龍紋を放つA07
コーネリアとのミーティングが終わり、艦長室を出る。
今後の指針によっては、早期に宇宙に上がるかもしれない。
第23話の終盤で龍紋を放ってから、数ヶ月後にグラディオスは最終決戦へと臨むのだ。地上で準備を整え、宇宙でも補給を受け、そのポイントに向かうことになる。
コーネリアの艦隊預かりになれば、デクスター家の私怨を受けることができるだろう。迫る戦いに備えることは可能だ。
「あとはスパン調整をするなりして………うん? なにやってんだ? お前ら」
自分のなかで考えをまとめる。早期出立はあくまで可能性で、今後の会議の議題として挙げられ、全員の理解や、その場の状況次第でドイツを発つことになるだろう。
各セクションのリーダーから、全クルーにそれが伝わり、グラディオスは不安定ながらも新たな戦いに挑むことになる。
それが人間なんて御免被る。やれやれと心のなかで首を横に振っていると、その進路の先、壁に背中を預けていた少年少女を発見する。
俺の最推しキャラにして、大好物たちである、ソータとアイリ。それからアークもいた。
声をかけると、アークが見たこともないくらい、あどけない表情をして俺に駆け寄り、そして腕を掴んだ。
「あ、あの」
「うん? どうしたアーク」
「その、え、エー………センパイ」
「お?」
「ソータや、交際してるアイリから、あなたの呼び方について聞いた。僕はアスクノーツっていう学園の生徒じゃないし、あなたの後輩じゃない。でも………みんなに合わせてみたいって思った。………ダメ、だろうか?」
「いいや? いいんじゃないか? そうだな………うん。だってアークは今日、グラディオスに乗ったんだもんな。じゃあここでは俺の後輩だ。これからはみんなと同じ呼び方でいいぞ」
「う、うん! ありがとう。エー先輩!」
可愛いのぅ可愛いのぅ。
なにこいつ。釣り目キャラだったのが、ソータよりも大きな目をしちゃいやがってさ。
右腕に腕を絡ませたから、左手で撫でると飼い犬みたく喜んでやがるし。え、なにこの可愛いの。キスしたろか? してええんか? すんぞコラ。
「ソータ。アークにグラディオスを案内してたのか?」
「うん。まぁ、あの3人の監視が必須条件なんだけどね」
ソータの視線の先にいたのが、ハーモンとコウとユリン。それにしてもまぁ、ユリンったらおっかない目をする。
アークを懐柔した瞬間をハーモンとコウは目的した。感動的な兄弟愛と、俺もまたアークの兄貴になるって宣言をしたことで、アークの凝り固まった心を解放してやったので、こんな性格になった理由を知っている。まだ不信感のある瞳をしているが、俺への接近と接触を許していた。が、時折「エー先輩に撫でられてるな」とか「羨ましい野郎だぜ」とか、恨めし気な意見を発していた。そんなに嫉妬するなら、撫でられに来ればいいのにな。来ないならあとで俺から撫でに行ってやろう。
「アーク。お前のことをコーネリア少将に話したよ。複雑そうな面持ちをしていたけど、なんとか説得できた。今日からお前は、グラディオス所属だ。クランド艦長なんて仰天してたな。警戒心が無さすぎだとか怒られたけど、こっちも説得できた。堂々としろっていうのは変だし、過去は変えられない。お前は今、かつて戦った艦のなかにいる。トラブルも起きるかもしれない。………その時、責任を取れって言われててな。だから、できるだけ喧嘩はしないって約束してくれ。できるか?」
「うん。僕、エー先輩のためなら喧嘩しないよ。エー先輩が処罰されるくらいなら、無抵抗で殴られる。………僕がしたことを、忘れたわけじゃないし」
「無抵抗は………うーん。俺の心が痛いから、防御くらいはしような? 嫌がらせがあったら俺に言え。ソータやアイリでもいい。うん? お前、アイリと仲良くなったのか?」
「うん。アイリは僕に良くしてくれたよ。冷たい視線を向けて来ないし。それにね、いつか僕、お姉さんができるかもしれないし!」
「ちょ、ちょっとアーク!?」
「話しが飛躍しすぎだって………」
おっとぉ?
なんか面白いもんを見れたぞぉ?
アークはある意味で純粋だ。これまで連合軍の施設で育てられ、一応常識というものはあるけど、対人においての常識や、接し方や考慮というものが、まるで無い。
でもこの場合においては全部許す!
そりゃ、ソータとアイリが結婚すりゃ、アイリはアークの義理の姉だもんな。お姉さんだもんな。
真っ赤になったアイリ可愛い。俯きながら照れるソータも可愛い。
なにここ。俺の大好物しかないんだけど。
「ねえエー先輩。僕のタキオン、いつ搬入されるのかな」
俺の腕にしがみ付いたまま、アークは無邪気な顔で見上げて問う。
「そう焦るなって。所属が移ったって言っても、あくまで口約束みたいなもんだしな。連合軍の本部………いや、本部は今ごった返しているから、この場合はコーネリア少将に異動届けを受領してもらって、それから数週間は色々な条件を突きつけられたりして、それをクリアして初めてグラディオス所属のパイロットだって認められるんだと思う。それまで我慢してくれ。正式なパイロットとして、すぐ認められるとも思えない。でも、真摯に行動すれば、いずれきっとみんなわかってくれるさ。自分にしかできないことを探し続けろ。それはソータのためだけじゃない。グラディオス全体についてでもあるんだ。厳しい訓練を受けてきたアークなら、きっと理解できると思う」
「みんなのため………はは。こういうの、初めてだ。僕はずっと、勝つために生きてきたようなものだから。常にひとりで行動して、アリスランドでも親しい友人なんていなくて………だからかな。なにもかも初体験だから新鮮なんだ。ソータだけじゃない。エー先輩やアイリが近くにいる。誰かが至近距離にいるのにリラックスして深呼吸するなんて、昨日までの僕が見たら驚いて唖然とするかな。でも、うん。嫌じゃない。これが嬉しいって感情なんだね。胸とお腹の奥が、なんだか疼くっていうか、弾むっていうか」
「そうだ。その高揚感を忘れるな。ビーツのド阿呆が教えられなかったこと、全部教えてやるからな。覚悟しろよぉ? 全部知った時、またお前泣いちゃうかもな」
「いいよ。それで泣けるなら、それは嬉しいからとか楽しいからとかだろうし………イ゛ッ!?」
「ん? どうした………あー」
これまでアークは外出する時もパイロットスーツと、同系色のフルフェイスヘルメットを被り表情を隠し、ビーツの命令のまま機械然として動いていたから、俺の教えは余計なくらいに甘美な響きがあったのだろう。
それこそ、食環境でいえば、甘味などなかった原始の時代に、原住民たちに甘味料たっぷり使った菓子を持ち込んで振る舞った時のような。これまで味わったことのない蕩けるような甘さに衝撃を受け、驚愕するあまり言葉を失う者たちが続出するように。
まさにアークは、年相応の経験が皆無だったゆえ、楽しいや嬉しいなどといった感情が刺激を受け再起動し、人間らしさを取り戻していくだろう。それはきっと、いいことなのだ。ソータとアイリも嬉しそうにしている。間違いない。
すると、俺の腕を掴んでいたアークが、急に奇声を上げて尻尾を踏まれた猫のように飛びあがる。
なにがあったのか原因を探る。
理由は単純にして明快。
通路の向こうから、ライラを引き連れたシーナが現れ、ジーッと俺たちを凝視していたからだ。
ブクマ、リアクションありがとうございます!
明日は日曜日なのですが、終盤ということもあり微調整が終わっていないため、このままのペースで進ませていただきます。来週にはドカンと更新したく思います。
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!




