星に抱かれし者C01
ぶっ飛んでいるにしてもほどがある。
なんていったって、着地したアスティオールの規模だ。
強風に吹き飛ばされそうになった私とライラを、アーレスが受け止めてくれた。礼も言わず、レイライトリアクターの回転数を落としているアスティオールを凝視する。
「なんだあれ………おやっさん。私の目がおかしくなければ、あの艦………レイライトリアクターを5基搭載してませんか?」
「あ、ああ。俺もそう見えるぜ………」
「流石はシーナ・サクラ。カイドウ主任。見ただけで理解するとは。そのとおり、あの艦には新たに2基増設し、合計5基のレイライトリアクターを搭載しております。さもなくば、あの巨体が飛ぶはずがない」
まぁ物理学の基本だな。質量のある物体は、推進力が無ければ移動できない。質量以上の揚力が無ければ飛ぶことはおろか浮かぶこともできない。
「アスティオールの全長は500メートルです」
衝撃的だった。だって「私の戦闘力は53万です」みたいな言い方するから。
倍ではなかったものの、それに近い数字だ。
つい絶句してしまう。200メートルも延長された超巨大な艦なだけあって、様々な機能が追加されていそうだ。例えば艦載機を射出するカタパルトなんて4つもある。
「これがアスティオールの詳細です」
ハヴェクから追加情報が公開される。
私たちは覚えている限りのグラディオスの詳細を見比べ、驚き続ける。
「なんにせよ、これで足ができたな」
クランドはハヴェクからなにもかも聞かされていたゆえに、驚き続ける私たちを愉快そうに見渡しながら述べる。
「凄まじいものですな。この、私たちも知らなかった三番艦というのは」
「ああ。いったい、これだけのもんをどうやって作ったんだか。あー、いや。それよりもだ。おいクランド。あのクソでけぇ艦、いったい誰が動かしてやがる? 着地する瞬間、どうも乱暴だったぜ。仮にお前がブリッジにいれば、ブチギレるレベルだ。そんなに優秀な操舵師が乗ってるとは思えねぇんだが」
「ああ、そのことか。そろそろ降りて………ああ、来たな。紹介しよう。彼は我々の新たな協力者だ。とは言っても、私も対面するのは初めてなのだが」
ドイツ支部の整備士がタラップを接近させる。アスティオールはそれを受け入れるように昇降口を開いた。
降りてきたのは20代半ばの白人の青年だった。
「………見覚えがあるな。どこで………あっ」
記憶を遡る。第1話から高速でキャラクターを連想し、第2クールで合致する人相があった。
「モーリス・テラー………」
「そうだ。ケイスマン教授のご子息だ」
「ケイスマン教授の!?」
その名前を言い当てる。クランドが首肯し説明すると、たまらず反応を示す宇宙コロニーサフラビオロス出身の学徒兵たちは大声を張り上げるほど驚いていた。
パイロットたちはケイスマンに教わっていたくらいだし、宇宙ではなく地球で会えるとは想像もしていなかっただろう。
ただ、降りてきたのはモーリスだけではなかった。脂肪をそこらに積載した中年男性がヒィヒィいいながら階段を下っている。私はその顔を知らない。原作に登場していないからか。ただ、その男を視認したドルテが笑顔のまま軽く舌打ちしたのを聞き逃しはしなかった。
ドルテほど良識があり、人望も厚い人物に舌打ちされるくらい毛嫌いされている人物となると、ビーツくらいしか思い当たらないが。
「ドルテ支部長。アスティオール、ただいま到着しました」
「予定どおりの時刻だね。ただ、着艦にいささか不安定さが残る危うさが印象だったが」
「申し訳ありません。なにせ操舵師どころか艦長もオペレーターも、とにかくすべてが不在なものでしたから。この方は艦の運営については門外漢ですし、実質私ひとりですべてこなさなければなりません。私のプログラムで補助したものの、いやはや、それだけではうまくいかないものですね。現実と理想はまた異なると、貴重な体験をさせていただきました」
モーリスとドルテは敬礼する。
問題はその会話内容だ。
500メートルの超巨大な艦を、たったひとりで操った。やはりこいつも優秀なメカニックなのだと理解できる。むしろたったひとりで、よく目立った傷もつけずに着陸させたものだと脱帽する。モーリスもエースに並ぶ狂人の類いか。
「そして………ようこそ、オルコット様。あなたが毛嫌いする地球の大地へ。いかがですかな? あなたが肥溜めの臭いがしそうだと悪罵したドイツの空気は。澄んでいるので五臓六腑に染み渡るでしょう? 食べ物もとてもおいしいので、あとでご賞味ください」
「チッ………若造め。調子に乗るなよ………だが、肺腑が凍てつく南極より、ずっとマシか………」
驚いた。驚愕の連続だ。
オルコットといえば、連合軍の高官のひとりだ。その声ひとつで指針が変わるとも言われた権力者。
それがなぜこんなところにいるのだろう。疑問視されるのは、アスティオールに乗ってドイツの大地へ踏み入ったことだ。
以前のドイツとアメリカの戦争は、連合軍の幹部同士による代理戦争へと発展した。アリスランドの背後にいるオルコットと、グラディオスの後ろ盾となってくれたデクスター家によるものだ。
結果、グラディオスが勝利することでデクスター家がオルコットを上回り、オルコットは敗走することになる。以前、息をかけていたアメリカ支部に逃げたと噂を聞いたが、謎の失踪したとも耳にした。ドルテのように恨んでいる人物も多そうだし。アメリカ支部とて権力が半減したオルコットにつく理由もない。暗殺されたのでは、というのが私の予想だった。
けれどこのデブジジィ、なんつった?
南極だと?
やはり外伝だ。私ももちろん目を通した。推しカプは主人公のボンクラ凄腕パイロットと、整備士の冷徹な男。喧嘩ばかりしていたがそれも隠し味。終盤で手を取り合って窮地を脱するシーンは何度も「よし、そこでキスしやがれ」と妄想した。整備士の男が自分を犠牲にして主人公を助けるシーンは涙した。最早愛情だよな。愛が成すこと。私にとっては。
けど、オルコットは南極に登場しない。なんで南極に行き、スピンオフ作品のキャラクターたちが心血注いで製造した三番艦に乗ってドイツ支部に来たのかも理解不能。
「オルコット様。アメリカ支部に降り立ってから消息不明となっていたのは南極にいたからですか。なぜです?」
「ふん。ビーツの失態により、我がオルコット派は規模を収縮するしかなかった。だがただでは終わらん。次は地球で返り咲く。そしてビーツを殺す。………と考えていたのだがな。あの忌々しい小僧め。奴こそただでは終わらん最悪な悪童だった!」
「ほう?」
「地球で開発されているという三番艦を、我が権限において受領しようとしたところだ………ビーツめ。オルコット派のこれまでの行動を事細かに記した証拠をメディアにリークすると脅してきおった。今も未来も軍人でいるためには………奴の軍門に降るしかあるまいよ。よって、仕方なくアスティオールを貴様らのところまで運んでやったのだ! 感謝するがいい!」
「いえ、オルコット様は寝て食ってを繰り返すばかりで、まるで家畜………ああ、いえ。なんでもありません」
言うねぇ。モーリスも。
なぜオルコットがここに来たのかは理解できた。ビーツの仕業だったのだと。
だからこそ怪訝でならない。それだけではないはずだからだ。
すでにクランドはわかっている。代表して尋ねる。
「あなたはもうひとつ、私たちに言うべきことがあるのではないですかな?」
「くっ………ああ、そうだ。いいか、心して聞け! オルコットの名において命ずる! グラディオスクルーたちは、アスティオールを受領し、大挙して押し寄せるアンノウンの群れを叩け!」
なるほど。異動命令を撤回し、再び編成して最終決戦に向かえという意味だったのか。
ビーツめ。やってくれる。素直じゃねぇなあ、あいつ。
二日酔いが酷いのであと1回が限界だと思います。
19時に更新します!
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