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龍紋を放つB05

 エースはグラディオスの営倉に収容された。


 これはせめてもの慈悲、あるいは仕方のない処置だ。ドイツ支部は今、エースのよくない噂で溢れていて、敵が多すぎる。支部にも牢屋があるが、そこに収容すればどんな目に遭うかわからない。容疑者が殺されてしまっては意味がないのだ。


 それに監査に連れられて同席したドルテに少しだけ話を聞く時間があったのだが、どうやらその噂とはエースが「未来視の能力を持っている異星人」だとか「この世界を滅茶苦茶にしに来た異世界の住人」とか、根拠のないものばかりだった。


 出所なんてわかっている。デーテルだ。デーテルは人員補充の際のトレードで真っ先にグラディオスから降ろされ、ドイツ支部所属の軍人として勤務していたが、その性格や降格処分のせいで噂が広まり、鼻つまみ者となっていたものの、この機を利用して、そのような噂を広めたに違いない。


 エースはすぐに宇宙送られると思ったが、そうではなかった。ここには監査が乗ってきたシャトルがある。エースひとりを収容して連合軍本部に戻るのは簡単であるが、監査はエースだけを捕縛しに来たのではなく、かつての命令違反や、戦争のきっかけを作ったクランドを処分しに来たのだ。


 ドルテはすべて否定したが、ドイツ支部の存続や、グラディオスに所属する反抗勢力と見なすぞと脅され、首を縦に振るまで解放されなかったという。片足を引き摺っていた。暴行を受けたのだろう。なんて連中だと腹が立った。


 ドルテといえば、宇宙出身だが、かつてオルコットの指針に逆らったせいで地球へ降ろされ、ドイツ支部に飛ばされたという。その恨みもあって、あの戦争ではこちらの味方をしてくれたのだ。だが、ドルテはこのドイツを第二の故郷とも思っているらしい。家族がいるのだ。降りてからドイツ人の女性と結婚し、子供までいるという。人質に取るぞと脅されれば、首肯しないわけにもいかない。


 そしてエースの吊し上げが終われば、次はクランドだ。監査たちは二手に分かれ、エースを営倉に収監する隊と、クランドの尋問を行う隊に分かれる。クランドへの聴取は秘密事項が多く、すべてを公開するわけにもいかないので艦長室で行うらしい。スピーカーは当然オフに。


 その間、グラディオスクルーはすべての業務を没収された。


 部屋に戻るよう指示を受け、監視をドイツ支部の武装兵が乗り込んで行う。


 クランドはドルテのように妻子を持つ身だ。宇宙コロニーにいる妻を人質に取られるかもしれないが、肝が据わっている男だ。簡単には首を縦には振らないだろう。


 監査はすべてクランドの尋問へと向かった。


 部屋に収容されて数時間。特にやることもないし、不安そうにするライラを抱きしめてベッドに寝転ぶ。食事は配給されるらしい。炊事兵だけは調理関係なら監視を付ければ艦内を出歩くことが許されているのだ。ただし配膳と回収はドイツ支部の人間が行う。


 翌日。昼食後。ライラと行った食事のプレートを下げにきた女が、見知っていた奴だったので声をかけた。


「アヴァ? お前………アヴァか!」


「あら。こんなところにいたの? お人形ちゃん。小さくて気付かなかったわ」


 白人の女性だった。歳は私より一回り上で、イギリスから逃げてきた難民で、軍に志願したひとりだ。


 昔から私のことを周囲に同調して「お人形ちゃん」と呼んでからかってくる、いけ好かない先輩であるが、今は殺意よりも肝心なことを優先しなければならない。


「なぁ、アヴァ。その食事のプレート、台車で運んでるんだよな?」


「ええ。あなたたちの食事を下げるのが仕事なんて、嫌になっちゃうわよ」


「その台車、なかは空だろ?」


「配膳の時はパンパンになってるけど、下げる時は上の段に重ねて運ぶからね」


「………頼みがある」


「報酬は?」


 アヴァという女性は、物欲が強かった。守銭奴とも言う。そのくせ賭けに強く、金銭のやり取りになると目の色が変わる。


 ゆえにこうした交渉をするのがアヴァでよかった。


 危険を顧みるよりも、己の利益を優先するからだ。


「これ、やるよ。もちろん実行できたらだけどな」


「なによ。それ」


 デスクから引っ張り出したメモリーを見せ、次に腕の端末から図面を展開。空中に立体投影されたガリウス関連の設計図が現れるも、アヴァは整備科ではないので具体がわからない。価値を知らない。


「この艦のハンガーは見たか? 白い機体があったろ。私はその機体の設計者のひとりでもある。この設計図は通称、シーナ式ツインリアクターシステムっていうんだ。これをドルテ支部長に売りつけな。退役してもしばらく遊んで暮らせる大金になるだろうぜ」


「………証拠がないから、わからないわねぇ」


「確かお前、アイルランド沖のアメリカ支部との戦争にも参加しただろ。あの時のこと、覚えてるよな?」


「忘れられない悪夢だわ。それにこれ、ドイツ支部でも使えるの?」


「アメリカ支部の旗艦、アリスランドから黒いガリウスが出撃したろ。うちの副た………エース・ノギが最終的に落としたあの化け物のことさ。あいつ、私が作ったこのシステムをパクリやがった。ガリウスFのレイライトリアクターを流用しても、あれだけの高出力を得られるってことだ。………メカニックからすれば、喉から手が出るほど欲しいシステムなんだがな。まぁ、一攫千金を得るかもしれないまたとない機会を棒に振るかは、お前が決めればいい」


「………一攫千金ね………面白い賭けじゃない。乗った」


 アヴァはメモリーに手を伸ばすも、払い除けるようにしてポケットに戻す。


「成功報酬だ」


「ま、事前報酬じゃ、お人形ちゃんも安心できないものね。いいわ。で、台車のなかに乗って愛しい彼氏のところに行きたいの?」


「営倉だ」


「………リスク高いわねぇ。でもいいわ。退屈してたところなの。乗りなさい。監視もどうにかしてあげる」


 アヴァが賭けが好きな性格で助かった。


 ライラには留守番をさせることになるが、今はこれ以外に方法がない。


 部屋のなかに入った台車のなかに入り、揺られながらその時を待つ。


 エレベーターを使って降下した。回収は各部屋のみではない。営倉もそうだ。


「あなたたち。休憩まだでしょ。食器を片付ける数分だけ代わるわ。行っていいわよ」


「助かるぜアヴァ。一服したくてよ」


 なるほど。営倉前の監視もドイツ支部の者が行っているのか。全員を追い出すには良い口実だ。


「………5分が限界だと思いなさい」


「ありがとよ。無事に出られたら報酬をくれてやる」


 営倉のなかに台車が入ると、アヴァは外に立って待ってくれた。


 5分では不安だ。4分にタイマーをセットする。


 台車から降りて、営倉のひとつで大人しく座っている少年の前に立つ。本当に不気味なくらい大人しかった。


「よう。馬鹿エース」


「おう。狂乱ハムスター」


 いつものエースを見習って、挨拶代わりに一発ぶちかますも、なんといつもと変わらない態度で応答があった。


 かえって、それが私の苛立ちを強める結果となった。


「わかってんのかテメェ………このままじゃ銃殺刑だってあり得るんだぞ!」


「叫ぶなよ。誰かに聞かれるぞ」


「なんでそう呑気にしてられるんだよテメェは!」


「………なんでだろうなぁ。遅かれ早かれ、俺は死ぬからじゃねぇの?」


「んなことっ………」


 自棄を起こしている?


 どん詰まりの状況に、活路を見いだせないから?


 残酷な話ではあるが、あり得ないことではない。


 カイドウから何度も聞かされた。エースは心が脆い時がある。強い挫折を経験した際、メンタルブレイクしたことがあると。


 もしかしたら、今回もそうなのだろうか。


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