龍紋を放つB04
「コホン………エース・ノギ。いや………本名は、エイスケ・オコノギ! 貴様は我々とは違う。そうだな? 転生者などというSFチックな話になるが、例えるならパラレルワールドに近い………いや、別の世界から来た住人である。そうだな?」
デーテルがいやらしい笑みを浮かべてエースに問う。
ハンガーが沈黙に包まれた。
誰もが頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。「なに言ってんだこいつ」とか「ついに末期か」とか「頭がおかしくなったと思っていたけど、ここまでとは」と疑い、嘲り、果てには同情するような声と視線が突き付けられる。
いや、それは至極まっとうというか、当然のリアクションなのだが。
けれどエースも、私も、強い衝撃を受けていることには違いなかった。
なんとデーテルはエースの正体を見抜いた。それも前世の本名まで言い当ててしまう。
不可能だ。あり得ない。なぜこうなった? いや、デーテルはどこでそれを知った?
連合軍本部から差し向けられた監査員たちは平然としている。エースの正体を知っている様子。つまり本部もこのことを知っている?
「答えたくないか? まぁいい。それならこちらは先に進めさせてもらうだけだ。貴様は別の世界の住民で、未来を知っている。そうだろう? それにゆえに貴様は、我欲を優先したと聞く。私も初めて知った時には目と耳を疑ったが、サフラビオロスで貴様を保護した時から、身に覚えのあることばかりだったと思い出した。貴様は時として、その年代にしては不相応とも呼べる態度だった。奇行に走り、周囲を掻き乱した。クルーたちを驚かせもした。いかがですかな? グラディオスの諸君! この者に最初、違和感を覚えた者もいるのではないですkな!」
意気揚々と語るデーテル。
最初はなにを言うのかと呆れたクランドとカイドウだったが、デーテルの言葉にハッとした。
かつてエースは、整備士見習いとして配属される前から、異彩を放っていたそうだ。カイドウからも聞いた。
そりゃそうだ。だって「天破のグラディオス」の生粋のファンが、最終話を見終えて数分後に第1話の冒頭シーンにいたっていう、ファンからすれば嬉しすぎて失禁してしまいそうな珍事だったものな。私だったら確実に失禁してる。叫び過ぎてゲロも吐きそう。
第1話から最終話まで知り尽くした男が転生し、主人公ではなく名も無きモブキャラとなった。つまりそれは、スポットライトが当てられることのない、なんてこともないキャラクターに命を吹き込み、それから起こるすべてを知っているがゆえに、知識を武器に戦えるということ。
エースは努力した。漫画やライトノベルでありがちな、最初からチートを使える主人公ではなかったにしろ、拙くとも自分が培ったすべてを総動員して、時としてメンタルブレイクしても、最善を求め続けた結果、第6話の「ヒナショック」から始まる悲劇の連鎖を打ち消し、死ぬはずだったネームドキャラすべての救済を行った。
異彩を放つ。これについてはカイドウも言っていた。子供とは思えないなにかと会話している気分になった。時々エースのことが化け物に思えて怖かったと。
いけない。これはまずい。デーテルの口車に乗せられ、エースに懐疑の目が向けられてしまう。
「ッ………あいつ………!」
その時だ。振り返ったエースが私を一瞥する。周囲の反応を探るような仕草ではあったが、私を見た時は圧を強めたようにも思える。「動くな」と言いたいのかよ。自分がどんな状況にあるのかわかって………いやわかっていて、私に託そうとしているのか。
ふざけんな………せっかく戻ってきたのに。これからなのに。
ビーツに勝利して、残る最終決戦さえ勝利してしまえば、大団円のはずなのに。あいつ、こんなところですべてを投げ出して諦めるっていうのかよ。
「いいかね諸君。エースは最初からおかしかったのだ。ことある毎に介入し、人心操作を行った。なぜか? そうやって信頼を集めれば、疑われることがなかったのだ! 思い出したまえよ諸君。エースの異常さを。無二の愛による献身? それは違う。見返りを求めぬ愛? そんなものはない! 見返りは確かにあった。なにがあっても自分が疑われぬ、偽りの絆を作ること! ………可哀想になぁ、貴様ら。エースの洗脳によって、汚染されてしまったのだ」
虫けらのくせに痛いところを突く。
無二の愛による献身。見返りを求めない愛。それをデーテルは否定したが、私たち転生者にとっては存在するのだ。ただここにいて、登場するキャラクターと接し、時間を共有するどころか息遣いを感じるだけでも感涙する。
ただ、それは違うと否定したところで、なんの証明もできないのが現状だ。ゆえにエースは沈黙し、高らかに演説するようなデーテルをジッと睨んでいる。
「そんなこと………」
「無いと言えるか? 汚染されし我が準天使、ヒナ・ワルステッド。貴様、エース・ノギに惚れているのだろうが………もしそれが、作為ありき悪しきパフォーマンスだったとしたら?」
「そんな」
「本当に否定できるのか? エース・ノギは貴様以外と肉体関係があるのだぞ? 同時に複数人の少女を抱く。まぁ男なら誰しも憧れる環境であることは認めよう。だが貴様、本心ではそれを肯定できるのか? エース・ノギはそんな環境を、あえて自ら作り出したとしたら? 少なくとも艦内で、絶対に自分を裏切らない駒を作るため、3人と関係を持ったと考えなかったのか?」
「………エー先輩………ねぇ、エー先輩。違う………よね? 違うよね!? ねぇ、違うって言ってよ! デーテル虫なんかに好き勝手言わされて悔しくないの!?」
まずい。ヒナが狙われた。
シェリーもユリンも、どこか達観したところがある。でもヒナは精神的に危ういところがあり、そこを突け狙われてはデーテルの思う壺だ。
案の定不安定になったヒナが、エースに歩み寄る。
左手を掴み、叫びながら揺さぶる。
だがエースは、デーテルの主張に異を唱えなかった。沈黙を一貫した。ヒナを見ようとしなかった。
ただ一言「違うから安心しろ」って言ってやればいいのに───いや、ヒナを巻き込まないように、突き放そうとしているのか?
それは正しい反応なのだろう。もし私がエースのように糾弾され、コウに同じことを問われても、同じ反応をするだろうが、それはあまりにも酷なことで、愚かな選択だ。
「そしてエース・ノギと肉体関係を持った者以外にも、洗脳を受けた者がいるな。ここにいる大半が、その対象者だ。パイロット関係は絶対だし、クランド艦長、カイドウ整備長。あなたたちも例外ではない。シドウ、お前もだ。艦内のパフォーマンス、整備、パイロット。それぞれの分野において、エース・ノギについて驚愕し、改善に尽力したと勘違いした末に絆された。自覚がないなどとは言わせない。しかし私は違う! 私は最初からエース・ノギについての底知れぬ恐ろしさを見抜き、周囲に警告を促したがすべて無視された。エース・ノギの洗脳が行き渡ったせいで、私は罪なき罪を被り、冤罪によって副艦長を辞任させられ、底辺を彷徨った。そしてドイツ支部で降ろされた! 私はお前を許さない。正義の名のもとに、悪を成敗する権利を執行する!」
正義とは。言ってくれる。早い者勝ちな部分もあるが、この艦のなかでエースに影響されなかった主要人物はいないだろうし、エースの薄いリアクションのせいで信憑性が向上してしまった。
エースの周囲の目が変わる。「信じたい」から「信じられない」といった、ネガティブな方面へ。
まずい。早く訂正しなければ手遅れになる。それがわかっているのに、エースも、私も、まったく手が出せなかった。
エースはグラディオスに影響を与え過ぎた。その信頼が大きければ大きいほど、逆転した際の崩壊もまた大きくなり、取り返しがつかなくなるのだ。
転生者なんて馬鹿げたファンタジーを信じるなど、正気ではない。けれどもみんな正気ではなくなっているせいで、エースの異常さに気付いてしまった。
あり得ない。と叫ぶのは簡単だが、この世界にはなにが存在する?
アンノウン。それから新規要素のイレギュラー。一方は外宇宙から。一方は地中から現れた。約100年前の常識がひっくり返ったこの世界なら、転生者なんてものがいても、おかしくないと信じてしまったのだ。
ブクマありがとうございます!
難しい………人間の心理って、本当に難しい。どうやったらエースを犯罪者扱いできるのかと悩み、多少無理があるのはわかっていますが、強引に通してみました。
本日は夜にも更新します! それが限界です。申し訳ありません。
作者からのお願いです。
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