星に抱かれし者B08
尋問を受けている場所は建物内ではない。グラディオスが留まっていた広場だ。
監査は呼び出しているが応答がなく、仕方なくドイツ支部の副支部長たち、それからグラディオスクルーで私を包囲して逃げ場を塞いだ。そんなことしなくても逃げないのにな。
用意されたテーブルを挟んで副支部長。対面側に私とライラが座っている。
大勢の人間で描く包囲網の外には、ガリウスF部隊が待機していた。
尋問場所が建物内ではないことと、ガリウスF部隊の展開の理由が、ここで繋がる。
私が再びライラと同化して巨大化すれば、建物内であれば倒壊は免れない。アンノウン化すればガリウスF部隊が銃殺するつもりだろう。でも、Jタイプをも上回るライラに、15機程度のガリウスFで到底勝てるとは思えない。
この尋問にグラディオスクルー全員を同席させたのは副支部長の采配だ。都合、私はまだグラディオスに所属しているし、数ヶ月に渡って行動を共にした仲間だ。アンノウン化すれば、全員まとめて消し飛ばすことになるぞという、人質同然になってもいたのだ。
「では、このライラという少女がアンノウンなのかね?」
「うん。そうだよ。らいら、あんのうんなんだよ」
「………きみは答えなくていい。今はシーナ・サクラに聞いている」
この尋問が始まってかなり経つが、そろそろ副支部長に疲れの色が濃くなりつつあった。
というのも、私は絶対に折れないし、ライラは外見のわりには言動が幼い。水掛け論を無制限にやるにも、精神力と体力は有限なのだ。
だから私もかなり疲れていたが、意地でも持論を曲げることはなかった。この程度で参っていては、真の推し活などできないし………なにより、エースが受けた苦痛はこんなものではないと言い聞かせた。
「彼女はアンノウンに近しいものでありますが、あえて断言しますと、人間の心を持っています」
「またそれかね。いい加減にしたまえよ!! ………な、なんだね。そんな目で私を見ても、状況は変わらない!」
ついに我慢の限界が来て、副支部長はガンとテーブルを殴って大声を張り上げる。しかし、その直後にライラが副支部長を睨みつける。Jタイプを容易に退けたアンノウンという見方が濃厚な説となっている現在、ライラが剣呑な瞳で睨みつけただけで、誰であっても怯えすくむのは無理もない。
「しーなにいじわるするひと、ゆるせない」
「ライラ。いいから、座りな」
「でも」
「いいから。ありがとな、私のために怒ってくれて。ほら、こっちおいで」
「ん!」
副支部長を牽制するような視線を投げかけるライラを宥めつつ腕を伸ばす。するとライラは、嬉しそうに私の胸のなかに収まった。
この場にいる全員が、いつライラが暴走してアンノウン化するか気が気ではなかった。とはいえ、私の意見も気になる。よってリスクを承知でここに集まっていた。
暴走しないとわかった副支部長は、ほっと胸を撫で下ろす。
「とはいえ副支部長。私もライラのすべてを御せるかはわかりません。不用意な発言や、乱暴はお勧めしません。今はこうして宥められていますが、いつ私の掴んでいる手綱がちぎれて、暴れるかもわかりませんので」
「………私を脅すつもりか?」
「滅相も無い。ただのアドバイスです」
分離して理解したが、私とライラは、双方の合意があって初めてアンノウン化できるようだ。
原作ではアメリカ支部で受けた仕打ちに恐怖し、絶望したことがトリガーとなったが、今回は私とともに戦える喜びによって任意に変身と解除ができるらしい。かなり便利だ。
「副支部長。逆にお尋ねしますが、あなたはどのような状態になれば満足されるんです? 私たちを反逆者として捕え、処刑するのがお望みですか? まぁ、それもみんなが安心する方法のひとつなのでしょうね。でも、そのあとは? 結局、グラディオス側で動かせるガリウスは、アークのタキオンだけです。他の機体はまだまともに動かせる状態にない。ではドイツ支部のガリウスF部隊は? もし昨日みたくJタイプが襲ってきたら? 戦えますか? 守れますか? この支部を」
「………まるで、お前がこの支部を守る要になる。そんな言い方だな」
「それで間違っていませんよ。副支部長。取引しませんか? 私とライラを減刑した上で、ある程度の自由を保証してください」
「その見返りに得られるものは?」
「私とライラがアンノウンを撃破します。ドイツ支部を守ります」
「………敵かもしれない人間を受け入れろと?」
「ええ、まぁそういうことですね。………下手をすれば私とライラが孤立化するのはわかっています。敵視されるかもしれない。このドイツ支部はアメリカ支部に次いで繁栄しているから、難民が保護を求めて集まった場所。つまりアンノウンに居場所を奪われて、大切なものも奪われて、恨んでいる奴が大勢いる。ライラや、ライラと同化した私も同然に恨まれ、果てには暗殺さえ企てられるかもしれない。でもね、ここは私の故郷です。そしてグラディオスに乗っていた仲間も全員いる。こんな状況ではすぐに異動とはならないでしょう。立て直しをするにも時間がかかる。私は故郷と仲間を守りたい。ライラもそれを願っています。そのためなら、みんなのためなら全力で戦います。そうだろ? ライラ」
「うん。らいら、あんのうんをぶちころすよ!」
「コラ。そういう言葉は使っちゃいけないって教えたろ?」
「えへへ。ごめんね」
ライラは非戦当時であってもエキサイトした言動をするので、副支部長たちはギョッとして後退る。
しばらく私とライラを見比べて、やはりすぐには出せない結論なのか、重鎮らと顔を寄せ合って会議する。
「その………ライラというアンノウンの少女は、本当に味方なんですか?」
質問をしたのはドイツ支部の重鎮らではなく、同席していた整備士の女だった。
「ああ。ライラがアンノウンであると同時に、ライラはグラディオスを危機から何度も救ってくれた。それだけでも信頼に値する。彼女はアンノウンと、人間には出せない高周波で通信を可能にしていてな。グラディオスを襲おうとしたアンノウンを退けたことがあった。そうでしょ? おやっさん。覚えてますよね? ライラが戦闘中に甲板に出たこと」
「高周波………ああ、そういうことか。確かに、ライラはいつの間にかふらっとエレベーターに乗って、外に出たらアンノウンを睨みつけて、たったそれだけなのにグラディオスを攻撃しようとしたアンノウンが不自然な後退をしたことがあったが………ライラ。お前、アンノウンと会話していたのか?」
「うん。そーだよ。かえって。っていったんだ。らいら、ぐらでぃおすのみんながだいすきだから!」
「………そうかい。そういうことかい。………副支部長。少なくとも、俺ぁライラを信じることができる。シーナの証言も、納得できる部分が多い。そして情けないことに、現在こっちが置かせてもらっているガリウスGの復旧もうまくいってねぇ。ドイツ支部さえ良ければなんだが………シーナとライラを、受け入れてもらうことはできねぇか? もちろん、なにかあったら………俺も責任を取る」
カイドウに同意を求めると、案外すんなりと信じてもらえた。
ライラだけでなく、私もか。
それはつまり、カイドウも思うところがあり、認識が改まったということだろう。もちろん全幅の信頼を得たわけではないが。
でも少なくとも、昨日の夜よりかは、振り返った先にいたカイドウ───いや、グラディオスクルー全員の表情が変わっていた。
自分たちの愚かさを知り、そして改善しようと決意した目をしている。
なるほど。みんな、エースを信じることにしたっていうことか。
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