星に抱かれし者A04
浮かない面持ちで戻ってきたハーモン。
その顔がすべてを語っていた。収穫は無かったと。
多少の進展こそあったのだろう。今後についての全体的な指針についてだ。
連合軍は脱走したグラディオスとアリスランドをどうするのか。
占領したエースとビーツにどのような処分を下すのか。
艦無きグラディオス勢の処遇は。
聞きたいことは山のようにあるはずが、酷く憔悴しているハーモンに追い打ちをかけるような真似をするクルーはいない。
「ハーモン」
「………ハナ」
心ここにあらず。といった表情のハーモンの前に立ち塞がり、呼び止めたハナ。
私の知らないところで、ふたりは、いやハナがハーモンに急接近していたのは意外だった。
「………俺は、姉貴を………守れもしねぇし、一緒に戦えもしねぇ。なにが、俺に任せておけだよ………姉貴だって手一杯だったってのに、ここにいるみんなの異動願いなんて、出せるタイミングじゃ、なかった………俺は、なんて無力なんだろうな」
「気にしなくていい。人間は誰だって無力だ。それにハーモンが少将とオンラインで通信している間に、私たちも反省会をした。私たちならともかく、大人たちもハーモンにおんぶに抱っこというスタンスは、酷くプレッシャーを与えるものだったと。みんな反省しているようだった。もちろん、私もな。私たちの期待でお前が押し潰されてしまっては、元も子もなかった」
目を伏せて、子供のように呟くばかりのハーモンを抱き寄せ、頭を撫でるハナ。
原作ではすでに戦死して、第24話になったら存在しない者同士。意外なカップリングであったが、案外サマになっている。エースはこのことを言っていたのか。
「やっぱ、コーネリア少将を頼れないとなると………」
「我々は当面の間のみ、ドイツ支部にお邪魔することになるだろうね。とはいえ、戦力にはなる。幸いなことにエースくんが逃亡したことでヘイトは彼に向けられ、むしろ私たちには同情的だ。多少、肩身の狭い思いをするだけだけど、無職にはならなくて済む。ドルテへの恩返しもできそうだ」
「まぁ、な」
子供たちが現状を打開せんと、必死に手段を講じているならば、大人たちが甘んじてその庇護下に入るなどできるはずがない。
誰もが今、できることをしていた。少しでも可能性を感じたのならば、藁にも縋る思いで模索する。それが大人たちのスタンスである。置き去りにされたグラディオスの艦載機を間借りしたハンガーの一角に収容する整備科や砲雷科以外の、航海航宙科や機関科なり人間が持てる技術や知識を持ち合わせた。
だが現実とは常に冷酷で、目の前にある数字のみが真実である。あらゆる可能性を数値にしたとて、要求するパラメータと現状のパラメータを比較しても水準に満ちるほどの値になりもしない。
ゆえに切り捨てられるものは切り捨てるしかない。
その代表が、エース。
グラディオス勢は生き残るためにドイツ支部に持てる技術を提供し、ドイツ支部の陣営に頭を下げてでも衣食住を確保しなければならないのだ。そのために必要とされるのは、身も蓋も無いがドイツ支部の陣営からの───同情。
かつてグラディオスは、何回かドイツ支部の危機を救った。先の戦争であってもそう。だがエースが戦争の勝利の栄光を無に帰した。なんとしてでも戦犯を逃がし、そして自らも戦犯となったエースというグラディオスの汚点への怒りが自分たちに向かないよう、必死だった。
本当に、情けない。
私もそう。
シーナ・サクラという女性整備士が、グラディオスという連合軍のエリート集団が乗ることを許された最新鋭艦のクルーに選抜され、その果てに出戻ってきた。本来なら顔から火が出るくらい恥ずかしいことなのだ。それでも私は、元上司に頭を下げてでもここで働かせてもらうしか術を持たない。
グラディオスがエースに占領され、逃げ去るというアクシデントがあったとしても、監査のハヴェクが伝達した解散と解体命令は撤回されない。明日を生きるためにも、なんとしてでもドイツ支部の整備科に戻り、金を稼ぐしかない。身請けすると決めた、妹分のライラを食べさせるためにも。
「ハァ………」
話し合いは延々と続く。グラディオスがあった広場にて。その広域のある場所を間借りして、ガリウスの収容後、私たちは何時間も話し合う。これからの身の振り方について。
本当に嫌気がさす。
なんでこうなったのだろうと。
なんだか、すごく………ドッと疲れた。
話し合いにて芳しい結果も得られず、日が暮れたことだし解散となり、食堂へ向かう面々にライラを預け、私は直筆の嘆願書を手に、ドイツ支部の支部長室へと向かった。ドイツ支部の整備士として働かせてほしいと、ドルテに頼み込むためだ。電子の書面ではなく、わざわざ紙に名を記してまで頼み込む、旧世代の嘆願には、どれだけ後ろ指をさされようが構わないという覚悟を証明するためだ。
ところが、本部の支部長室の正面にある会議室を通りかかった時。
不用心にも扉が半開きになり、現在進行している会議を目の当たりにしてしまった。
「マジかよ………おい。ハーモン」
「マジっすよ。姉貴が………コーネリア少将が言ってたんで。黙っとけって言われたんすけど、本部の発表がこうも早かったんで、信憑性を得るために俺も同席させたんだろうけど………この本部からの発表、俺が保証するっす。姉貴の言ってたことと、なにひとつとして違いがねぇ」
カイドウとハーモンの声がした。
どうも気になって、隙間から顔を覗かせ───
「誰だ!!」
「あ、ヤベ」
疲れていたこともあり、どうも距離感が掴めなかった。
半開きだったドアを全身で押してしまうと、キィと音が鳴ってしまう。デスクにいた新任の副支部長に誰何され、もう誤魔化すこともできないと諦めて、潔く入室する。
「シーナ・サクラ………」
「シーナさん! いや………副支部長。彼女だったことは不幸中の幸いです。彼女は信頼できる。どこまで聞いてしまったのかは定かではないが、聞かれてしまったのなら仕方がない。どうせ、いずれ全員の耳に入ることなのです。同席させようと思うのですが、いかがですか?」
「むぅ………そうか。そこまで言うのなら。シーナ・サクラ。そのドアを閉め、施錠してからこちらに来たまえ」
「ハッ。失礼します」
他にもアーレスがいた。グラディオス勢としてはクスドもいる。他は全員、ドイツ支部の刷新された重鎮たちだ。元エースパイロットだったが、怪我のため引退し指揮官となったシュヴァルツの姿もある。
要求どおり施錠して、男たちが集まるデスクの前に移動する。アーレスが庇ってくれたのだ。忘れかけていた軍人としての礼儀作法を思い出し、機微に配慮しながらしっかりとした足取りで副支部長の前で敬礼した。
「先程は失礼しました。以後、気を付けます」
「………まぁいい。それよりこれを見たまえ………と言っても、お前は整備士だったか。これが読み解けるとは到底考えられな───」
「え………なん………なんだよこれ………おい。おい、クスド。………Eタイプが1000体集結して進行してるってのか!?」
ブリーフィングに多用される、大型モニターを併用したデスクには、とある宙域が示されており、私たちは上から俯瞰する形で全体図を見ていた。
副支部長は「整備士が正確に理解しただと!?」と驚愕するが、確かにこれは複雑すぎて、カイドウならともかく弟子たちがすべて読み解ける内容には違いない。
でも私は前世の知識があるから、これがなにを意味しているのかはっきりと理解できた。
これは紛れもなく、第25話と第26話が合併した、1時間に渡る特大最終回スペシャルの内容、戦闘宙域であると。
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