龍紋を放つB06
「しっかりしろ馬鹿! お前があんな虫けら野郎にいいようにされてるってのが、どうも気になるけど、もうそうも言ってられねぇ。なぁ、おい。なにか、こう………あるんだろ? 画期的なアイデアっていうの? 言え。私はなにをすればいい? なにをどうすれば、お前をここから出してやれる? 言えよ。やってやる。………おい。おい、エース。黙ってないで、なんか言え。言えよ………言ってくれよ!」
「………ない」
「え」
「なにも、ない。なにをどうやっても覆せない。最悪だよ。前々から考えてたプランがお釈迦になった。………なんでこうなっちまったんだろうな。俺、どこでなにを間違えた? 俺たちの情報が流出するなんてあり得ないのに。この大事な局面で、そんな悪意を持つ人間がいるなんて気付きもしないで………本当に間抜けだよな。俺ってやつは」
エースは次第に脱力するように硬いベッドの上に崩れ落ちる。
いつだって毅然としていたエースらしからぬ、ネガディブな様相に、私は数秒だけフリーズしてしまった。
なにもない。万策尽きた。ここから覆すことは不可能。
あのエースがここまではっきりと明言したのだ。頭をガンと強く殴られたような衝撃が走る。
本当に殴られただけなら、どれだけマシだっただろう。その代わりにエースはまだ策を残していて、いつものように私にこういうのだ。「ここから逆転して、信頼を取り戻すぞ」と。
でも、そんなことにはならなかった。儚い妄想にすぎない。
「………どうするんだよ。これから。あと数ヶ月しかないんだぞ」
「わかってるよ。けど、もう俺にはどうすることもできない。脱走したところで射殺されるのが関の山。待ってたところで魔女裁判の火刑の代わりに銃殺刑………マジで俺、死ぬことになるんだろうな。………シーナ」
「ヤダ」
「まだなにも言ってねぇぞ」
エースがなにを言わずとも、これからなにを言おうとしているかくらいわかってしまう。
こいつは狂人で、結局最後までどこまでいってもお人好しなのだ。
「わかるんだよ。お前どうせ、みんなを頼むとか言うんだろ。ふざけんなよ………お前が最後まで面倒みやがれよ」
「………もう、無理だ。あいつら………ヒナも、シェリーも、ユリンも、俺が拘束された時に、もう信用がないって目をしてた。デーテルの言うとおりになっちまった」
「馬鹿野郎………後悔するくらいなら、あの時デーテルの暴論を真っ向から否定してやればよかったんだよ! ヒナたちを巻き込みたくないからって、黙ってるからこうなるんだ! 全部お前の過失だろうが! メソメソと女々しく後悔垂れてねぇで、挽回する策のひとつでも組みやがれ!」
鉄格子を掴んで叫ぶ。アヴァに聞かれているかもしれないが、見合う対価さえあれば、あの女は最後まで黙っていてくれるだろう。
「………無理だ。もう、俺は………ダメみたいだ。みんなに伝えておいてくれ。ごめんなって」
「ふっざけんな! そんなの伝えられるかよ!」
「俺はお前たちと一緒に行けない。だから………シーナ。お前があいつらを守れ」
「はぁ? パイロットでもないこの私に? なんだよ。お前の代わりにリヴァイヴに乗れってか? 嫌だよ。ナノマシンなんて注入したくないし。お前がやるんだよ。お前がみんなを助けろ。私と一緒に、最後まで生き延びろよ! なんのための転生者だよ!」
「転生者は万能じゃない。やることにも限度がある。無限の力なんかない。ましてやチート持ちでもない。シーナ。これだけは忘れるなよ? お前が持つ力にも、きっとなにか意味がある。俺にはないなにかがある。それに気付いた時、きっと………みんなを守るきっかけになる。お前は生きろ。なにがあっても」
どうも、さっきから会話が噛み合わない。
これはもしかしたら、性行為をしていないことから、三大欲求のひとつが満たされないことで脳内チップの支配が進行しているのかもしれない。いずれエースは食べることも眠ることもできない体になり、そして───いやその前に刑が執行されるのか。
掴んでいた鉄格子を離す。
その時、腕の端末でアラームが鳴る。4分が過ぎた。早いものだ。
「エース。お前………このまま死んでいいのか?」
「良いも悪いもない。俺はお前たちとは違う。行き先も、命も。………最終話の結末を見られないことが残念だけど、シーナ、お前になら全部任せられる。あとは頼んだぞ」
「………クソが!」
悪態つきながら、台車まで戻る。
台車の収納スペースに乗り込むと、丁度アヴァが来て、私ごと台車を運んだ。
「あらエース少尉。お食事、食べなくていいの?」
「腹、減らないので」
「あらそう」
淡泊な会話の末、アヴァはエースのための食事を下げて、台車を押して営倉を出た。
それが、私とエースの繋がりが切れた瞬間でもあった。
さらに5日が経過した。
監禁生活も飽き飽きして、体を動かそうにも狭い部屋ではどうにもならない。
ライラにセクハラまがいな悪戯をして気を紛らわせる。
けど、その翌日。6日目の午前。
艦内に放送が入った。ブリッジからである。
『グラディオスクルーに通達する。私は監査員ハヴェク・ニナイである』
監査の筆頭の男の声だ。
『クランド大佐への聴取は終了した。最後まで黙秘を続ける強情な男であったが、その沈黙が答えであると判断した。結果、グラディオスは解体、クルーは総員解散し、ドイツ支部に一時預かりとする』
「なんっ、だと………!?」
いきなりの通達に、私は焦らずにはいられなかった。
壁やドア越しであっても、周囲の部屋から悲鳴や怒号が炸裂し、ドイツ支部の兵が鎮圧するために銃を構える音が聞こえた。
『クランド・デネトリア大佐は艦長の任を解き、ドイツ支部の牢に収容し再聴取。エース・ノギ少尉ならびビーツ・クノ中佐は本部にて再聴取を行い、刑を執行する。グラディオスならびアリスランドは本部預かりとなる。新艦長は誰よりも艦のことを熟知しているデーテル・グレイとし、本部から新たに補充要員が届き次第、再編成を行うが、長年この艦を支えたクルーの経験は貴重だ。新体制へ組み込むことになるが、募集は随時行う。後程、諸君らの端末に志願書を送信するので、サインをしたのち返信せよ。志願しなかった場合、異動通達が下る。なお、エース・ノギ少尉ならびクランド・デネトリア大佐がなにかを隠蔽した可能性があるため、機体の分析を行う。艦載機を降ろし、ドイツ支部の人員に調査をさせることになるだろう。諸君らの英断に期待する。以上』
なんて身勝手な暴論だろう。
クランドが口を割らないから、沈黙を可として独自の判断と裁量ですべてを決定しやがった。
そんな暴挙は許されないが、それが組織というものだ。そうしなければ新たな部分が動かないこともある。誤作動を起こすくらいなら、初期化、あるいは刷新してでも強引に進めなければならない。
けど、あのハヴェクとかいう蛇野郎は知らない。なにもわかっていない。
エースについては信頼と信用を失ったが、グラディオスクルーはクランドへの忠誠を失ってはいないことを。
そして人選が最悪だ。私の耳が腐ってさえいなければ、ハヴェクはグラディオスの新体制における新しい艦長に、元副艦長をしていたデーテルを添えるとか。
仮に本当にエースの洗脳があったとしても、デーテルの悪行の数々は露呈しているから、もうそれは冤罪ではない。
シェリーを襲いかけたりした事実は消えない。嫌われ尽くした人物が艦長など冗談ではない。クランドのいないグラディオスなど無意味だ。きっと、誰も志願書とやらにはサインしないだろう。
「こんな原作にはない解散命令が出された状況で、私になにを守れって言うんだよ。エース………」
ブクマありがとうございます!
BAD ENDとなりまして、これにて完結となります!
あ、はい。嘘です。
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