龍紋を放つB03
「………その件については、全責任は私にある」
「なに言ってやがるクランド!」
「黙っていろカイドウ! これは紛れもなく私の責であり、クルーはそれに従ったまでのこと。が、エース少尉は違う。エースはまだ………子供だ。子供に、大人の言う責任を取らせるなど、そのような不条理を許してなるものか!」
大人として。大人ゆえに責任を取れることをクランドは行動で示そうとした。これが立派な大人の姿なのだとはわかる。
だがそれは、所詮は自己満足でしかない。エースがいつもやっている愚行だ。
そして監査の前には、まったくの無意味な主張と化す。
「エース・ノギは確かに未成年だ。だが軍属となった以上、未成年者であろうと差別なく軍法にかけられることをお忘れか?」
「確かに軍規に違反をすれば、対象となるだろう。だがそれは違反をすればの話しだ。諸君らのそれは、どの軍法にどう触れたのかを説明していない!」
「なに。そんなこと、あらゆる手段を用いて、これからじっくりと聞き出せばいい」
「まさか………貴様! エースを再び拷問にかける気か!」
「必要とあらば。口を割らせるのは得意でしてね」
「それこそ不条理だ! なにが軍法か! アメリカ支部で、暴走した福支部長がエースになにをしたか知らないはずがあるまい!」
「存じませんな。副支部長の暴走? そんなものは記録に存在しない」
「っ………オルコットの情報操作か!」
「口を慎むことをお勧めしますよクランド大佐。いかに有能な艦長とあれど、本部の幹部への不敬は許されない。ただでさえも捕縛対象となっているあなたのキャリアに、さらに汚点を増やしたいのですか?」
「好きにしろ! この件はコーネリア少将を筆頭に、デクスター家にもすぐに伝わることとなるだろう。私ならともかく、犯行内容や、どこの国や組織に所属しているかすらわかっていないにも関わらずスパイ容疑で拘束しようとしている、冤罪行為を見逃してなるものか!」
議論が激しさを増す。
クランドはどうあっても黒スーツの連中からエースを守ろうとしている。いやクランドだけではない。この場にいる全員がそうだ。
ところが、当のエースは反論もせず、黙したまま見守っていた。いつもなら話に割り込んで、監査たちを脅してでも撤退させる。あとになってどんなダメージとして戻ってきたとしても、エースは気にもせず我が道を行くスタンスを一貫する。
それがなぜ、エースはまったく動こうとしない?
まるで、なにかを待っているみたいだ。なにを待つ? この状況でなにが訪れる? なにがどう変わる?
「………確かに、我々はエース少尉の容疑内容の仔細を語れるわけではない。この令状は、少尉の拘束を可能としている証明にしかならず、クランド大佐をはじめ全員を納得させられるには至らないだろう。ならば、証人を立てるのみ。───入りたまえ!」
筆頭の合図に、通路にもひとを用意していたのか、待機していた誰かがハンガーに入る。
それはドイツ支部の人間だった。腕章からして、かなり階級が低い。サングラスで目元を隠していたので私には誰なのか判別できなかったが、カイドウたち整備士は「あっ」と声を上げた。
「まさかとは思ったが………きみか」
「お久しぶりですクランド艦長。いやはや、随分とグラディオスも様変わりしましたな。人員の異動を行ったゆえでしょうか。こんな馴れ合い世帯に発展するなど嘆かわしい。以前なら、私が統率していた時代に比べれば、なんたる練度の低さかと天を仰いだでしょう。しかし、それも今日で終わる。ククク………この日をずっと待ち侘びていた! 久しぶりだなぁ、ゴキブリィッ! よもや今日、ここで貴様に引導を渡せることになろうとはなァッ!」
淡々とした嫌味が絶叫に変わる。
私は歯噛みするしかなかった。
ここでやっと、召喚された証人とやらの正体がわかった。
サングラスを取ればはっきりとわかる。
デーテル・グレイ。元グラディオスの副艦長。歳はシドウに近い。若年にして連合軍が誇る最新鋭艦の副艦長に就任するほど優秀で有能なのだが、それ以外が壊滅的に小物というどうしようもないやつ。
デーテルは原作でも第2クールも続投が決定していたのだが、エースが初手から嫌がらせに対する報復を決行し、最終的にはヒナ、シェリー、ユリンの喧嘩の最中に悪事が艦内に暴露され、副艦長の任を解かれ、各セクションで小間使いとして働かされていた。地球に降下してからは、補充要員のトレード対象にエースが即座に組み込んだらしい。なお、それに対する反対意見はゼロだったとか。
そんな経緯があり、語られざる半年間という第1クールから第2クールの間では、デーテルは表に立てず細々と艦内で過ごし、クビ同然のトレードになって去った。それゆえに私はデーテルとの面識はなかった。これが初対面となる。
アニメでは何回も見た憎たらしい笑みを浮かべる馬鹿という印象を今回も継承しつつも、なんだか闇の深そうな瞳をする不気味な男になり果てていた。
「聞け諸君! 我が声を! 帰ってきたぞ私は!」
デーテルは喝采を待つ英雄になり切っているのか、ひとりで感嘆しながら叫ぶ。
そして、腕の端末を操作し始めたのだ。
『マスター・カイドウ。システムに侵入あり。艦内外のスピーカーがすべて起動。ハンガーでの会話が、すべて流れるようセットされました』
「デーテルの野郎か! くそっ………あの青二才め、いったいなに企んでやがる!」
ハルモニが告げると、カイドウはブロックを命じる。だが余程優秀なハッカーがいるのか、ハルモニのブロッキングをすり抜けていくようだ。
カイドウは狼狽のあまり、デーテルの狙いに気付いていない。
でも私にはわかる。
積年の恨みを持つ男が、グラディオスの内外問わず全スピーカーを繋いでハンガーの会話を、ドイツ支部の人間にまで聞かせるということは───吊し上げを行うためだろう。いや、これはもはや魔女裁判に近い。
「エース・ノギィ………私を覚えているかぁ?」
「………申し訳ありません。どなたでしたっけ?」
「オィィイッ!!」
「嘘です。お久しぶりです。デーテル元副艦長殿。ゴキブリをペットにしたいって趣味、どうなりました? 小児愛主義は継続中ですか? まだ鼻くそ食べてるんですか? 女性を前にした時、放屁したいって願望はどうかと思いますけど」
「だ、黙れぇぇえええええ!! お、おま、お前ぇぇえええええ!!」
「ハハハ。その狼狽っぷり、隠そうとしても無駄です。まだ継続中ですって言ってるようなもんですよ」
こ、ここで反撃するのかよエースの奴っ………!
これから吊し上げ大会か魔女裁判にかけられるのに、すげぇ度胸だ。先手を取って、デーテルの居場所を奪いに行きやがった。証人喚問のために召喚されたデーテルも無傷じゃ済まさないってか。恐ろしい奴。
「ふー、ふーっ………ま、まぁいい。この程度、貴様の得意分野だものな。想定内だ」
「じゃあ艦内で、デーテル元艦長殿が女子更衣室における自慰行為についても説明した方がいいですかね?」
「そ、そんなことはしていない!」
「あれ? 適当にカマかけてみたんだけど、なんですかその反応。怪しいな」
「黙れぇえええええ!!」
えげつねぇ。
ハンガーで実際に見ている私たちならともかく、グラディオスの外にいる人員は声だけしか聞こえないから、きっと数時間後にはデーテルは異常者として扱われるのが目に見えている。
「そこまでだ少尉。貴官の発言は、もう許さない。これよりデーテル・グレイが、エース・ノギ少尉の疑惑を公表する。少尉。貴官は是非を答えたまえ。黙秘は構わないが、あとになって辛くなるのは貴官の方だということを忘れるな」
黒スーツの連中の筆頭が無駄口を遮ると、冷静さを取り戻したデーテルは呼吸を整え、毅然とした態度で口を開いた。
ブクマありがとうございます!
これが最後の、少しだけ笑える展開になるでしょう。デーテルを再登場させてしまった反動で、おもちゃにしたいという作者の欲求が出てしまいました。悪い癖です。
これ以降の展開は、もう笑えるところがなくなります。微調整が難しい………!
明日は………2話以上は書きたいと思います!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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