星に抱かれし者B06
「………はぁ」
「お疲れさん。エースくん。皆さんの様子はどうだった? 感動的な再会はできたかな?」
とある部屋にて。
ベッドに仰臥していた俺は、重たい瞼を力づくでこじ開けた。
ベッドの隣には、見飽きた糸目の男がいて、儚げな笑顔を浮かべて、起き上がろうとする俺を介助してくれた。
「あんな裏切り方して、感動もクソもあるか。めっちゃ恨まれてたよ。でも………少しは助けられた。なんとかして窮地を切り抜けてくれることを祈るだけだ」
「そっか。………辛いね」
「ああ」
有事の際に誰かひとりでも救えるため、俺が監査に拘束される前にドイツ支部のハンガーに意識を侵入させ、そこに保管されていたガリウスFを数機制御下に置いておいた。
こうしてドイツ支部を遠く離れても、リモート操縦をするために、あるいはみんなの反応を観察して、いつでも俺が一歩先を歩けるよう監視カメラとしても使うために。
ドイツ支部を離れて約1週間。地球全土が平和とは程遠く、あれから数回アンノウンの強襲を受けたドイツ支部だったが、アメリカ支部に次ぐ第2位の防衛率を誇るだけあって、物量差作戦でアンノウンを押し退けたまではよかった。
ドイツ支部も、俺も予想外だったのが、Jタイプが10体も揃って強襲してきたこと。加えてグラディオス勢の戦力は9割以上を自らの手で封印してしまった。ドイツ支部の同胞に恐怖を与えないための措置だったとはいえ、ハルモニくらい起こしておけばよかったものをと呆れていた。どちらかといえばシーナも気付くべきだった。が、そんなことを言える立場ではない。
仕方なく俺は、これを有事であると判断。支配下にあったガリウスFを制御して出撃。目先の脅威のみではあったが、全員の命を救うことはできた。
しかし、それでなにもかもが救えたわけではない。孤軍奮闘するも、ガリウスFとJタイプではスペックから違う。数分で落とされた。
俺が稼いだ数分でハルモニを起こせただろうか。シーナはアークのタキオンのパスワードを持っていることを思い出せただろうか。誰ひとり欠けることなく、あの脅威から脱しただろうか。とにかく不安が尽きない。
「もう1回………潜るか」
「馬鹿言っちゃいけない。きみの脳内チップのキャパシティの残量は24パーセントを下回っているんだ。今は計画を優先したいんだろう? だったら彼らを信じて、託すしかない。そんなに不安なら、現地にいるエージェントに連絡を取るよ。なーに、心配しなくていい。エージェントの応答さえあれば、ドイツ支部が残存しているという証拠だ。いくら我が社のエージェントとて、Jタイプなんていう化け物級のアンノウンが10体も侵入した支部にいれば、無事では済まないだろうからね。応答があったら奇跡だろうけど、その………僕はそんな奇跡が起こることを祈るよ」
「できれば俺もそうしてぇよ。でもな、トーマス。奇跡ってのはそう簡単に………」
『演出に凝り、出せた成果によって、驚愕の度合いも異なる。その度合いが大きければ大きいほど、他者は評価を改める。奇跡など所詮、他人の印象から称賛されたものでしかない。きみとて、幾度か起こしているではないか。奇跡とやらを』
「否定し難ぇけど、そんな理屈を抜きにしても、あの地獄を生き残ることができれば奇跡って呼びたくなるだろ」
俺のベットの横に置いたパイプ椅子に座るトーマスは「確かに」と薄く笑う。
そうさせたのは、俺と、部屋のスピーカーから流れる電子音声によるものだ。ケイスマンの意志という人工知能と、トーマスは平然と会話をしていた。どうやら面識ができたのは、俺が適合するか不明なナノマシンを注入した直後、仕方なくケイスマンの意志が緊急事態と認め、トーマスに処置の指示を出した時だったという。
俺、トーマス、ケイスマンの意志。
なんとも原作のストーリーには一切関係しない3人の奇妙な縁。
利用するために助けたトーマス。偶然搭乗することになったプロトタイプガリウスGの特殊レイライトリアクターに潜んでいたケイスマンの意志。
偶然の産物から生まれた三者による連合。
しかし、この連合こそが俺の描いた新しく、そして墓場までの直通片道キップまでの必要とされる鍵となったのも事実。
『エース。こうしてきみが焦ったところで、なにもならんよ。そして無理をしてドイツ支部まで再接続すれば、逆探知されかねない。今はきみの仲間の奇跡を祈るしかあるまい。あちらは戦力としては心許ないが、解決する策を持つ者もいるだろう?』
「それはまた無茶な賭けってやつだ。………ライラには、平和に生きてほしいんだ」
原作ではすでに退場しているが、今回は無傷かつ闇堕ちしなかったライラがJタイプと対話して撤退させる。これが一番の効率がいいのだが、大勢の目がある前でそれをやると、ドイツ支部からライラが疑われる。そうしないために俺がリモート操縦したというのに、成果を出せなかった。リヴァイヴを置いてくるべきだったのだ。
「もし、ライラという子が危なくなったら、エージェントに言って保護してもらうさ。多少は乱暴な手を使うかもしれないが、こちらに移動させてしまうのも手だろうね」
「………悪い。頼む」
「珍しく殊勝じゃないか。素直に頼むなんて。余程、大事な子なんだね」
「ああ。まぁな」
「ふーん。まぁいいさ。クライアントの精神衛生が保たれるなら、危ない橋を渡るのも悪くない」
俺も特殊かつ奇妙な仲間を持ってしまったものだ。
トーマスがこうも優秀な男だったとは。お陰で俺の心の負担も軽減される。
「エースくん。このまま休んでいてもいいけど、実験のスケジュールもある。休憩は確保できて、あと1時間だと思ってね」
「いや、大丈夫だ。世話をかけるけど、また車椅子を押してくれねぇか? クソだるいけど、動けないわけじゃない。実験だって、椅子に座って、制御のイメージをするだけだしな。運んでくれ」
「お安い御用さ。けど、無理しないでね」
「わーってるよ」
まるで恋人みたいな心配をする奴だ。
これで、もしトーマスが女だったら、抱いてたかもしれない。いや格闘技全般に精通しているから、襲ったところで半殺しは確定か。女だとしても舐めちゃいけない。
トーマスによって運ばれていく俺は、長い通路を抜けて、もうすでに何回も足を運んだドックへと入る。
「おう、エース。ドイツ支部はどうだった?」
「お蔭さまで助太刀はできましたよ。根本的な解決にはなりませんでしたが」
「そうかい。お前さんが血相変えて飛び出した時にゃ、何事かと思ったが、仲間の危機とあっちゃな。………無理難題を言うようだが、気落ちすんなよ? こっちの大仕事を放り出されちゃたまんねぇからな」
「大丈夫です。仲間を信じてます。俺はその切っ掛けとなれればいい。この仕事も重要さも理解してます。さて、始めましょうか」
そこにいた職人のおっちゃんたちに挨拶して、巨大なドックの中央へ向かう。
以前よりも人員が増えた。理由はただひとつ。扱うものが大きいからだ。それに比例してひとの手が多く要求される。
そう。
俺がドイツ支部から脱走して潜伏した先は、元日本支部跡地の富士ドックだった。かつてアリスランドがここで製造されたこともあり、奪取したグラディオスを収容するにはぴったりだったのである。
目の前にはグラディオスがあった。職人たちの手で、俺とケイスマンの意志が設計したとおりの魔改造を行っている。
1000体以上いるEタイプに対抗するには、グラディオスを改造して戦力を増強するしかない。
ゆえにあんな、俺が全員を裏切るような演出までして、奪う必要があったのだ。
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シーナはヤバかったですね。でもこれで、やっと前に進めます。もちろんやるべきことはまだたくさんあります。明るく元気に狂いながら伏線回収していきます。
作者からのお願いです。
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