星に抱かれし者B04
信じられなかった。
しかし私の目───正確に述べればアンノウンと化したライラの双眸から得た情報によれば、私は確かにライラのなかにいて、アンノウンと同等の存在になっている。
伸ばした腕。目の前にあるのは人間と変わらぬ五指。開閉。感触もある。
かなり高熱を発しているはずだが、周囲への影響は───無い。まるで熱を感じていないようなリアクション。アンノウンが近くにいたら、生身の人間が耐えられるはずがないのに。
私を見上げる誰もが、目を丸くして呆けていたのである。
「なにがどうなって………ゲッ!」
私自身、本部の窓ガラスに映る容姿に呆然としていたが、遠くから対空ミサイルを積んだ特殊車両が出撃したのを見て、ロックオンされているかもしれないと恐怖し飛びあがる。
「お、お、おっ………高ぇ! マジ怖ぇ!」
『だいじょーぶだよ。おちないよ。とんでるんだよ』
「飛ぶつってもよぉ。本来、人間って飛べないんだからな!? それがいきなり飛べるようになったからって、安心できるもんかよ! 感覚だって………あれ? わかる? どうやって飛べばいいのか、わかる………え!?」
『おちついて。らいらといっしょになったから、しーなもわかるんだよ』
なんていうか、とんでもないことになってしまった。
私自身アンノウンになった、というよりもライラのなかにいるのはわかる。
対空ミサイルを積んだ車両から逃げようと、走ろうとしたら空を飛べてしまったので驚愕の度合いも倍増したところ、ライラのとんでも論により困惑してしまう。
けど、その悩みも数秒で消えることになる。
『しーな! まえ!』
「だぁ、こんチクショウ! やるしかねぇのかよ!」
バリアを死守していたガリウス部隊の防衛網を突破して、Jタイプがついにバリアの内側に侵入してしまった。
アンノウンといえば全身銀色に輝く高温の未知生命体で、対する私はエメラルドグリーンに輝く容姿の、人間を搭載した意味不明な生命体になってしまった。
Jタイプでさえ困惑していただろう。これは同胞なのかと。
『いくよしーな!』
「いくって、え、戦うってこと!? 待て待て待て待て! ちょっと待て! 待てったら! せめて心の準備くらいさせろよ!」
『えーすたち、ぱいろっとはたたかうとき、こころのじゅんびしてたの? してないよね? じゃあしーなもひつようないね! あのあんのうん、ぶっころそう!』
「鬼畜かお前! お前だってアンノウンなのに、なに平然と敵認定して殺そうとしてるんだよ! いやなにひとつとして間違ってないんだけどさ、躊躇いとかそういうのないわけ!?」
『ないよ! らいらのだいすきなものうばうやつ、みんなてき! ぶちころすぞてめぇ!』
「ライラ! そんな下品な言葉使うんじゃない! いったい誰に似て………私かよ!」
実にライラらしからぬ発言。彼女は初めての戦闘で興奮しているのだろう。
驚愕した末に絶望する。これは確定で私がエースが脅迫あるいは威嚇する時に使う文言だ。ライラの記憶力は半端ないからな。身近で耳にし続けて、ついに行使するまでになってしまった。エースに聞かれでもしたら、拳骨による修正だけじゃ済まないかもしれない。
すると、Jタイプはたちどころに加速し、私たちに肉薄する。
「うっ………な、なんだこいつ! なんかガチギレしてないか!?」
強襲するJタイプは右腕に砲身を、左手に刃を備えていて、私たちは両手でそれを受け止めて突撃を止めた。最終決戦仕様のアンノウンさえ阻止できるなんて、やはりライラは特別だ。
しかし、それにしてもJタイプが、まるで親の仇に会ったみたいな攻撃を仕掛けてきたのは驚いた。マシーンのように冷徹に処理するような攻撃パターンを選択するはずが、突撃なんて選ぶ方がおかしい。合理的という表現が最適なのに、理性を失った獣のような攻撃だった。
『らいらたちのことば、つうじるから』
「あ」
そうだ。ライラは自分の声をアンノウンに、同胞に届けることができる能力を有している。
第14話以降、艦内外問わずアンノウンに呼びかけ、影響を及ぼした。原作にもあったように。
なら、アンノウンに戻ったとしてもその能力は健在で、私たち人類が使う世界共通語を喋ったとしても、ライラのなかからならアンノウンに言葉を伝えることができるのかもしれない。
言葉。あるいは音波。あるいはイメージ? 念話に近いものが可能なら、こちらのイメージも送信できるのでは?
ならば、それを利用してみようか。
「らいら! この体のコントロール、全部寄越せ! アクションゲームならやったことくらいある!」
『あくしょんげーむ?』
「ある意味、神経接続型みたいなもんだろ。なら私のイメージが正確に反映されるはず。このJタイプに、人間様の恐ろしさを教えてやる!」
『わかった!』
Jタイプの腕を弾き、反撃される前にスウェー。瞬時にJタイプの背後に回ると、抱き付いた。
なにをするかって? 愛を囁くのさ!
「『ブチ犯すぞテメェ」』
脳内いっぱいに描いた、歪んだ欲望。それをJタイプに叩き付けた。
オスがオスたらしくオスをやっているふたりが、絡み合い、性を超越した愛を描く描写。私の特技、封印せし真の推し活。超薔薇園の理想郷。汁一滴すら惜しむことなく表現する。
『~~~~!!』
「え?」
私の脳内イメージすべてを受けたJタイプが、ビクンビクンと痙攣し、やがて内側から崩壊した。
崩れ去るJタイプ。最終決戦仕様の最強アンノウンが、まさかこんな簡単に倒れてしまうなんて、拍子抜けもいいところだ。
「なにが起きたの?」
『え、ええと、いまのあんのうん、しーなのかんがえたことがりかいできなくて、しんじゃった』
「は?」
『らいらも、りかいできなかった。でも、らいらはみんなといっしょにいるから、たえられた。しーなのいらすとぶっく、たまにみてるから、なれてた。でもあのあんのうん、しーなのいめーじをいっぱいうけて、たえられなかった。だから、うちがわから………こわれた、のかな?』
なんだそりゃ。
ふざけやがって………ふざけやがって!!
私の考えたBL的超濃厚描写が、アンノウンにとってのリーサルウェポンになるだと!?
オス同士の濃密な絡み合いが理解できなかったから死んだ?
私のイメージがアンノウンにとっての毒?
認めてなるものか。そんなこと。
「許せない………この程度で死ぬとか、気合いが足りねえんだよクソアンノウンども! 今のイメージなんぞ、私が書いたBLイラスト聖書の1ページでしかないのに、勝手にくたばってんじゃねぇ! 熟読して理解してから死ねやァッ!!」
私の超理想郷が、薬にもならない超劇薬判定を受けたのが、とても許せなかった。どう考えても世界平和にも貢献できるバイブルなのに、教導途中に私の許可なく勝手にくたばるとはどういう了見なのだと。
「軟弱なクソアンノウンどもめ! 待ちやがれ! 修正してやる!」
バリアの外に出る。先行した漆黒のタキオンと合流。
残り9体のJタイプを調教するべく、アークのタキオンを追い抜いて、戦術や連携もせず、Jタイプたちを猛追した。
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