龍紋を放つB01
曇天を裂くようにシャトルが現れ、ドイツ支部のガリウスF部隊が護衛をするなか、部分解除されたバリアから進入。連合軍本部から遣わされた使者が地上に降り立つ。
ドイツ支部ならびグラディオスは沈黙を保っていた。
シャトルから降り立つ黒スーツの連中を、じっと凝視していた。歓迎をする空気ではない。招かれざる客が来たと、どの視線も物語る。
当然だ。監査───つまるところの犯罪などを取り締まる組織が来てしまったのだから。
理由は思い当たるが納得はできない。
あの代理戦争が発端だ。元はグラディオスとアリスランドの因縁から始まり、気付けばドイツ支部とアメリカ支部を巻き込み、いつしか本部の重鎮であるオルコットとデクスター家の戦争となった。
譲れないものがあった。守りたいものがあった。それゆえに、この時代では禁忌とされていようが、本部の重鎮たちの覇権争いに利用されていると承知した上で戦争に臨んだ。
結果、グラディオスは、ドイツ支部は、デクスター家は勝利した。
それなのに、勝者側を監査対象にするなど筋の通らない話しは納得できない。対象とするなら、両陣営のトップにしろというのが現場の意見だが、権力者ゆえか、それとも地上に住まうしかない虫けらだろうからと侮られているのか、監査は末端にも等しい、あまり利益を受けられなかった地球へと差し向けられたのだ。沈黙という湖の底に、不満が沈殿していくようだ。いつ憤懣が水面に現れるかもしれない。
だが軍規はそれを許さない。規約無くしては集団は動くことができない。一丸になることもできない。規則とはそういうものだ。時として理不尽を強いることもある。勝者敗者をこだわり、暴走した兵を咎めるためにもまた存在するのだ。
黒スーツの連中はまずドイツ支部に入り、2時間ほどして出てくる。グラディオスの展望デッキから眺めていると、疲れ果てた───いや、青褪めた面持ちをするドルテも同行していた。
ドルテが軍規に違反したから連行されるのかと、疑念の言葉が飛び交う。
が、黒スーツの連中はドルテをシャトルには乗せなかった。
ならばどこへ。と視線が集中する。
ドルテを最初に尋問した───というよりは事実確認に近いのかもしれない。2時間という長い時を要したのは、これだけの規模ゆえに事項が多かったからとも考えられる。
すると、黒スーツの連中はやっと動き出す。
「ドルテからなにを聞き出した? ドルテは、なぜあんなにも怯えている?」
クランドはひとり、艦長室で黒スーツの挙動を監視していた。
これから可能性として挙げられるのは、たったひとつ。だが、それにしては同盟を結んだ相手から、なんの連絡もないのが気掛かりであったが、その時腕の端末に、待望の人物からやっと連絡が入る。
デスクのモニターと繋げ、はるか上空よりも上にいる、宇宙に滞在中のコーネリアに応答した。
「お待ちしておりました。少将。監査は現在、ドイツ支部支部長、ドルテの尋問を終え───」
『パイロットを隠せ!!』
「は、は………?」
クランドは敬礼しながら、コーネリアに現況を報告するのだが、開口一番で命令されるとは思ってもおらず、つい呆けた返答をしてしまう。
「お、お言葉ですが………連中の狙いは」
『ビーツではない!』
「なんですって?」
これには驚愕を隠せなかった。
黒スーツの連中が、所属していないにも関わらず、ドイツ支部を好き勝手に練り歩く様を誰もが不愉快気に睨むなか、クランドは有力な仮説を立てた。
なぜ監査がアメリカ支部ではなく、ドイツ支部に降り立ったのか。
思い当たる理由はビーツしかなかった。
先の戦争でアリスランドを接収し、沈没しないよう修理を施した。理由はもちろんそれだけではなく、あれだけの巨大な艦で、それも連合軍の最新鋭艦であるからには、こんなところで失うには将来的な損失が大きかったこともある。
それにいずれは近海ではなく、ドイツ支部が改修するなりしなければならない。あの海域はアンノウンの出現頻度が低いといえど、いつまでも海上に浮かべたままではいられない。
明後日には修理されたシャトルが発射され、ドイツ支部に戻ると、コーネリアの残りの部下や、ビーツを収容して宇宙に飛ばす予定であったのだ。
それを知っていたのか、黒スーツの連中はドイツ支部に降り立った。隠居目的かは知らないが業務そっちのけで地球を訪れたオルコットは行方を晦ませたとあっては尋問できない。ならば、オルコットの懐刀であるビーツを確保するしかない。
時間との勝負だったのだ。負けたのはコーネリアで、仕方なしとクランドにビーツを隠すよう命令するかと思いきや───まさかパイロットを隠せと言われるとは予想していなかった。
『やられた………いや、違うな。これは私も予想していなかった。まさか彼がそんな存在だったなど、誰が考え………それも違う。発想がおかしいのだ。そして、裏付けされる情報もなにかおかしい。いや、なにもかもがおかしい!』
「落ち着いてくださいコーネリア少将。いったい、なにがあったのです?」
『ハァ、ハァ………すまん。取り乱した。いいか、この通信は傍受されているかもしれん。手短にいく。まずは貴官が自ら表に立つのだ。そして守り通せ。デクスター家の情報網をもってしても信じ難い内容で、私であっても未だ半信半疑なのだ。だが、その暴論を振り翳し、正当性を主張するのが狙いだとすれば………くっ。今すぐ私が、そちらに降下して論破してやりたいところだ!』
「具体は知れませんが………彼らの狙いは、グラディオスなのですね?」
『そうだ。いいかクランド艦長。なにがあっても平然とせよ。平常心を失ったその時に負けると思え。奴らの狙いは───』
「まずい! 監査がグラディオスに乗り込んだ!」
『ならば今すぐに向かって阻止せよ! 奴らの狙いはたったひとりだ。その者を拘束するためだけにここに来た!』
「くっ………!」
クランドは返答する時間も惜しく、椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、艦長室から飛び出る。
守れ。とは言われたが、どう守ればいいのか、まったくわからない状態のままで。
監査がグラディオスに乗り込んだと、腕の端末から連絡が回ってきた。
腕の端末は連合軍から貸与されているものだ。どのようなメッセージであっても傍受されているだろう。ゆえに、学徒兵であっても迂闊なメッセージのやり取りは、これ以降はなかった。もうそれどころではないからだ。
私はハンガーに待機していた。各セクションのクルーは、全員待機するよう命令が出されている。
隣を見る。カイドウは無言かつ無表情で腕を組み、通路側のハッチを睨んでいた。カイドウの弟子らも後ろで同じポージングをしながら監査を迎え撃とうとしている。
今、ハンガーにいるのは整備科とパイロット科だ。大人たちは子供たちを監査から守るべく、自ら壁となって立ち塞がる。
とはいえ、
「なんでグラディオスなんかに来るのかは知りませんけど、用はあるのはクランド艦長とかでしょ。整備科なんかになにを聞きに来たところで得られるものなんて無いだろうし。どうせここには来ませんよ。おやっさん」
確かに、弟子のひとりである青年が言うとおり、整備科を尋問したところで彼らが知りたい情報を持っているとも思えない。
誰もが「そのとおりだな」と苦笑して首肯する。だがカイドウはそうではなかった。
「………いや、そうでもないみたいだぜ」
「………マジかよ」
オープン状態のハッチを潜ってやってきた監査。黒スーツの連中は、ドルテを引き連れていた。
それから大声で叫ぶ。
「全員動くな! 監査局である! これより連合軍を欺きし犯罪者の名を呼ぶ。その者は抵抗せず、大人しく前に出るように! 抵抗、隠蔽すれば射殺の許可も出ている! 無駄なことはするなよ!」
筆頭にいたサングラスの男が叫ぶと、ハンガーがざわつく。
だが───その犯罪者とやらの名が挙がった時、騒然の具合は今の比ではなかった。
「エース・ノギ少尉! 隠れても無駄だ! 大人しく前に出ろ!」
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最終話を目前としながら、急展開。残り3話なのに。
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