龍紋を放つC01
「ソータ。お前の出番を奪うことになる。でも安心しろ。全部俺がやる。アイリと仲良くな。アイリはせっかくソータと恋人になれたんだから、その尻を蹴っ飛ばしてでも正しい方に修正してやれ。アーク。家族を取り戻せたんだ。俺じゃなくソータとアイリを守れ。きっとお前のためになる」
グラディオスが浮上する。
もうその頃になると、発進の轟音と強風で、エースの声なんて聞こえなくなるのだが、全員の腕の端末に通信を繋げて語り掛けた。
「ハーモン。コウ。クスド。お前ら立派に成長したよ。びっくりするくらい。嬉しかったなぁ。クスドはそのまま邁進しろ。ハーモン、周りを見て落ち着いて考えてみな。お前を愛してくれるひとが必ずわかる。コウ、ジグみたくなるけど、まぁ気にするな。俺が裏切ったんだ。恨んでくれていい」
あいつ、まるで遺言みたいなことをほざきやがる。
でも私には、止められる術がない。
なにより気持ちが痛いくらいわかる。ファンとして、エースと同じ立場になったとしたら、私もきっと同じことをする。
「キルカ、ナリヤ、マイア。ここにいる子供たちの指導を頼む。最初はグラグラして、指針が見つけられなくて危うくなるだろうから。修正してやれる大人が必要なんだ。アレン。せっかくつけた実力、無駄にするんじゃないぞ。お前はやればできる男なんだ」
みんな、文句を言いたいだろうに。グラディオスを奪ったエースを恨んでいるだろうに。なにも言わず、不思議とその声を聞いていた。
「隊長。レイシアさん。ふたりの仲は引き裂きませんよ。レイシアさんのグラディオスの再搭乗命令は却下です。良い式を挙げられるといいですね。見たかったけど。………おやっさん。こんな不出来な弟子で、すみません。でもこれは、おやっさんの失態じゃない。すべて俺の責だ。飲みすぎに注意してくださいね。クランド艦長にもよろしく言っておいてください」
誰も、そんな言葉が欲しくてここにいるわけではない。
それなのになぜか、エースの言葉に全神経を集中させて、黙してしまう。
「ライラ。シーナの言うことよく聞けよ。きっと守ってくれる。シーナ………ごめん」
馬っ鹿野郎が………私はそんな言葉が欲しかったんじゃねぇんだ。
お前がみんなを引き連れて「黙って俺について来い」と一言あれば、私もそれに続くはずだったのに。
格好つけて、全部ひとりで片付けようとしてるんじゃねぇよ。クソが!
そりゃあ、私まで疑われないようにするためだったのだろうけどさ。「ごめん」の一言で済まそうとするか普通!?
「ヒナ。シェリー。ユリン。………お前たちには、とても助けられた。あの時は作為ありきの関係って言われて否定できなかった。俺は、それを否定する権利なんてないカスだ。お前たちに縋るしかなかった。誰かひとりを選ぶことができず、肉欲に溺れたカスだ。だから言い訳なんてできない。お前たちに甘えてしまったのは本当のことだから。………でも、お前たちが俺を好きになってくれたこと、嬉しかったんだ。俺は確かにこの世界の人間じゃない。そんな俺を気持ち悪く思うかもしれない。それでいい。許してくれなくていい。嫌いになってもいい。けどこれだけは伝えたくて………俺もお前たちが、大好きだったよ」
グラディオスが手の届かない場所まで浮上する。ガリウスもジャンプしなければ届かない。
一方的に言いたいこと勝手にぶちまけて、逃げようとしているカスは、ハッチを閉じて艦内に戻ってしまう。せめて、私の返事くらい聞きやがれ。
でもエースの企みは、そうすべてが罷り通るはずがない。ドイツ支部上空にはバリアがある。外側も、内側もなにも通さない半透明な防壁の内側にいるグラディオスは、もはや籠の鳥だ。逃げられないし、ドイツ支部も逃がす気はない。
が、それでも相手はあのエースだ。
味方陣営さえも平気で欺く前科があるあのエースが、その程度のことを想定できていないはずがない。
ドイツ支部のハンガーからガリウスF部隊がスクランブルを受けて発進する。
が、それでもやはりエースは奥の手を残していた。
それこそ史上最悪の選択かもしれない。支部全域にアラートが鳴り響く。
その内容を知った時、私は愕然とするしかなかった。グラディオスクルー、ドイツ支部のクルーならともかく、第3の転生者である私でさえ言葉を失うくらいに。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! アイルランド沖にて展開する我が艦隊に動きあり………いや、沈黙していたアリスランドに動きあり! ビーツ・クノ中佐が脱走! アリスランドを強奪したのち、艦隊を退け緊急発進して逃亡している模様! ガリウス部隊は輸送機に乗せ緊急出撃! 海に潜る前に轟沈せよ!』
ビーツが脱走し、アリスランドを奪って、逃げた………!?
グラディオスクルーは驚愕し、唖然とした。あまりの衝撃の連続に、思考することさえ放棄していたかもしれない。
私もそのひとりだが、すぐに思考が回転し始める。
偶然にしても、タイミングが合致し過ぎていた。
「なんでビーツがアリスランドを動かせる? あいつ、起動キーとなるパスワートなんて持ってない………いや、ある。エースか! エースがアリスランドの起動キーを脳内チップに保管してて………クソッ! あの野郎、こうなることを見越して、いつの間にかビーツに起動キーを渡していたってことかよ!!」
そうとしか思えなかった。
タイミングならあった。例えば、面会に行った日。
でもまさか、あの時から、エースはこうなることを予見していたのか?
やっぱりエースは、すごい。どれだけ周到で、深い先読みができる天才なんだ?
最後の最後でクソ野郎になったけど、それでも心の隅で尊敬せずにはいられなかった。
アリスランドさえも囮とするテクニカル。心理。どちらも私にはないものだから。
「おやっさん! ガリウスの大半が海に向かっちまう!」
「だがグラディオスの頭上にゃバリアがある。それを突破するにゃグラディオスであっても無傷じゃ済まねえ。それくらいエースだってわかってる。突破するにはレイライトブラスターを使うしかねぇだろうが、それをやれば俺らに被害が出る。エースは絶対にそれをやらねえ………なんだと!?」
グラディオスの進路、南へと通じるバリアが、なんと一部が解除されていく。グラディオスがギリギリで通過できるほどの大きさの穴が開いてしまった。
「おい、どうなっているこれは!」
シドウがドイツ支部の整備士に駆け寄って尋問した。端末を操作して、状況を調べている、私の元上司だった男だ。
「支部のバリアシステムにハッキングされた! エース少尉は脳内チップとかいう未知数な装備を持っているというが、それでやったにしては………これは人間ができる技術ではない。それこそ、グラディオスが所有しているハルモニという高性能AIのような、機械的なものが侵入した形跡だ」
つまり、エースはこの時点でハルモニ以外の高性能AIのようななにかを持っているのだ。それがハルモニの代用となり、グラディオスの制御と支部へのハッキングを同時進行で行った。
馬鹿げている。でも、エースはこの時のために着々と準備していたのだろう。
「お前………エース。ひとりだけ苦しめば、それでいいとか考えてるんだろうけどさ………悲劇のヒロインにでもなるつもりか? 人柱になって、私たちがその葬儀に並べば満足ってか? ふざけんなよ馬鹿野郎………せめて最後くらい、私を頼れよ………連れて行けよ。クソがぁあああああああ!!」
私は大声で泣き喚き、ライラに抱きしめられながらも、南の空へと逃亡するグラディオスのメインスラスターの火が見えなくなるまで見送ることしかできなかった。
私は………なんて、無力なのだろう。
転生者が聞いて呆れる。
エースも、ビーツも、戦える力を持っていた。転生後のチートギフトなんてものがなくても、努力と自分のなかにある手札で勝負した。私は整備か、銃を撃つくらいで満足していた。
でも今、はっきりとわかった。
戦いたい。みんなと一緒に………
「私だって………みんなと一緒に戦いたい………」
「………いいよしーな。そのときがきたら、らいらが、ちからをあげるね」
「え?」
ブクマ、リアクションありがとうございます!
最終章へと突入します。
明日は日曜日ですので、2回………あるいは3回は更新していと思います。2回になってしまったら申し訳ありません。
作者からのお願いです。
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