星に抱かれし者B05
Jタイプを猛追してわかったことがある。
アンノウンには独自のネットワーク、情報共有するためのなにかが備わっている。
ライラという個体がアンノウンを裏切ったと同時に、自分たちを殺す異物へと変貌した。ゆえに逃げる。彼らの考えとしてはこんなところか。
「速ぇな畜生! なら串刺しにしてでも止める! ライラ、剣出せ!」
『わかった!』
私もライラのなかにいることで、この体がどう変化するのか理解できた。
体の動かし方、飛び方、それから変化の方法。イメージを伝えると、ライラが肉体の一部を変形させる。右手が伸びた。先鋭化し、片刃の剣のように薄くなった。
「っしゃあ! 待てやヘタレアンノウンども! 教導の時間だぜぇっ!」
『ぶちころしてやるぅ!』
またライラが物騒なことを叫ぶ。
私の超薔薇園的理想郷の一片を垣間見ただけで即死するという、理解不能な事実がこの場にいる全アンノウンに共有されたのだろう。最終決戦仕様アンノウンの名が泣くくらい、なりふり構わず脱兎の勢いで逃亡する。
けれどアンノウン化したライラの方が速かった。すぐに最後尾に追いつくと、刃となった右手を突き出す。
後頭部に刺突を受け、貫通したJタイプはビクンと痙攣し、私の理想郷聖書2ページ目を叩き込まれ、瞬時に崩壊する。
コアを破壊せずとも崩壊を誘発させるのは便利だが、なぜだかは知らないが、虚しくなってくる。私の真推し活がこんな形で有効化させられるなんて。でもこんな用途のためにBLを愛したわけじゃないんだ。
「私は、私の好きを貫くために薄い本を、同人作家を目指してたのに、なんでそれがテメェらにとっての致死薬になるんだよぉっ! ざけんなテメェ!!」
『ぶちころすぞてめぇ!』
ライラとともにアンノウンを罵倒する。ライラはまだ半分くらいしか意味がわかっていないだろう。トーンに殺意がない。ただ気概を述べているだけ。無論、それでも構わない。ライラのテンションやモチベーションが高いと、この体の反応速度も向上する。
1体。また1体とJタイプを破壊する。触れるだけで即死するとか、跳んだチートだ。
残り半数。ドイツ支部から距離が開く。アークのタキオンは存在を感じるが、そこまで近い場所にいるわけではない。
孤立無援となってもアドバンテージはこちらにある。
Jタイプが反撃に転じた。
撤退途中で反転。同じ速度で後退しつつ、私とライラに向けて砲撃を開始。
「当たるか馬鹿め!」
『ばかめ!』
ああ、またライラがいけない言葉を学習してしまった。
どうせ、きっと私のせいなのだろうけど、ドイツ支部を守るためなんだ。エースは引っ込んでいるし、ライラをたしなめるのは後回しにする。
Jタイプの砲撃を、自在に飛翔することで回避する。この体は、アンノウンというのは便利だ。
新型を投入する度にアンノウンは進化するが、原作のライラはラスボス一歩手前然とした強さで、元々Jタイプなど及ばなかった。
砲撃の隙間を縫うように前進。一発も掠めることなく手前のJタイプに触れる。
鬱陶しい右腕の砲台を切り落とすと、左手で顔面を掴む。薬にならない劇薬判定をもらった、私の超薔薇園的理想郷、世界平和のためにあるような自筆BLイラスト聖書第6ページ目を注ぎ込む。こうなったら、もう半ば自棄になっていた。だってアンノウンを駆逐できるんだもんな。それって本当に世界平和に貢献しているってことだし。「はいはいそうだね。どうにでもなーれ」って心境に近い。
他4体からの砲撃は、捕獲した1体を盾にしてしのぎつつ崩壊を促す。
「おっ………」
『あれ!?』
捕獲した1体に変化が起きた。その事実に私は少しだけ、ライラはかなり驚愕する。
なんと聖書のページを毒電波のように注入してみたら、数回痙攣しただけで、崩壊まで至らなかったのである。
次いで、右手の刃から伝わる、Jタイプのから発するイメージ。それは一種のテレバシーのようなものだろう。私が認識するには言語、色というよりも、感情として具現化すると掴みが早かった。
このJタイプから発する感情。それは嘲笑である。なにが言いたいのかもわかる「この程度か?」や「どうだ耐えてやったぞ?」などといった、まぁ要するに相手を卑下することで、自分の実力の高さをアピールしたがるような小中学生の男子がやりそうな、実に稚拙でくだらない愚行だ。
確かに私の劇薬に耐えたのは大したものだと褒めてやりたい。私の許可なく散った、あの5体に比べれば根性がある。
だからこそ、私はこの程度で得意げになっている可愛いJタイプくんに、ご褒美をあげたくなった。
「へぇ。やるじゃねぇかお前。大した耐久力だ」
『やるじゃねぇか』
「100枚以上あるイラスト集の、たった6枚目を耐えた程度で勝った気になるなんて、なんて可愛いやつ」
『かわいいやつ』
「テメェにはご褒美をくれてやる。7枚目から10枚目まで、一気に意識に挿入してやろうな。はは。死ぬなよ?」
『しねぇ!!』
さっきからライラが異様にテンション高いんだけど。「死ね」なんて絶対に言わないのに。可愛い声でそんな脅迫すると、なんだかこっちが笑えてくる。なんだかんだ言って、私もテンションが高くなってきた。多分、初めて戦力になれたし、一種のチートを持てたかもしれないからか。
Jタイプから伝わる感情が変化した。恐怖。あるいは絶望。私の言葉を正確に理解している。
有言実行。4枚のオス同士が顔を紅潮させてイチャイチャするイメージを送ると、いやはや、やりすぎてしまったね。崩壊するどころか弾け飛んだ。
「なるほど。抗体………あるいは耐性をつけてきたか。凄まじい学習能力だ」
『だいじょーぶ! しーなのもうそうは、さいきょうだよ!』
それは多分、毒としての効能が最強なのだろうけど。
ここで厄介な問題となるのは、最強と呼ばれる毒が、数分で耐性をつけられてしまったという事実。
同じ手段を使ったとしても、いずれ通用しなくなるということだ。
しかし───人間の、特に日本人の「HENTAI」への欲求は半端ないもので。己の美的センスと官能のすべてを研鑽する日々を送る同人作家という生物においての研鑽を、アンノウンはまったく知らないのである。
イラスト───つまり画集を封じられれば、次は漫画だ。その次はアニメーションだ。
このように、実は私の武器はまだまだある。さらにキャラクターを組みかえれば、バリエーションは無限大。
これまで「天破のグラディオス」において、腐女子鉄板ネタであるソータとシドウのアブノーマルカップリングを展開したが、推しのオスはまだいる。
「ククク………そう。私は最強だ。腐女子の恐ろしさを徹底的に叩き込んでやる!」
『ぶちころしてやる!』
私とライラは再び夜空を駆ける。
Jタイプへ耐性をつけさせないよう毒のバリエーションを増やし、組み換え、まったく別のベクトルから攻めるという、敵からすれば絶望しかない攻撃を連続させた。
結果、3分後にその空域にいたのは、エメラルドグリーンの淡い閃光を放つ、アンノウン化したライラだけだった。
「脆いなぁ、あいつら。イラスト集をたった30ページ見せただけなのに。もう死にやがった」
『やっぱりしーなは、つよいね! らいら、いっしょにたたかえて、うれしいよ!』
「ん。ありがとよ。………さて、このあとどうすっかなぁ………」
ドイツ支部を見る。
敵という脅威は去った。
けれどもライラがアンノウン化し、私を取り込んでしまったとなれば、人類にとって、私たちは新たな脅威となりかねない。
説明の要求もあるだろう。
いや、有無を言わず銃殺刑になるかもしれない。
もしそうなるようだったら、ライラとともにエースのところに逃げるのもありか。まずは感触を確かめるのもいいだろう。
アークのタキオンが接近する。
よろしくないことに、ライラのなかでは私の声がアークに届くことはない。
ではどうやって敵対しないことを伝えるか………と悩んでいると、私の腕に反応があった。
たくさんのブクマ、評価、とにかくたくさんのリアクションありがとうございます!
いただいたリアクションからわかるとおり、シーナのアンノウン化からのBLアタックがお気に召していただけたようで。ちなみに私は書いていてとても面白かったです!
いや本来なら、ライラとアンノウン化して、かっこよくJタイプを抹殺するライラ無双をしたかったのですが、それではシーナを搭載している魅力が感じられないと判断し、シーナの特徴を活かして、逆にアンノウンを脅かしてみました。
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