないか?」
「是非もない。先日のJタイプの強襲のことも考えると、こちらも相当な被害が出たし、グラディオスの機体が防衛に加わってくれるなら大歓迎だよ。そして………シーナ・サクラ、ライラ両名。きみたちにも期待させてもらう」
トップたちが手を取り合い、防衛と発進の手立てを構築するなかで、整備士のみならず、いつしかパイロット………とは少し違う立場だが、戦力に数えられた私は震えながら敬礼。ライラもそれに倣うも、初めての敬礼は少しだけ角度が違う。きょとんとしているのが、また可愛い。
それから私は、ケイスマンの息子、モーリスがいるところまで移動した。ライラも続く。
「モーリス・テラー。ちょっといいか? 私はシーナ・サクラ。エース・ノギと立場と知識がほぼ同等の存在だと考えてくれていい。聞きたいことがあるんだ」
「エース少尉と? えっと、なんでしょうか?」
「この艦にも関連するんだけど………南極から運んできたんだって? 南極ドックでアスティオールが作られてたのは知ってるけど、アンノウンの目撃例が少ないだけで、決して来ないってわけじゃないだろ。………よく無事に脱出できたなってさ」
「ああ、そのことですか。確かにアンノウンの強襲はありました。私が特務として派遣されたのはビーツ中佐の命令もあり、それをハヴェクさんが知っていたのもあるのですが………ええ、まぁそれなりに苦労はしましたよ」
モーリスは原作どおり、控えめな性格が面に出るタイプだった。消極的というよりも、謙遜する性格に近い。
そんなモーリスを手招きし、耳にそっと小声で囁く。
「ビーツは南極ドックに行ったんだな?」
「………なぜ、そう思われたのですか?」
「辻褄が合うんだよ。南極ドックに先行したオルコットが、ビーツに脅されて、残り少ない権力をフル行使してアスティオールを受領。となると………ああ、そうか。お前、アリスランドがビーツに奪取された時、アリスランドに整備をするって名目で乗艦してたんだろ? で、ビーツがアスティオールに色々梃入れ………となると、こうなるよりも前に………そう、グラディオスがドイツ支部で半年過ごした辺りから、ビーツは南極ドックに繋がりがあったんじゃないか? 300メートルだったこれが、500メートルになるくらい改造されたのも、それくらいの期間があれば納得できる。どうだ?」
「驚いたな………全部正解です」
やっぱりな。時系列で考えれば、これにも辻褄が合う。
点を重点的に見て波紋を広げるように変えていくエースと、面を重点的に見て最初から多くを牛耳るように変えていくビーツ。決定的な違いはあれど、それは確かに、原作破壊行為によって最終局面が大きく変わってしまった現在に必要とされる人材であった。
それを助けるための計画が、私も知らない水面化で密かに動いていた。嫌でも差を感じてしまう。
「クランド。詳細にざっと目を通したが、運用可能になるのは数ヶ月先だとしても、ちょいと問題が発生したぜ」
「これだけの巨体です。ハルモニを取り付けることも可能ですが、制御したとしても、微細な調整を行う人材が不足しているのは否めません」
グラディオスクルーが駆け足でアスティオールに向かい、まずは自分の手で触れて感触を確かめていると、優秀であるがゆえにそれだけでほぼ理解してしまうカイドウ、アーレス、他の各部署のリーダーたちがクランドに報告した。
確かに、言っていることはただしい。グラディオスは300メートル。それを航行、戦闘において可能とするギリギリの人数で行ってきた。だがそれ以上の大きさとなると、話が違ってくる。フィーリングだけで可能にできるわけがない。完熟訓練を行ったとて、賄えはしないだろう。
「それについては心配はない。そうだな? モーリス」
「はい。解決を可能とする策が、ひとつだけあります」
クランドはモーリスを呼び止めた。モーリスは力強く首肯する。視線を横に向けると、建物から100名を超える人員がこちらに移動しているところが見えた。
見覚えのある顔ではないが、その軍服の色から察するに、これは───
「アリスランドのクルーか!」
カイドウが仰天する。
アリスランドのクルーはモーリスの背後に整列する。対するグラディオスクルーも、どこか対抗意識を持つようにクランドの後ろに整列した。私とライラはタイミングを逃して、両陣営の狭間に取り残される。
「我々は確かに、グラディオスと対立してきました。傷付け、傷付いた因縁を忘れたわけではありません。しかし、我々はビーツ艦長に恩義があり、忠誠を誓っております。グラディオスクルーにとって、クランド艦長に忠誠を誓っているように」
「ひとつだけ確認させてほしい。アスティオールに共に乗るということは、無論私が艦長となる。諸君らはビーツに忠誠を誓っていると言ったが、乗艦するとなると、私にもそれと同じことをしてもらうことになる。拒否することは許されない。それでもいいのか?」
「はい。我々はクランド大佐を艦長とし、忠誠を誓い、アスティオールにいる間はいがみ合うことなく、連携を重んじると誓います。アリスランドクルーは各セクションの下につきます。地球が、宇宙が、いや世界が終わるかもしれない瀬戸際に、かつての因縁を忘れずに喧嘩を売るような子供はいません。我々は、ビーツ艦長とともに戦いたいのです。あなたたちグラディオスクルーが、エース少尉とともに戦いたいと願うように。その気持ちだけは同じであると、ご理解いただきたい」
「………なるほどな」
クランドは部下を振り返る。
まだ半信半疑だが、それはこれから手探りで確かめればいい。
そしてモーリスが言うように、世界がどうにかなってしまう瀬戸際なのだ。仲違いをしている場合でもない。それが理解できない者は、ここにはいない。
「よし。グラディオス、アリスランドのクルーを再編成し、アスティオールに乗艦せよ! 我々はまだなにも終わってはいない。ここから再び始めるのだ! エースやビーツだけに苦しい思いをさせてはいけない。我々には恩義がある。それを忘れるほど堕落してはいない! 数ヶ月でアスティオールの調整を完成させ、エースならびビーツに追いつく! 辛く、厳しい道のりが予想される。しかし、それを乗り越える他ないのだ! 各員の努力と奮闘に期待する! 我々を裏切る演技をしたエースを、泣かせ、喜ばせてやれっ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
グラディオスとアリスランドが一体化し、咆哮を上げる。
形になった。
この土壇場で。
なら、私だってやれることをするしかない。
やってやる。
待ってろよエース。ついでにビーツ。
お前らだけで、戦わせねぇからな!!
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