龍紋を放つA05
「どう、違うって?」
「ビーツはいつも、アークになんて言ってた?」
ソータはアークを離し、手を引いてベッドに誘導した。シーナがここにいたら「よっしゃ! 押し倒せ! で、ヤれ! うひょぉおお!」なんて叫んで狂喜するかもしれない。俺たちはドン引きするだろう。
でも実際にはそんなことはなく、俺とソータで挟む形で、とはいえ俺とは30センチ以上の距離がある形で座っただけだ。
「………この世は力がすべて。古代の戦乱の時代に等しいこの時において、圧倒的な暴力を前にして名誉や栄光や金銭で身を守れるはずがない。力だ。力を付けろ。意志に伴う実力をつけるよう渇望して生きろ。さもなくばお前の要求など、なにひとつ通らない。………たまに会ったり、呼び出された時にはこんな感じなことを言われたかな」
「あの馬鹿………」
俺は呆れるあまり、天井を見上げて手で目元を覆った。
確かに、言うことは間違ってはいない。理にかなっている。真理でもあるだろう。
もし仮に、テンプスが地上に放たれたとする。目の前にはアンノウンのAタイプがいて、今にも殺されそうになった時。「俺は偉いんだぞ。元アリスランド艦長で、元中国支部の支部長をしていたんだ」と過去の名誉と栄光を振り翳しても「なにが不満だ? 金か? 好きなだけ持っていけ」と財布の中身をばらまいたとしても、なにも意味もない。アンノウンを止めるにはそれ相応の力、ガリウスが要る。そういう例えだ。
けれど、アニメ本編ではどうしてもアークはソータに負けてしまうとはいえ、アリスランドのエースパイロットなのだから、もうちょっと愛のある可愛がり方をするべきだったのにな。多少は妥協するべきなのだ。
そうすればもう少し、結果はマシだったかもしれない。
効率ばかり求めるからあいつはダメなんだ。結論は純然な勝敗の結果が物語った。
「そっか。やっぱ許せねえなあいつ。でもエー先輩は違う。いつも辛い時に来てくれて、励ましてくれるんだ。俺がプレッシャーに負けそうになった時、なんて言ったと思う? 逃げちまえ、だってさ。周囲からエースパイロットとして期待されて、俺は辛くても戦うしかなくて、それ以外に選択肢を持たなかったのに、エー先輩は、戦うのが嫌なら逃がしてやる。あとのことは任せておけって言ってくれた。なんて無茶を言うひとだって思った。でも………心が、軽くなった。このひとは、パイロットだけじゃなくて、俺そのものを見てくれてるって………擦れ違ってた幼馴染と交際できたのもエー先輩のお陰だ。その上でもう戦わなくていい。傷付かなくていい。って言ってくれて、本当に嬉しかったんだ」
「………いいな」
「え?」
「あっ………ち、ちがっ! 違う! 別に僕は、こんな奴がいいなんて言ってない!」
おっとぉ? 聞きましたかみなさん?
ちょっとアークくんの素の性格が、出て来てません?
これでってあれですかね? デレたんですかね?
「アーク。そのひとは俺の恩人で───」
「いいよソータ。無理強いしなくてもいい。この前まで、お前とアークは殺し合わなければならなかったんだ。環境や上司の違いで成長の差がついたり、周囲への印象だって変わってくる。ソータだけが特別だっただけだ。グラディオスとアリスランドの所属ってだけで、偏見や敵対心だって芽生えるさ。俺はそれを否定しない。無理に変わろうとしなくていいぞ、アーク。そんなの辛いだけだ」
「でも!」
ソータはたまらず、俺への印象を改善するべく努力するのだが、それは酷な話だ。
「お前の言動は勝者ゆえの特権だ。でもな、もし俺たちが負けて、ここがアメリカ支部の艦隊で、拘束されたお前にアークがビーツの良さを力説したとして………お前、受け入れられるか?」
「え、なにその例え。気持ち悪い。死んでも嫌だ!」
うへぇ。ザマァねぇなビーツの奴。ネームドキャラのなかでも主人公にこうも毛嫌いされて拒否反応が出る存在なんて、そういないのにな。
するとアークの視線が、また俺に突き刺さる。けれども、先程のような毛嫌いするものではなく、どちらかと言えば驚愕に近い。
「………本当にあなたは、ビーツさんとは、違うんだな。ビーツさんは絶対にそんなこと言わない。もしあなたの言うように、仮にソータが今の僕のように拘束されて、僕がソータを必死に説得しようとすると………なにチンタラやってるんだって、ソータを洗脳するかもしれない。それも心を折る勢いで」
「ああ。そういう技術においては、まさに一流だからな、あいつ。それもかなり手酷い手段を使って、ソータの心を再起不能になるまで折りまくって、自我を奪い機械化させるかもしれない。でも俺はそんなの絶対にやらない。アークがソータと楽しそうに会話してるだけでも、俺は嬉しいよ」
「………」
アークは黙って俺を凝視する。今度はソータは口を出さない。
アークは自分のなかで俺を裁量しているのか。なら、好きなだけさせてやればいい。
俺の発言に嘘偽りはない。誓ってもいい。
アークは俺のことをお前呼ばわりから、あなたに変えてくれた。これはかなりの変化だ。警戒が薄れている影響か、素の顔に戻ると細められた双眸が大きくなり、表情がソータに近くなる。
「アーク。お前にとって、ビーツが今もどんな影響を及ぼしているのかはわからない。でも、お前はこんなところで終わっていい奴なんかじゃない。ソータと和解できたからめでたし? 冗談じゃない。救ってやるって、俺言ったよな? ソータのためにもお前をここから連れ出してやりたい。どうだ? お前さえ良ければなんだけど、グラディオスに来ないか?」
「エー先輩!』
まぁソータったら嬉しそうにしちゃって。
アークは即答しない。本当はそうしたいのだろう。目がそう言っている。即答しないのはいいことだ。自分のなかで考えをまとめてから発言する方が、まだ結果は良くなるだろう。
それから意を決して、また俺を見る。
「………あなたに、ひとつだけ聞きたい」
「いくつでもいいよ」
「いや、このひとつだけでいい。あなたは僕をグラディオスに迎えるのは………僕を客人として招くのではなく、パイロットとしてだろう? あなたは綺麗事だけ並べて、僕の優位性を欲する本心を隠しているのではないか? グラディオスの戦備増強が狙いだと思えて、ならないんだ」
それはアークとしても気になるところだろう。今後のことについてもそうだ。
こうしてグラディオスに勧誘できたまではいい。だがアークも、かつてソータをアリスランドに勧誘した。しかしビーツとの擦れ違いが生じ、提示できる条件がうやむやになってしまっただけでなく、ビーツはソータを殺してアークの願いを破壊しようとしたのだ。
「うーん。まぁ、そこは隠しても仕方ないよな。俺はアークがパイロットとして戦ってくれるなら、それはそれで嬉しいよ。オリジナルガリウスが3機揃うなんて前代未聞だ。グラディオスは揺るがない戦力を得ることになった。それは否定できない事実だ。俺はお前の力も欲しい。まぁなにが言いたいかって言えばだ。仲間が欲しいんだよ。お客様じゃない。戦場で背中を預けられる仲間がひとりでも増えてくれたら嬉しい」
「………仲間」
「そうだ。そりゃあ、最初からみんなに受け入れられるわけがないけどさ。村八分は俺も経験したけど、案外時間が解決することもあるし、実績があれば誰も文句は言えない。なぁ、アーク。俺の仲間になってくれ。ソータだけじゃない。俺たちには、お前が必要なんだ」
「あっ………」
手を伸ばし、アークの手を掴む。拒絶はされなかった。
そのままアークを手繰り寄せ、抱きしめた。
「………確かにあなたはビーツ艦長とは違う。あの女が言っていた。これが、愛なんだね」
「ああ。これからお前の凝り固まった心をほぐして、仲間にしてやるからな。………無理しなくていい」
「っ………無理してない」
さっきまでは手負いの獣みたいな威嚇をしていたのが嘘のようだ。俺の腕のなかにすっぽりと収まったアークは小さく震える。ソータがその背中にそっと手を添えた。
「今までお前、ずっとひとりで戦ってきたんだよな。大したもんだ。誰にでもできることじゃねぇ。でもな、もうその心配はいらない。これからはソータと俺が、お前の味方だ。仲間ってのはそんなもんだ。ビーツはそんなこともわからなかったんだろうよ。シーナが言ってた愛ってのも教えてやる。こうして寄り添うとな、あったかいだろ? それだけじゃない。心の支えにもなる。俺がお前を支えてやる。無理しなくていいんだ。辛かったら辛いって、言っていい。嬉しかったり楽しかったら笑え。それが仲間だ。お前をひとりぼっちになんか、させねぇよ」
「っ………ぅあ」
「よしよし。泣け泣け。これから俺もお前の兄貴になってやるからな。ソータと同じくらい頭撫でてやる。ソータは撫でられるのも大好きだからな」
「仲間………なりたい………ソータと、いたい………頭、撫でてほしい」
きっと、泣けない環境にいたせいで心が歪んでしまったのだろう。ビーツの悪質な教育のせいでもある。
でもやっと、アークの本音を聞くことができた。辛かった過去を必死に忘れようとしたのだろうが、それは人間とは呼べない。
アークはやっぱり良い子だった。俺にしがみついて号泣する。ならいつまでも抱きしめてやる。
ソータを見る。「ありがとう」と言って、ふにゃりと笑った。キスしてやろうかと思うくらい可愛かった。こんな可愛い子が女の子なわけがないって? 悪霊退散。去れド腐れハムスター脳め。
その日、アークを引き受けることが決定した。
泣き続けるアークをソータに任せて部屋を出る。
ハーモンとコウは「エー先輩の決定ならなにも言わない」と言ってくれた。ふたりとも思うこともあるだろうが、なにより俺が生きてたから、アークを許してくれたのだろうな。
原作破壊行為がまたひとつ。アークを早くもグラディオスに引き受けてしまった。
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