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星に抱かれし者A06

 翌日。支部長のドルテは外せない急務があるとかで、昨日からずっと姿が見えなかったため、副支部長が動いて全体的な指揮を執るなかで、私たちグラディオス勢のことも意識し、仕事を割り振ってくれた。


 働かざるもの食うべからず───というよりも、手持無沙汰になる科がどうしても出るので、一日をグータラと自堕落に過ごさせるよりも、仕事を割り振って体や脳を動かす協力をしてくれたのだ。これはどちらかといえば同情、温情に近い。


 グラディオスクルーは今、極度のストレスで精神的に参っている。鬱病も発症しかねない。ならばと鬱憤を忘れられるなら、軽作業なり与えて運動を促せば、一時とはいえいくらかは汚辱を忘れられるだろう。


 カイドウやアーレスたち各科のリーダーたちは副支部長の温情を理解していた。積極的に声だし、声かけを行う。「俺たちはドイツ支部のお客さんになりに来たわけじゃねぇ」と励まし、割り振られた仕事を行う。


 幸い、不幸を忘れれるくらいの仕事の量はあった。例えばアリスランドを監視していた戦艦関係。輸送機で人員が搬送される。一時的に離れてしまうことになるが、夜になれば帰れる。グラディオスクルーは誰もが一流のエリートだ。環境が異なれど、すぐに順応することができる。


 が、それはあくまで大人たちだ。


 子供たち───学徒兵は違う。


 精神的にも未成熟で、常に支部の誰かに見られて指をさされて笑われることに耐えられない。何回も殴り合いになりそうにもなった。周りが止めたことで怪我人は出なかった。両者、追って双方に処罰が下るようだが。


 では大人はどうなのかと言えば、1回だけ戦艦のなかでひと悶着あったらしい。アーレスが止めなければどうなっていたかというレベルで。原因は、どうやらドイツ支部の人間が、エースだけでなくクランドまで中傷したらしい。グラディオスにとってクランドは絶対の存在だ。正しい存在として認知し、忠誠を誓っている主人でもある。貶されればそりゃ激怒する。


 やはりたった数日のストレスで、限界に達していたのだな。


 エースがグラディオスを占領して脱走。そして艦長のクランドも監査に罪を問われて監禁されている。


 こんな状況で、まともでいることこそおかしいのだ。


 私はといえば、何回かものを投げつけられた。幸い、金属などの硬いものではなく液体類だったので怪我はしなかったが、それを見ていたグラディオスのパイロットたちが激昂。殴り合いに発展するところで、私が泣きながらコウたちを説得することで阻止できた。


 泣く予定はなかった。涙を見せることでコウたちは弱くなるのは知っているが、数回虐められただけで泣いてしまうくらいメンタルが弱くなっていたなんて思いもしなかった。


 そんな環境では、パイロットたち、いやグラディオス勢全員に不調が出る。誰もが口々にエースに対する不満を述べ、果てには殺害してやりたいとまで言い始めた。


 日に日にフラストレーションが蓄積し、4日後、私とて限界を迎えた。


 それは就寝前。ハンガーの外でグラディオス勢100名以上が集まり、その日の反省会を自主的に行うという各上長たちの決定で開催される集会でのこと。100名以上が集まるとなれば会議室は狭い。ハンガーの一角を借りるわけにもいかないし、迷惑はかけられない。外でやるしかない。カイドウたちはその集会で、連帯性を高めて孤立化を防ぐつもりだったのだろう。こうして集まることで、自分たちはひとりで悩まないと暗示する必要があるのだ。さもなくば、血気盛んな武闘派の連中が徒党を組み、今もなおドイツ支部に滞在している監査たちを皆殺しにしてしまうかもしれなかった。


 そこで、先日よりも醜悪なくらいの不満がぶち撒けられる。


「どうにかしてエースを発見して、この手で始末してやりたい!!」


「なんで俺たちがこんな目に遭わなけりゃいけないんだ!」


「全部、あいつがいけないんじゃないか! 異世界から来たとか、未来から来たとか知らねえけど、全部あいつが仕組んでいたんだとしたら許すわけにはいかねえ!」


「アーレス砲雷長! ドイツ支部の艦を借りて、エースの捜索をするわけにはいかないんですか!?」


「まだ宇宙に逃げたわけじゃないなら、発見できるはずです!」


「クランド艦長が拘束されてるのだってエースのせいなんでしょう? ならば、エースにすべての責任を押し付けて、クランド艦長を助け出しましょうよ!」


「それができるのは私たちしかいないと思います!」


 大人も子供も、関係ない。


 集会を取り仕切る、カイドウやアーレスたちグラディオスの重鎮たちに詰め寄って、エースを殺せと叫ぶ。


 ………きっと、エースはこれらの悪意のすべてを一身に背負う覚悟で旅立ったのだろう。


 今、どこでなにをしているのかは知らないが、最終決戦に向けて準備しているのなら、場所も限られてくる。


 私は多分、その潜伏先を特定できる。前世の記憶を辿れば、その可能性があるポイントなんて、この地球で片手の指の数で足りるからだ。


 けれど、それを告げることはない。私にはもう、やるべきことがない。役目がない。ただのモブ女として、ここで一生を過ごすのだ。


 だから、グラディオスの仲間たちがエースに怨嗟を述べても、聞きながら聞いていないふりをするしかなかった。これもエースのためだと思うのなら、当然だ。


「馬鹿野郎どもが! んなことできるわけねぇだろうが! クランドの身が危うくなるだけだ!」


「各自、軽挙妄動は控えるように通達してあるはずだ。諸君らの不満はもっともだし、その思いを理解できないわけでもないし、私だって気持ちは同じだ。しかし、それはこのドイツ支部に迷惑をかけることになる。艦を拝借するなど到底できることではない。わかるね?」


 カイドウとアーレスたちは、もちろんエースに裏切られたことを嘆き、殺意を覚えていただろう。


 しかし現状維持と、クランドの罪状が増えないようにするのに必死で、その身を全員の殺意と文句の受け皿にするべく奮闘していた。


 だが、状況は一変することになる。


 最初こそただのヘタレでクズと蔑まれるはずだったが、エースが修正することでグラディオスにとって初期から無二の智将として君臨することになる、成長したことで参謀と副艦長のポジションを担う、クスドの発言によって。




「艦があれば………きっと、不可能ではないと思います。エー先ぱ………いえ、エース・ノギを、我々の手で始末することは可能です」




 血の気が引くような恐怖が私の心に芽生えた。


 よりにもよって、エースに良い方に変えられたキャラクターが、その力をもってエースを殺そうとしていたのである。


「お、おお! できるのか? 本当にやれるんだなクスド!」


 たまらず大人たちは、クスドに期待の眼差しを向ける。


 これにはカイドウとアーレスは、私と同じように絶句していた。クスドはエースに懐いていたはず。それが裏切られたからといい、殺害を宣言するとは思いもしなかったからだ。


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