龍紋を放つB07
はっきりと言おう。
私はエースとは違う。元は趣味全開の、エンジョイ考察勢だった。作品における裏設定なんぞ舐め尽くすような視点は求めていなかった。
軍事、医療、アンノウン。まったく興味無し。特にメスなんて論外。
すべてはオスのために。オスがオスたらしめるオス同士のイチャイチャラブラブの究極の理想郷を脳内で堪能するだけの使徒だった。
けれど前世は機械工学に興味を持ち、就職先もそんな感じであったので、ガリウスについては知識を求めたし、転生してからも役に立った。
エースに出会い、最初は奴のノーマルカップリング思想に殺意を抱いたけど、やがてコウと交際を始め、グラディオスに異動したことで私の思想も変わりつつあった。エースに影響されたのだ。
でも、そうであっても。
私にエースの代行を、本格的に務めることなど、不可能なのだ。
これまではなんとかなった。グラディオスという基盤と、エースが不在なことでビーツがこちらを舐め腐っていてくれたお蔭で、私が想像した最低限の水準を満たすことができたのだ。
でも今はどうだ?
監査の蛇野郎のせいでグラディオスに解体命令が下り、即日私たちはグラディオスから追放されるようにクルーを退任させられた。そして新体制に組み込まれることを望まないので、いずれバラバラになる。
ライラはどうする?
とりあえず私は古巣であるドイツ支部に戻る形になるだろうし、この際支部の寮には戻らず外に部屋を取って、ライラと暮らすか。同性とはいえ寮に一般人を住まわせるわけにはいかない。
交際しているコウは別のところに配属されるかもしれない。いや、絶対にそうだ。遠距離恋愛になるな。
それかコーネリアを頼って、全員デクスター家の傘下に入るのも有りだ。ハーモンを餌にすれば首を横には振れない。なによりハーモンがそう宣言していた。
なぜ知っているのかと言えば、私たちは全員、グラディオスから降ろされることになったので、所持品をまとめて艦の外に出すことになったのだ。急設テントに名札をつけた鞄を置けば、一時保管してくれるという。
久々にほぼ一堂全員が会した時、不安を吹き飛ばすようにハーモンが宣言した。ずっと考えていたという。同室の者には相談し、効率性を上げるための協力を仰いだ。一匹狼だったハーモンが、周囲に協力を要請する。これを成長と言わずなんと言う。確実にエースの影響だ。
通信についてはクスドがなんとかすると言っていた。支部の機材を使うとも。そこは私や、同じくドイツ支部出身のキルカたちの出番だ。パイロットはもちろん、各セクションのクルーたちも噂を聞いてハーモンの周囲に集まってくる。デーテルの傘下には死んでも入りたくないらしい。
私だってそう。初めて顔を見て、声を聞いた。周囲のリアクションも鑑みて、あれは信じてはいけない男だとはっきり理解した。部下になればハラスメントオンパレードで使い潰されるだけだ。エースはよく副艦長という肩書きを持つあの男を完封できたなと感心させられる。口にはもう出せないけど。
「最終局面まであと一歩だってのに………グラディオスはもう使えない。ガリウスだってコーネリア艦隊に持ち込めるかわからない。ガリウスF程度じゃ本来の実力を発揮できない。………こんな危機的状況を打開しろってか? ふざけんなよあの野郎………これじゃなにもできないじゃないか」
「だいじょうぶ? しーな。おなか、いたい?」
「ん………大丈夫。なんでもないよ。ライラは自分の心配をしてな。このままじゃ、ここだってどうなるかわかったもんじゃないんだ」
「みんな、いっしょなのに? あ………えーす、いない………」
共に私物を外に運ぶライラは、心配そうに周囲を見渡す。
ここには大半のグラディオスのクルーが集まっていた。私物を運んだ次は、機材を搬出することになっている。ガリウスなどは専用の大型トラックを使用して、仰臥させてハンガーの専用ハッチから外に運ぶのだ。
すでに整備士たちはドイツ支部の整備士と連携して作業に当たっている。そこはパイロットたちが操縦してグラディオスの外に運べば効率的なのだが、あのハヴェグとかいう監査の蛇野郎が、パイロットたちから操縦権を剥奪、機体とレイライトリアクターにロックをかけたので、外部から触れて運ぶしかない。徹底された権利の剥奪は、どうやらデーテルが一枚噛んでいるだとか。流石は嫌がらせの天才だ。クーデターをされないように、まず主戦力から潰すとは、やってくれる。
「俺たち………なんでこんなことになったんだろ………」
男性テントから出てきたソータが呟いた。
なんて表情をしていやがるのか。「天破のグラディオス」の主人公がしていい顔じゃない。
虚無そのものが能面のように張り付いているかのようだった。アイリとアークが歩み寄らなければ、いつ錯乱したように叫び出すかも知れないような、そんな危うさがあった。
彼らの目線の先には、真っ先に搬出された機体があった。イレイザー、二号機から十三号機まで。さらに製造途中のジャケットや、保管していたジャケット。装備、武装、弾薬などが特殊輸送車で運ばれていく。
外で解析するとハヴェクは言っていたが、なにも屋外ですべてを行うわけではない。ドイツ支部のハンガーへ運ぶのだ。私が記憶している限り、そこまで余裕なスペースこそないが、雨ざらしにするより多少狭くとも保管と管理が可能な屋内で調査を行った方がいい。
各支部に展開するバリアには法則がある。宇宙にはない天気の問題だ。晴天であればバリアを展開するが、雨や雪の日はバリアを解除し節電するシフトとなる。アンノウンの活動が活発化しないからだ。ゆえに雨天時はバリアがないので、雨が建物に落ちてくる。これでガリウスが外に放置され、雨ざらしになった結果装甲が錆びてしまったら、私は支部の誰かを殴りに行くかもしれない。
「シーナ。なぜリヴァイヴは降ろさない? エー先輩の機体だ。真っ先に降ろすものかと思ったが」
「リヴァイヴは、内部フレームもナノマシンが使われてる可能性があってさ。ドイツ支部のハンガーにどんな影響があるかわからないし、グラディオス内で調査するんだと」
「それに、エースの野郎とリヴァイヴはナノマシンで繋がっている以上、下手に引き離すとなにが起きるかわからねぇって忠告しておいたこともあるがな。だから監査の連中も、すぐにはエースを宇宙に連行できねぇのさ」
「おやっさん」
コウからの質問に答えると、台車で成人男性の全身ほどある機械を、弟子たちと降ろしてきたカイドウが補足する。
カイドウはその機械を、ふたつ並んでいるテントではなく、奥のより大きな仮設テントへと運んでいく。私はライラを連れて、それを追う。
「おやっさん。それ、もしかして………ハルモニですか?」
「まぁな。デーテルの野郎にくれてやるなんざ、冗談じゃねぇ。どんな悪用をされるかもわからねぇし。だから今はお前もハルモニは使えねぇ。注意するんだな」
引っ越しどころじゃない。物理的な解体を、デモのつもりでカイドウは行ってしまった。一度外せば再度の取り付けには時間がかかるし、再設定しなければならない。嫌がらせと抗議代わりに、とんでもない置き土産をしていった。
ハルモニとはグラディオスを統制する高性能AIのことで、その優秀すぎる頭脳に、私だけでなくエースも何度も世話になった。また、これがなければ、はっきり言ってグラディオスはまともに航行するどころか機能すらしないだろう。ハヴェクやデーテルが勘付く前に行い、気付いた頃にはしらばっくれるつもりだ。
やりますねぇ。
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