星に抱かれし者B07
俺がここまで運んだグラディオスは今や、その原型を留めていなかった。
元日本支部跡地に住まう日本人たちは、リヴァイヴの製造の時に手を貸してもらっただけでなく、グラディオスを持ち込んで魔改造してほしいと依頼すると、正気を疑われた。
職人たちが数百枚に至る設計図を熟読するまで数日。情報共有に1日。そしてグラディオスの魔改造に着手した。
第2クールが始まってからも激戦を勝ち抜いてきた艦のオーバーホールも兼ねているため、そりゃもうバラバラにする勢いで分解が始まっている。
こんなのを見たら、カイドウなんて泣き喚きながら発狂しそう。
けれども3年前にアリスランドを製造したクルーが揃っているだけあって、さすがに迷いが無い。どこになにがあるのか、完全に理解して作業を進行させていた。
「元々の設計段階から組み直し、しかし既存のパーツの7割を流用。設計前から想定していたがオミットしたギミックの一部を復旧。オードリアインジェクション社から取り寄せたパーツを使い、新規に追加した可動域の強化。やることは多いが、なんとかきみのオーダーどおり、数ヶ月で完了はするだろう」
「高田さん」
トーマスに押してもらう車椅子に乗り、ドックのなかを移動していると、この施設全体を管理し、日本人たちの代表である高田に声をかけられた。
高田は連合軍の日本支部に所属していた軍人で、整備士をしていた。
度重なるアンノウンの猛攻に晒されれば、先進国とはいえこんな島国はすぐに見捨てられる。世界からはすでに、日本人は絶滅危惧種として扱われてもいいくらいだ。
しかし日本支部にいた高田たちや、その家族は生きていた。日本とは古来より職人の国という認識がある。生産できるものは世界基準からすれば到底少ないが、流通に頼ることで世界から物資を集め、腕のいい職人たちによって良質な品を作ることができる。ミリ単位以下の作業を機械に頼らず手で完成させてしまう技術を持ち、この代まで連綿と受け継がれてきた。
元日本支部跡地の地下に生活していた彼らは、偽装ドーム兼バリアを上空に展開することで、アンノウンのみならず人類からも隠れて生活してきたのだ。
見捨てられた島国の地下では、世界でもほんの一部しか知らないルートでアリスランドの製造をオーダーされ、完成後はビーツの手によって存在記録を抹消。完全な孤立を果たすことで自給自足をしながら細々と暮らしていた。
ところが、そんな彼らの前に原作という名の予定にはない、俺という存在が度々訪れては無理難題をオーダーする。彼らにとって、俺は命の恩人であるという認識があるからこそ引き受けてくれるが、そうでなければ恨みを買われ銃殺されていたかもしれない。
「まさか、自分たちの手で再びあの艦と同一のものに触れられるとは思ってもいなかったが………やり甲斐もあるのも事実だ。そうでなければ、エースくんの依頼を断っていただろう」
「すみません。リヴァイヴの時もそうでしたが、今回はレベルの違うオーダーをしてしまって」
「気にしなくていいさ。これまでは鎖国状態のままでいいと思っていたところにきみが来て、認識まで変えてしまった。もはや、我々も世界から無関係でいられないし………なにより世界の危機とあってはね。エースくんからの依頼を断れば、我々は来年の桜を見ずに死ぬというではないか。なら、やれることはしっかりやらなければ」
高田はそう言って、現場の指揮に戻る。
暇なひとではない。今のは、俺へのエールを送ってくれたのだ。
高田含め、元日本支部跡地に住む人間たちには、俺が転生者であること以外のすべてを明かしている。作戦内容。根拠。被害予想。そのすべてを理解し、高田たちは協力してくれた。
なにより、高田の言うとおり、もう彼らは世界から無関係ではない。
トーマスはここに滞在し、元日本支部跡地の連中の仲間として迎え入れられたのだろう。外国人が移住したということに意味がある───わけではない。トーマスという元エージェントがグラデオスとオードリアインジェクション社の窓口となることで連絡係となっていたので、オードリアインジェクション社は高田たちを支援することで、この富士ドックがオードリアインジェクション社の仕事を受けるようになったのだ。
物資搬入ルートは、このドックから直通の海底トンネル。堂々とタンカーが寄港するわけにもいかないので、基本的に遠隔操縦可能な無人潜水機を使い、監視衛星からの探知を免れている。
「エースくんは無茶するのが大好きだねぇ」
「うるさいよ。なにも、好きでやってるんじゃないんだ」
「どうだか。さもなきゃ、こんな誰も思いつかないことをしないよ」
苦笑するトーマスに運ばれる。
向かう先はブリッジだ。とはいえ、今は各ブロックごとに分解しているので、これまでと同じように艦の中央寄りにあるそこにエレベーターから向かうのではなく、切り離され、さらにバラバラにされたそこにある細々な部品や機材の奥にある、外部動力によって作動するシステムと、艦長席が目的地だった。
『6度目の実験だ。前回の失敗から修正を施した。タイムも測るが、短縮できて1秒。敵陣の眼前で行う盛大な自殺行為に、いつまで絶望しないか見物だな』
「時間が許す限りトライし続けるさ。トライアンドエラーこそ人類の歴史を築いたんだからな。俺だって、そんなすぐに成功するとは思ってねぇよ。失敗点を発見して潰していきゃいいんだ。とことん付き合ってもらうぞ」
『きみの精神力は、相変わらず異常だ』
ケイスマンの意志の辛辣な意見に同意する。俺がイカれてることなど、最初から知っている。これが俺の究極の推し活の最後の舞台となるのだから、例え誰に見られていなくても、盛大にやりたい。
すべては勝つために。
俺はそのために、俺の命を使うんだ。
夜が明けた。
ドイツ支部の上空は、闇夜を彩っていた火砲が止み、時間の経過とともに晴天へと変わる。
晴れ晴れとした空を見上げる。こういう日に出かけるのも悪くはない。散歩は嫌いではないのだ。男性声優が歌う曲をイヤホンから爆音で流し、街道を歩くだけでもリフレッシュになる。
まあ、そんなことを許してくれる状況ではなかったのだが。
「シーナ・サクラ。もう一度聞く。きみはアンノウンではないのか?」
「何回同じ質問するんです? そんなに疑うなら、私を分析すりゃいいでしょ? 血液検査だって受けますよ。解剖は………あとが面倒なので勘弁してほしいんですけど。スキャンなり、脳波なり、色々あるでしょ? 人類はもうそんな古典的な医療しか持っていないわけじゃないんですから。ね? 副支部長。そういう検査には全面協力しますって、最初から言ってるじゃないですか」
あれから数時間が経った。
Jタイプ10体の強襲とかいう、戦力が偏るドイツ支部からすれば絶望しかない展開であったが、なんとか切り抜けることができた。
すべてはライラのお陰だ。私はライラのなかに搭乗して、超薔薇園的理想郷のイラストをぶちかましただけ。Jタイプは理解できず勝手にくたばった。以上。
けれど、大筋こそ間違っていないか、仔細を求めるドイツ支部やグラディオス勢には、簡単には許してもらえなかった。
私はライラとうまく分離することができた。ライラもまた人間の姿に戻った。
ライラのなかで腕の端末が使えたのは幸いだった。さもなくば、接近するアークを説得し、ともにドイツ支部のバリアのなかに入れることはできなかった。
けれども、カイドウたちの説得があったので銃こそ向けられなかったが、姿かたちや色こそ違ったが、アンノウンに同化したのは違いない。無罪放免にはならなくて、私は疲れているのに、こうしてライラと数時間にも及ぶ尋問を受けていた。
予想はしていたけど、マジでダルくなってきた。ライラの力を借りて、副支部長の脳に自筆BLイラスト集300枚を送信できれば、黙らせることができるだろうか? いや、精神崩壊しかねないか。
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