龍紋を放つB10
「なにを………え? 貴様が、貴様自身の情報を………俺に、リークした?」
「ええ。んで、なにか画策してやろうってタイミングでハヴェクってひとからグラディオス絡みで連絡があったから、俺のことを伝えたんでしょ? いやぁ、助かりましたよ。うまく孤立できました。あんたのお陰で、グラディオスは今やもぬけの殻。あとはあんたが出ていけば完了ってわけだ。もうわかっていると思いますけど、あんたがこのグラディオスの艦長になることはないですよ。あんたは最高の道化師でした。お役目ご苦労さんです。もう仕事は終わったんで、元の巣穴に帰っていいよ。虫けら野郎」
「き、貴様………貴様、貴様、貴様ぁ………嘘を言うな! 適当なことを言えば、私が騙されるとでも思っているのか!」
「その質問には肯定しておくけど、今伝えたことが全部真実だし。実際にあんたは俺の想定内の動きをしてくれたんだし。別に騙そうとしてたわけでもないし」
「屁理屈をぬかすなぁああああああ!!」
あらら。すっかり激情してらっしゃる。
この短気な性格をしているから、普段から簡単なことでも騙されるんだ。
そう。これが俺の計画の一部。
俺はあえて全員を欺き、グラディオスから退去させた。
それによって俺への信用と信頼のすべてを失うことになる。相棒然としていたシーナでさえ。
でもそれでいい。俺の地獄への道まで、彼女が付き合うこともない。
「貴様のようなガキに、私の輝かしい栄光ある未来を奪われてたまるかぁぁぁあああああ!! うわぁぁあああああああああ!!」
激情したデーテルは、発狂したように震え、ついに構えていた拳銃のトリガーを引いた。
ガキン! と金属同士が弾ける音が殷々と響く。
「なっ………」
驚愕するデーテル。唖然としているうちに走り出す。
「もう忘れたか? 俺の右手は特別製なんだよ」
インターフェースを内蔵する金属の義手で銃弾を防いだ。人工皮膚が着弾によってジャケットやシャツとともに弾け飛び、義手の装甲を露出させる。
そのまま義手で拳銃を掴むと、デーテルを強引に押し倒す。
相変わらず細い四肢だ。軍人なのに。でも多少は筋肉がついたようだ。あれから変わらず下っ端みたいに働いたお蔭だろう。
しかし現役パイロットとして鍛え続けた俺の敵ではない。拳銃を奪うと、グリップで額を穿つ。
「んぎゃっ」
無様な悲鳴をあげて倒れるデーテル。完全に伸びていた。なんて軟弱な奴だろう。こんな男に新艦長が務まるはずがない。
「飯食ってないから体力落ちてるのに、こんな俺にやられるとかこいつ弱すぎだろ。ええと………お、あった。やっぱ俺の端末、こいつが持ってやがったか」
デーテルのジャケットを探ると、腕の端末以外にもうひとつが内ポケットに入っていた。そこまで重厚かつ重量があるものではない。ちょっとした腕時計よりも大きいが、折り畳めばスマートフォンとそう変わらないから、収納性も高いのだ。
端末を取り戻し、腕に装着する。
展開してみると、やはりハルモニとの連携が切れていた。原因を探ると、本体の電源が落ちているからだと判明。つまりカイドウが持ちだしてしまったのだ。
それはそれで好都合。ハルモニは使い勝手はいいのだが、最大の監視としてグラディオスに存在していたため、俺の計画を実行する際には物理的に機能停止するべきかと悩んでいたのだ。カイドウが問題を解決してくれた。
「これですべては、俺の思うがままになった」
『旧世代にジャパンで流行ったライトノベルの、悪役のような台詞だな』
「実際、もう悪役みたいなものなんだから。いいんだよこれで」
失神したデーテルの足を掴み、部屋を出る。
グラディオスのクルーが大半退去したこともあり、ドイツ支部の見回りも手薄になっていたことが幸いし、デーテルを適当に引き摺って移動しても影響が出ない。ハルモニが機能停止していているから、危険を察知されることもない。
パイロットの更衣室に来る。
もう使うこともないから、デーテルに俺のパイロットスーツを被せるように着せた。老人の介護みたいな感じだ。前世では高校生の頃に実家で祖父の世話をしたこともあり、経験から難なく着せることができた。
あとは本格的に招かれざる客に退去してもらうだけだ。ケイスマンの意志に通信を入れてもらい、俺自身はデーテルを再び引き摺って昇降口へと進む。
艦内外問わず、大音量で警報を鳴らした甲斐あって、調査のために派遣されたドイツ支部の整備士たちがハンガーから転がり落ちるように退去していくのを、監視カメラとリンクした脳内チップで察知。また艦内を隈なく捜査。生命反応がないかチェック。オールグリーン。今や、俺とデーテルしかいない。監査も脱出できたようだ。レイライトリアクターも回転数を上げ、あと少しで臨界に到達する。
「う、がっ………な、なんだっ!?」
とある段差で頭を叩きつけた衝撃で、デーテルが目を覚ます。でももう目的地はすぐそこだ。
「おはよう、デーテル。早速だけど、あんたにはみんなの目を欺くために協力してもらうからな」
足を離して立ち上がるのを介助しながら、ついに昇降口前へ。デーテルは覚醒したばかりで意識が朦朧としていて、案外言われるがままにすんなりと動いてくれた。
「え………お、おい。なにが起きて………なんか暑いし………」
「いいから。ほら、ここから降りて、冷たいドリンクでも飲めばいい。喉乾いただろ? 下に自販機が見えるな? そこが一番近いんだ」
「お、おお。そうか。冷たいドリンク………ほしい………」
なんだか催眠術にでもかかったようなリアクションだな。と苦笑を浮かべる。
ところが、やっと意識が安定した頃、階段を降りる途中でハッとして振り返り、なにか喋ろうとするのだが、誤って段差を踏み外してしまってタラップを転げ落ちてしまう。コントみたいな動作だった。
これが、俺の、グラディオスへの本格的な決別となった。
俺は今、どんな顔をしているのだろうか。泣きそうになるのだけど、弱味は見せたくない。せめて、最後は悪役みたいに笑えてたらいいのだけど───
意味がわからなかった。
エースのパイロットスーツを着るデーテル。そしてタラップの先にいるエース本人。
「エース………お前ぇっ!」
「下がってください、おやっさん。危ないですよ」
久しぶりに聞くエースの声。
飄々としているようで、どこか儚く、物寂しさを思わせるトーンをしていた。
そして表情も、それに見合うような、どこか苦しそうにしながら笑っているようにも見えた。
エースはタラップのコンソールに触れずに、見ただけで操作する。脳内チップを使った。
普段のエースも脳内チップを駆使するが、それはハルモニの補助あっての操作を可能にしている。特務に向かう際も、ガリウス用の輸送機に小型ターミナルを積んで、その恩恵を受けたくらいだ。
けど今、ハルモニは本体の電源を落としているので、物理的に使えないはず。
タラップは下がり、グラディオスから離れていく。唯一の搭乗口が封鎖されたも同然だった。
「なにしてやがるエース!」
「お前、こんなことをしてただで済むと思っているのか!」
「グラディオスをどうするつもりだ!」
カイドウ、シドウ、整備士たちが叫ぶも、エースは微塵も表情を変えず、冷徹に私たちを見下ろすのみだった。
「グラディオスはもらい受けます。そこにいる馬鹿にくれてやるくらいなら、俺が有効活用しますよ。どうせ死ぬだけなんだ。刑の執行日が早まったか、先送りになったかのどちらかでしょう。………それなら、俺が最後の役目を果たす。それだけです」
「ッ………エース」
ここにいる全員、異世界人の戯言くらいにしか聞こえないだろう。
でも私だけは、エースがなにを言いたいのかはっきりと理解した。
エースはなにも準備していなかったわけではない。
たったひとりで、最終決戦に挑むつもりなのだと。
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いよいよ終盤になってきましたね。
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