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星に抱かれし者A03

 計画の全貌は余すところなくすべてビーツに教えた。


 意外だったのは、ビーツが案外乗り気で、全面協力を自ら約束してきたこと。


 多分「黙って俺に協力して名も無き英雄になるか、このままクズ肉として死刑になるか選べカス」と強要したのが効いたのかもしれない。


 口で罵り合い、脳内チップでは交渉を1秒で終わらせ、俺が組んだ計画を報せる。その仔細はすべてビーツの脳内チップのメモリーにインプットされ、精査された評価が返る。


 予想はしていたが、40点という酷評。


 オツムの出来はビーツ、楠木美壱の方が格段に上だ。優秀すぎる頭脳ゆえ己を過信するという欠点があったからこそ勝てたのだが、それと性格を抜きにすればアドバイザーとして絶対的な実力を持っているんだもんな。少し悔しい。


 ビーツの再考案が5秒で返る。


 実力の差を見せつけるような、そんな出来栄えに、俺は驚愕を禁じ得なかった。


 シーナは何度も俺を「狂人」と評価したが、俺から言わせればビーツも「狂人」かつ「変態」だ。


 当時、俺が思い付かなかったプランを一瞬で組み立ててしまうのだものな。


 そのひとつがデーテルへの情報のリークのみならず、悪評の信憑性を高めるべく本当に監査を呼ぶこと。


 最悪だったけど、それで警戒のすべてが俺に集まり、ビーツが手薄になるのも事実。問題はビーツがどうやってアリスランドへ戻るかだったのだ。それをすぐに解決してしまった。


 抜け目なく、そして仮初とはいえこちら側にいると、吐き気がするくらい頼もしい。


 何度も『裏切ったらブチ殺す』と念押しすると『くどいぞ貴様』と苛ついた返答があった。声───とは少し違うが、電子音だったとしてもそれに乗せて返答させることが肝要だったのだ。念のため、作戦決行1時間前にビーツに送信したアリスランドの起動キーに仕掛けたパスコードのロックが解除する仕組みにしておいた。解除が開始の合図になる。1時間以内に艦を脱出してアリスランドに行かなければならないが、それくらいあればなんとかなるだろう。


 こうして凶悪プランが進行し、俺とビーツはついにドイツ支部を脱走した。


 すべてを裏切って。すべてに決着をつけるために。


 ただし、行き先はなにも同じではない。


 行き先を統合してしまっては発見されるリスクが高まる。


 アリスランドは海中にその巨体を隠す、つまり潜水能力を秘めていた。これまで使ったことはないがグラディオスだって可能なはずだ。艦内に海水を注入させてしまうためガリウスの発進ができなくなるが、今はリヴァイヴを出すつもりもないし、ケイスマンの意志が『問題ない』と断言したため、グラディオスを海中に潜航させた。案外うまくいく。


「本当の戦いはこれからだ………問題は、間に合うかどうかだけど………」


『こちら道化師。こちら道化師。化け物へ。化け物くん、聞こえるかな? 聞こえたら応答をしてくれ』


『エース。お友達からだぞ』


「わかってる。応答して、案内に従うよう言ってくれ」


 俺の腕の端末に、知った声の通信が入る。身を起こしながらケイスマンの意志に指示を出す。


 まだ目標の近海ではないが、レーダーで調べると、丁度真上あたりに哨戒機が飛んでいると判明した。


『あー、化け物くん。実はさぁ、燃料心許ないんだよね。着艦させてくれると嬉しいなぁ』


 ケイスマンの意志が応答すると、通信で追加の注文が入る。なんとも危険空域に似合わない、間抜けな笑い声に呆れを覚えた。


「なんでそうなったんだか………可能か?」


『付近に連合軍、ならび船舶は無い。監視衛星に映ったとしても、30秒ならば問題あるまい。着艦できるだろう』


「わかった。甲板の、直通エレベーターに降りるよう伝えてくれ。最大速度で済ませよう」


 このまま待っていては、道化師と自称したあいつがそのまま海に落ちるだけだ。見殺しにする趣味もないし、ケイスマンの意志にすべてを任せて甲板に着艦させた。


 海面にまで浮上するグラディオス。ハンガー直通のエレベーターにはガイドのランプがあり、四角く囲んでいる。明滅すればそこに着艦せよという合図だ。


 着艦したのは1機のヘリコプターだった。よくもまぁ、そんなものでアンノウンにも発見されず航行できたものだと感心する。


 30秒という短時間でヘリコプターを艦内に収容、エレベーターのハッチが閉じたと同時に潜行を再開。招いた覚えのない客を乗せ、グラディオスは再び目的地まで進む。


 俺は営倉から移動せず、ヘリコプターの無線機に脳内チップを接続して語り掛けた。


『お前なぁ………なんでこんなところにいるんだよ。()()()()


「久々に会える友達を迎えに来ちゃダメなのかい? 化け物(エース)くん」


 俺が知るなかで、道化師を自称し、俺を化け物と呼ぶのはオードリアインジェクション社に属する、グラディオス専属窓口となった、元エージェンドのトーマスくらいだ。


 思えば、こいつとの付き合いも長くなる。半年以上だものな。


 それでいて、その付き合い方というのも特殊で、利害の一致からくるさっぱりとしたビジネスパートナー然としたものから、自然な友情が芽生えた。トーマス曰く、戦災孤児であった自分がオードリアインジェクション社に拾われ、産業スパイとしてのエージェントとして育てられ、会社のために死ぬことさえ疑わない完璧な人格が、俺のせいで歪んでしまったとのこと。


 もう死ぬことが怖いし、人生でただひとりの友人である俺を失うことが一番怖くなっただと。


 俺のことを心配してくれる、よき友人関係になれたのだ。俺はその変化を喜ばしく思っていた。決して口には出さないけど。


「いやぁ………それにしてもだよ。大変なことになっているね。エースくん」


『まぁな』


 実はトーマスは、俺の事情をすべて知っていた。


 もちろん報せたのは俺だが、それは間接的な部分での話しだ。


 トーマスは本社の意向で動いている。今回の訪問は別としてだが。


 つまり、俺の行動のすべてはオードリアインジェクション社公認の、それも全面バックアップを確約されたものだったのである。


 同時に、オードリアインジェクション社は契約をグラディオスから俺個人へと乗り換えている。グラディオス勢の誰かが、俺の行き先を尋ねても答えはしない。


「落ち込んでいるだろうと思ってね。慰めに来てあげたよ」


『………せめて、お前が女だったらな』


「たまには男の胸で無くのも悪くないかもよ? 一緒に青春しようじゃないか」


『お前、もうそんな歳じゃないだろ。なにが悲しくてお前に抱き付くかよ。まぁ来ちまったもんは仕方ない。働いてもらうぞ』


「うへぇ。人使い荒いねぇ。知ってたけど」


 ヘリコプターから降りるトーマスは、かつて1回だけ足を運んだことがある、俺との因縁が始まったハンガーに踏み込んだ。


「わかってはいたけど、閑散としているね」


『艦載機は俺のリヴァイヴ以外いないからな。設備、機材は大きいもの以外全部持ち出された。ああ、食糧はまだあるから勝手に調理して食べな。ドリンクは在庫切れまで飲み放題。景色が中途半端な深度の海域であること以外、快適だろうよ。数日の休暇として、楽しみな』


「じゃあ、早速きみに会いに行くよ」


『好きにしろよ………で? あっちはどうなってる? オードリアインジェクション社の意向は?』


 ヘリコプターの無線機の接続を解除して、艦内のスピーカーに接続して会話を継続する。


 トーマスは相変わらず飄々としていたが、肝心の話題となると目をより細めて語った。


「問題ないよ。機材の搬入はできてる。苦労したけどね。いったいどれだけの偽装工作を行ったことやら。骨が折れたよ。でも、僕も本社に賛成だ。エースくんのバックアップを全力でやらせてもらう。まぁ、任せておきなよ。きっと成功させてみせるから」


ブクマ、リアクションありがとうございます!

久々に2話以上書けました。この第24話も肝となりますので、逆算が難しいです。

絶望しかありませんが………でも、いずれ覆る時が来る………かもしれませんね。


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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