龍紋を放つA06
『───以上が、本部でもやっと沈静に向けてことが進んでいたというのに、オルコットが引っ掻き回した置き土産事件の真相だ』
数時間後。正午を過ぎた辺り。グラディオスに戻った俺たちは、新顔のパイロットのオリエンテーションに向けてシドウと話し合っていたところ、クランドに俺ひとりだけ呼び出され、出頭していきなり会議となった。
相手はコーネリア・デクスターだ。
長年対立した過激派の首魁、オルコットが失脚して、オルコット家が台頭すると、一挙に勢力を拡大化したという。
ハーモンの実父であり、デクスター家の当主を筆頭に、将軍の長男がサポートするなりして、すでに連合軍の本部のほぼ大半に根回しが完了したとか。
その兄から流れてくる情報を、コーネリアは宇宙から俺たちに提供してくれたのだ。
「それにしても妙ですな。オルコット氏が、まさか無断で本部を脱走していたとは」
「それもIDも隠さずに。足跡がつくのに消そうともせず失脚って、なに考えてんだか」
首を捻るクランドと俺。
原作では名前だけしか出なかったので、どういう人物像なのかは知らない。いや正確に言えば、データベースから経歴や顔を調べることができたので、外見なら知っていた。着飾っても薄汚れたデブ。という印象が強い。笑うとニチャァって音がしそう。
『あの老害も、卑しかろうと連合軍の幹部がひとり。先の代理戦争に敗北し、失脚した末に敵前逃亡。まさか、グラディオスやアリスランドに接触し、ビーツを回収するのではと思っていたのだが、まさか………地球で隠居するためだったとはな。傑作だ。お陰で兄上たちはオルコットの豚の捜索をする羽目になり、かなり骨が折れたというが。まぁ、これで目の上のたん瘤は取れた。あとは思うがまま………と言いたいのだがな』
「なにか?」
『うん。我が艦隊の望遠カメラが捉えた映像によると、アメリカ支部から輸送機が飛び立ったという。イーグル師団が護衛をしている。ただでさえも半減してしまった軍備を裂く必要があるとすれば、この輸送機に乗っている者が誰なのか、察しがつく』
「オルコット氏ですか」
『ああ。だが不可解なことに、その輸送機が向かう先は、お前たちのいるドイツではない。その進路予想は、南極と出た』
「………南極ですって?」
クランドは未だ具体の知れない面持ちをしていたが、ここでピンときたのは俺だけだった。表情に出さないよう努力する。
この「天破のグラディオス」において、南極というポイントは本編に関係しない。が、無関係とは言えない。
外伝だ。スピンオフ作品は、模型雑誌のなかで挿絵と小説で展開されていた。タイトルは「天破のグラディオス アスティオールの奇跡」だったかな。
確か、本編終盤が時間軸で、激闘を繰り広げ疲弊した主人公勢に代わり、新たな勢力が宇宙へ旅立つ───という展開だったとは思う。南極での攻防を繰り広げ、新たな時代に希望を託して奮闘する少年少女たちが題材だったかな。かなりヒロイックで本編顔負けなデスゲームと死に様が繰り広げられるから、またしてもファンたちの心を深々と抉るようなストーリーだったのは覚えてる。
思えば、もう第23話だ。この話しの終盤、龍紋というアンノウンだけがわかるゲートを偶然にも撃ってしまい、宣戦布告してしまうこととなる。そしてグラディオスは宇宙へと飛び立つのだ。
ストーリー的にも終盤だし「アスティオールの奇跡」が始まってもおかしくはないが、そこにオルコットが関わるのは予想外だ。序盤からそんな展開にはならなかったはず。地球出身のぼんくら野郎ことアジア系の男が主人公で、基地の警備をたったひとりで請け負っていた。南極だから気温なんてマイナスがデフォルトで、ただでさえも熱を奪ってくる地域にアンノウンが好き好んで活動することはないから可能にするのだ。
周囲には難民や、宇宙から降下した技術者がいて、全員協力してアンノウンに対抗する術を講じていた。けれどあまりにも若い世代だったから衝突も多いし、第23話でアンノウンに宣戦布告してしまったことで南極も激戦区となり、次々と仲間が死んでいくのだ。
が、アリスランドは沈黙している。戦いが発生することはない。龍紋が放たれることはない。てか龍紋ってなんだよ。謎だよ。アンノウンゲートとかにしろよ。
「目的は?」
『なにもかもが不明だ。行動目的もわからん。今さら南極などに、なにを求めに行くのか。南極などとうの昔に放棄したと聞く。地球でアンノウンの出現する頻度が低いエリアであることは認めるが、人類もまた生存するには厳しい場所でもあるしな。………ともかく、オルコットの野心が潰えたかもわからぬし、警戒を厳にすることを勧めよう。ビーツが目的というわけではなさそうだが、あの老害がなにかを狙っていることには違いないのだからな』
「ハッ」
『ああ、そうだ。シャトルなのだがな………ドルテめ、滅多に使う機会のないものだからと、メンテナンス不足で、宇宙に着いた瞬間に故障してな。こちらで修理しているところだ。私の部下とビーツの移送が延期してしまうが、あの老害がビーツの回収を目的としていなかったのが不幸中の幸いだ』
コーネリアは凶悪な笑みを浮かべた。
なるほど。だから昨日、グラディオスを訪れたドルテが酷くやつれていたわけだ。さては数時間にも及ぶ説教を受けたな。自業自得としか言えないけど。
『最後に………諸君らグラディオスに関する話しだが………なにやらきな臭くなり始めたぞ』
「きな臭い?」
『ああ。我がデクスター派が台頭したことで、ある程度の保護はできている。しかし、どうしても擁護できないところもある。わかるな?』
「………はい」
コーネリアの質問に、クランドは渋面しながら首肯した。
例えば───俺は寝ていたのだが、アメリカ支部でライラの代わりに拷問を受け、救出されてから数日後のこと。ワプスがクランドに面会し、今すぐ逃げろと言った。本部からグラディオスに監査が入るためだ。それもかなり理不尽な内容で、オルコットの差し金だという。
ゆえにグラディオスは緊急離陸したのだが、それは本部の意向に背く行為だ。離反行為として記録に残っている。
いくら代理戦争で勝利したからといえど、コーネリアたちデクスター家の擁護が届くのは、戦争行為の正当性までで、それ以前の軍規に反する行為が容認されるケースは稀だという。
オルコット派の残党が、事実上のデクスター家の懐刀となったグラディオスを無力化するために、軍法で突き崩そうとしているわけだ。
こんなの本編にない流れだが………もしかすると、いやかなりの確率で、俺の度重なる原作破壊行為のツケが回ってきたのかもしれない。
「グラディオスは………存続できるのでしょうか?」
『わからん。しかし、デクスター家はただ黙ってお前たちが拘束されるのを見ているだけではない。それを耳にした父上が、すでに法務部に掛け合っているし、必要なら脅しもしよう。違反歴の撤廃ができれば、あるいはな。確率的にはそう低くはない。オルコットが退いた今、障壁は薄い。なんにせよ時間の問題だ。………本部から、再び監査をするためのシャトルが出て、地球に向かっているとも聞く。私もできる限りのことをしよう。クランド艦長。必要なら、グラディオスをドイツ支部から出すといい。宇宙に昇り、我が艦体と合流することも視野に入れるのだ。なに、心配するな。私は監査など慣れている。守ってやることもできるだろう』
それはきっと………ハーモンがいるからだろうな。俺たちは、そのついでって感じ。
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