星に抱かれし者B03
上空にいるエースは、実際に搭乗していれば血の気が引くような、最悪な戦いを強いられた。
Jタイプという化け物すべてを一挙に引き受けてしまったのである。
遠隔操縦でなければ決死の覚悟で挑まなければならないが、すでにエースは決死の覚悟を決めている。
エースが倒れれば次はドーム状のバリアを守護するガリウスF部隊。あの化け物アンノウンを相手に、善戦できるとは思えない。
ドイツ支部の防衛率は世界で第2位とはいえ、それはあくまでこれまで出現したアンノウンがEタイプ以降の新型が高確率で出現しなかったからだ。だからと言って無力でもないし、練兵だってできている。さもなくばアメリカ支部の艦隊と戦えるはずがない。
しかし新型のアンノウンが相手となれば話が違う。士気の低下も著しく、秒単位で友軍機が撃墜されて、パイロットがまともな思考と判断ができなくなってきた。ストレスによるパニックを起こしつつある。
仕方ないと言って割り切るのは簡単ではあるが、それをやった瞬間、ドイツ支部は大勢を犠牲にする。
最後の砦たるバリアを死守しなければならないとはいえ、ガリウスFでは止められもしないだろう。さながら死刑の執行を待つ虜囚の気分だ。
「フェイズ1クリア! 基礎設定は無視して、俺らのガリウスを叩き起こすことに集中しろ!」
「5分かけてやっと初期設定か。エースくんが来ていたのは驚いたけど、これではとてもではないが………」
「泣き言ほざいてんじゃねぇよアーレス! あのバカタレに俺らの痴態を見せたままで終わらせるんじゃねぇ! クソッ………エースにだけ、辛い思いをさせて………なにやってんだ俺はぁっ」
私の突拍子も遠慮もない演説で、グラディオスクルーの認識が変わった。
誰もがエースに対する認識を改めた。後悔し、改善に向けて動き出す重鎮たち。
でも、時間がない。
ドイツ支部にJタイプが襲撃するなんて原作にはない。明らかな原作破壊行為のツケ。対抗する手段がない。
危険に晒されて、誰もがまた後悔する。多分………エースもそのひとりだろう。
遠く離れた場所から強引に遠隔操縦をしているのだ。それなら、リヴァイヴを残せばJタイプを数体くらい倒せたかもしれないと。ただそれをやると、また寿命を縮めるかもしれないが。
「………えーす!」
ライラが叫ぶ。私も上空を見た。
「エース………ッ!」
やはりガリウスF程度では阻止はもちろん、時間稼ぎにもならなかった。
四肢はもがれ、頭部は半壊し、コクピットブロックは潰されて、ドイツ支部上空のバリアに叩きつけられた。
『シーナ………みんなに、逃げろって………伝え………』
「次のガリウスを遠隔操縦できないのか!?」
『脳内チップのキャパが、70パーセントを超えて………悪い………』
キャパシティの70パーセントを超える消費率。立っていられなくなるくらいだ。
私たちを守るために、また無茶をした。
後悔は絶えない。そんなエースに私は次のガリウスに乗り移れと言った。まるで他人事のよう、いや他人事そのものだ。
他力本願? なにやってんだ私は。エースに託されたはずなのに。私自身戦いもせず、エースをまたもや死地に送ることが最善なのか? 違うだろ。
「エー先輩!」
ヒナたちが悲鳴を上げた。
バリアの上でエースの無人機が爆発してしまう。化け物相手に劣化した機体で5分の奮闘をしただけでも善戦したと言えるが、その爆発が部分解除された穴の近くだったため、出力が弱まり、穴をより広げてしまう結果となった。
『予備隊も全機投入しろ! バリアの復旧急げ! 復旧し次第出力を上げろ! ガリウスF部隊はJタイプを絶対に通すな! ………グラディオス、なにをしている! なんでもいい、早くなんとかしてくれ!』
指揮官のシュヴァルツが叫ぶ。
このままでは全滅は免れない。
おそらくカイドウたちも間に合わない。
「………そうだ。アーク!」
私は失念していたものを思い出した。
こんな土壇場で思い出すなど、整備士失格だ。アークを呼び寄せると、ドイツ支部のハンガーに先に置いていた機体まで駆け寄る。
「これは………僕のタキオン!」
「そうだ。これはグラディオス預かりではあったけど、グラディオスには乗せていなかったからな。誰も乗れないよう強固なロックをかけているけど、デーテルはそれが本部から送られてきたものと同一の処置をしていると勘違いしてたんだろうな」
「ど、どういうこと?」
ライラを連れて、天井が崩壊したハンガーを突っ切ると、いつもなら私を怖がっていたアークも非常時ゆえに素直に従ってくれた。
「この黒いタキオンの修理と整備は私が担当してた。ドイツ支部の人間には触らせなかった。だから、ロックの解除パスワードは私が持ってるってことだ!」
黒いタキオンには瓦礫が降り注いでいたが、幸いコクピットハッチは塞がれていなかったし、駆け上がればメンテナンス用のコンソールにも手が届くくらいの高さに積まれていた。腕の端末でアクセスすると、ハルモニの制御化になかったこともあり、ハッチが開くとすぐにシステムが起動する。
「やってくれるな? アーク!」
「初めてあなたに感謝するよ。ソータたちを守れる絶好の機会を与えてくれてありがとう。大丈夫。アリスランドのサポートがなくても、やってみせる!」
アークは着替えもせずに単身で漆黒のタキオンに搭乗する。
数話前までは敵だったのに。味方にするとこうも心強い。
しかしサポートが無いのは問題だ。装備だって取り上げている。ヒートナイフとヘビィガンしかない。ハンガーでライフルとロングソードを拝借したようだけど、それでどこまでやれるか。
私が飛び降りると、瓦礫を押しのけて漆黒のタキオンが動き出す。
歓声が上がる。アークはそれを背に、同じ色をした夜空に単身で突入した。
ただ、それでも………問題が浮き彫りとなる。モチベーションは高いが、タキオンのサポートがないのはやはり死活問題で、敵も強い。友軍は使いものにならない。劣勢のなかで孤軍奮闘していた。やはりかなり苦しそうだ。
「アークひとりに任せる………整備士としちゃ正解なんだろうけど………でも………」
「しーなは、たたかいたい?」
唐突に、しかし以前にも聞いた質問をライラから受ける。
振り返ると、ライラはいつになく真剣な面持ちで私を見ていた。
「たたかいたい?」
「………私には戦える力がない」
「まえもいったよね。らいら、しーなのちからになる」
「なんだそりゃ。お前、まさか本当の姿になるとかいうのか? 無理だろ。お前が暴走しないとできない」
「できるよ。しーなといっしょなら」
「………え?」
「きて。しーな。らいらをつかって。らいらのこと、いっぱいしってるしーなだから、らいらもいっしょにたたかいたいっておもった。らいら、みんなをまもりたい。しーなも、みんなをまもりたい。だから、しーなに………らいらのぜんぶ、あげる!」
「あげるって、お前なに言って、おあっ!?」
ライラに両手を握られる。なにかを祈るように、ライラは私の両手を額に押し当てた。
ライラはアンノウンのスパイだ。グラディオス勢には伏せたが、本編では数多の悪意を受けて暴走し、凶悪なアンノウンの姿へと変貌する。
黒と銀が混じったような色へと。
でもライラの額から発するこの光は、淡いエメラルドグリーン。
異変を察知したカイドウたちがそれを見て絶句していた。エメラルドグリーンの閃光に包まれたライラ。そして私をも呑み込んで───視点が変化する。
再び目を開けた。私は、ハンガーを見下ろしていた。
飛んでいる………?
『しーな。いっしょに、たたかおう! えーすのちからになろ!』
頭のなかにライラの声が聞こえる。
ふと、視線を横へ移動させた。
そこにはドイツ支部の本部があり、窓ガラスに1体のアンノウンの姿が映っていた。
「これって………まさか」
見たこともないアンノウンだった。でも、これだけはわかる。窓ガラスに映るアンノウンはライラだ。
原作では獣然とした醜悪な容姿だったが、今は女性然とした美しいフォルム。これがライラの、本来のアンノウンとしての姿だというのか?
いや、それよりも………
「私………ライラのなかにいるのか!?」
『いったでしょ? らいら、しーなのちからになるって!』
ライラのなかに取り込まれた私は、ライラと一体化していた。
いや、少し違う。感触がある。四肢を動かせる。
これはつまり、ライラというアンノウンを操縦、いや操作する人類初となる、ヤベェ人類になっちまったってことなのか………!?
ブクマ、評価、リアクションありがとうございます!
というわけでシーナが大変なことになってしまいましたとさ。半年前から考えていましたので、やっと書くことができてスッキリしました。
今週もお付き合い頂きありがとうございます。来週………いっぱい書ければ、いいなぁ。
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