星に抱かれし者B10
「現在、エース少尉とビーツ中佐は、グラディオスとアリスランドを持ち込んで、とある作戦に備えております」
「グラディオスとアリスランドを、どうするって?」
「具体的な内容はお教えできません。そういう契約です。ああ、でも………私も最近働き詰めでしてね。ついうっかり、意識が飛んでエース少尉から受け取った企画書がどこかに送られてしまったり………ああ、眩暈がすごい」
大した大根役者野郎だ。
ハヴェクは天を仰ぎながら、スマートフォンに似た端末を操作し、私の腕の端末にデータを送信する。
どうせ、こういう手合いの連中は私たちに害悪を成さない。ハルモニが不在なため高度なスキャンを高速ではできないので、ウイルススキャンはせずにファイルを開く。
「………おい。おいおい………エースは正気なのか!?」
「どうしたシーナ?」
「どうしたもこうしたも………おやっさんたちにも送信しますので、共有してください。………ったく。私には理解できねぇ。男子って、本当にこういうの好きだよなぁ!!」
送られてきたのは膨大な設計図で、100枚以上はある。数秒で読解できないので、概要から最重要項目のみ目を通したが、はっきり言って頭がおかしい内容だった。
カイドウたち整備士に送信する。全員がこぞって設計図に目を通すのだが、まず沈黙。それから、あんぐりと口を無様に開いて、驚愕しているのか唖然としているのか不明なリアクションを続行する。わかる。私だって、呆れていなければきっと同じリアクションだった。
しばらくカイドウたちは元には戻らないだろう。対応できる私が、クランドに向き直る。
「艦長は、このスケールがぶっ飛んだ内容をご存知だったんですか?」
「知ったのはつい最近でな。そこのハヴェクに事細かに教えてもらった。ドルテとともにな」
なるほど。ドルテが不在な理由は、ハヴェクによる説明会が数日に渡り行われていたからだ。
この頭のネジをすべて外して溶鉱炉に落としてスープにしたあとみたいな設計図だけではない。エースが組み立てた作戦内容も聞かされているのだろう。
だからこそ解せない。
クランドも今や、私たちと同じく蚊帳の外にいる。部外者にも等しい。
なのに、悔しさが一切感じられない、涼しげな表情をしていたのだ。厳しくとも人情に厚いクランドらしからぬ、クールなリアクションに違和感を覚えた。いつもなら「エースばかりに苦しい思いをさせてたまるか! なんとしても追いついて、我々もグラディオスに乗り、作戦に参加するぞ!」なんていう熱血漢みたいなことを叫ぶと思っていたのに。
「なら艦長。今、なにを考えているのか聞かせていただけませんかね。エースにここまでされたんだ。艦長が大人しくしているなんて、らしくない。なにか考えがあって、落ち着いているように思えます」
「さすが、3人目の転生者なだけはある。大した観察眼だ。………ハヴェク。時間はどうか?」
「そろそろです。すでに近くにいると聞きます」
ハヴェクに確認を取るクランド。時間を気にする理由はなんだ?
私はハヴェクを睨む。ハヴェクは肩をすくめ、私の睨みを流した。金玉でも蹴り上げてやろうかと思うほど苛つく反応だった。この蛇野郎だけは私の超薔薇園的理想郷には入れてやらねぇ。
「近くにいるって、どういう───」
「ドルテ支部長! 近海に展開中の艦のレーダーに反応あり! なにかが浮上します!」
私の質問を遮ったのは、同席していたドイツ支部の人間だった。
なにかが浮上と聞けば、潜水艦とか? アンノウンは海中に存在することはできない。ならばそれは人類の手で作られたものしかない。
しかし、
「了解した。それは飛び立ち、この支部上空に来るだろう。手出しは無用、静観を維持。攻撃は禁ずる。また、この支部の近くに来たら誘導してやれ。着艦場所はここでいい」
「し、しかし!」
「大丈夫だ。友軍だよ」
友軍だと?
しかしこのタイミングで? 潜水艦程度が駆けつけたからといい、なにが変わるというのだ?
原作にもそんな展開はない。グラディオスあってのソータたちだ。そのグラディオスに並ぶ兄弟艦アリスランドも持ち去られてしまった。
宇宙にすべての戦力を上げるのは間に合うし、コーネリアの協力があれば最終決戦にも間に合うだろう。だが補給もままならないだろうし、こちらのコンディションが最悪のまま決戦に挑んだとしても旗色が悪くなる───ことはすでにクランドも先知しているはず。
いったい、なにを企んでいる?
と訝しむと、次第に西の空にて、なにかが見えた。
陽光を受けてキラキラと輝いている。
「………え」
エメラルドグリーンだ。宝石のように輝く正体が、徐々に接近すると、空を飛ぶなにかだと判明する。
「う、お………!?」
誰もが声にならない声を上げた。
原作を知り尽くしたエースが、これを見たらどう思うだろう。
「エース・ノギ少尉のプランは完璧でした。オードリアインジェクション社にも設計図を共有しておりますので、此度のプランには融資を行いました。しかし、その穴に気付いたクライアントがいます。それがビーツ・クノ中佐です。オードリアインジェクション社はガリウスEの量産で信用を落としましたが、経営の見直しを行い、杜撰な管理や製造を改善しました。その結果、業績も少しずつではありますが回復し、今やあのエングレルファクトリー社にも劣らない規模になるまでとなったのです。エース・ノギ少尉は知りませんが、ビーツ・クノ中佐にはたくさんのアドバイスをいただきました。発言権も強くなっております。ゆえに、此度もビーツ・クノ中佐のアドバイスを参考に、エース・ノギ少尉には徹底的に事実を隠蔽し、あなた方に助力することが決定したのです」
「それが………これだと?」
私はハヴェクを見上げて問う。ハヴェクは目を丸くする私を面白そうに眺めて、首肯した。
「そのとおり。どうやら、聞けばあなたはご両名と同じ存在だそうで? では、我々の頭上に来たあの艦のこともご存知ですね?」
ハヴェクが指さす方、その頃にはドイツ支部を覆うバリアの目前に来ていた、翡翠色の巨大な艦が来ていた。
ご存知もクソもねぇ。
私だって「天破のグラディオス」のファンだ。
原作には登場しなかったが、外伝には確かにその名があった。
それは───
「特殊強襲特装艦………三番艦………アスティオール」
「そのとおりです。シーナ・サクラ」
「三番艦だと!?」
カイドウが声を上げた。衝撃的だったもんな。設計図から目を離して、バリアに迫る艦を見上げる。そしてその存在を知らなかったのも無理もない。
「おっと………これは予想以上だったようですね。皆様、後退しましょう」
「う、わ、あ、ぁ、あ!」
確かにハヴェクの言うように予想以上だ。クスドが変な悲鳴を上げるくらい。
急いで走って下がる。
その頃には上空のバリアが部分解除されて、翡翠色の艦、アスティオールが降下してきた。
なんていう迫力。さっきからゾクゾクしっ放しだ。初めてグラディオスを見た時のような興奮があった。走りながら何度も振り返る。どんなダイナミックな映画よりも、本物は臨場感がある。
なにもかもが予想以上………いや、なんか変だぞ?
「お、おい! 蛇野郎! どうなってんだありゃ!」
「蛇………私のことですか? やれやれ。初めてそんな呼ばれ方をしましたよ。それで、どうなっているんだ、とは?」
「部分解除されたバリアのことだよ! あれは………どう見てもグラディオスの倍は解除されてる! アスティオールの全長はグラディオスと同じく300メートルのはずだろ!?」
「そのことですか。それは心配に及びません。すべてビーツ・クノ中佐の設計です。確かに規格外の大きさになってしまいましたが、それはあの方がエース・ノギ少尉に勝利する最終手段に度重なる改造を命じていたためでした。南極ドックとも繋がりがあったようで。しかしビーツ・クノ中佐のその計画は敗北によって頓挫しまして。中佐は、あなた方のためにあの艦を使うことになるとはと、愚痴のようなメッセージを送っていましたよ」
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