龍紋を放つA04
アークは飛び起きて俺に威嚇する。
なんて愛くるしい容姿をしているのだろう。一卵性双生児だもんな。ソータにそっくりでありながら、目元などは少しだけ違う。
ソータは山間を流れる太い清流。なにものにもその流れを変えらない。
アークは谷間を流れる荒い激流。来るものすべてを呑み込んでしまう。
双子の兄弟なのに、性格のみならずスタンスも違う。そこが面白いんだよな。
「なにしに来たんだお前! 消えろよ!」
「へぇ。俺にそんなこと言っていいんだ? 生意気で可愛いねぇお前。ほら、こっちおいで? ナデナデしてやるよ。噛んでもいいぞ? 俺の右手はそんなにうまくないだろうけど。んふっ………どうした。来いよ」
「ひっ………き、気持ち悪い! お前絶対おかしいよ! 異常者だよ! 狂ってる! この前まで敵だった僕を、なんで可愛がろうとするんだよ! やめろ。手を伸ばすな! あのシーナって女みたいな目をして近付くな!」
「失礼だな。あんなトチ狂ったド腐れハムスターと一緒にするんじゃねぇよ。俺は同性愛を否定しないけど、なにも好き好んで目の前で見たいだなんて思ってないんだからな」
「え、そうなの? ごめん………じゃない! なにを謝ってるんだ僕は!」
おっとぉ?
これは面白くなってきましたなぁ。
考察するに、敗戦のショックでビーツの極悪な洗脳から解放され、素の性格が表に現れたような。
俺が真顔で指摘すると、キョトンとしながら謝ってきた。これは良い傾向と言える。
アークは元々、優しい奴だったんだな。
「よいしょっと」
「おい。なに当然のように隣に座るんだよ!」
アークが寝転んでいたベッドに腰かける。アークは拘束され、壁にワイヤーで繋がれていたから遠くへは行けない。どうしてもベッドから離れられず、猫みたく飛びあがった。
なんて可愛いこと。
「仲良くなるには対面した時よりも、隣に並んだ方が印象が良くなるんだってさ。言っただろ? 俺はお前が嫌いじゃないんだって」
「僕はお前のことなんて、大嫌いだ!」
「安心しな。その凝り固まった心をすぐに蕩けさせてやるよ」
「気持ち悪いこと言うな! お前、そうやってソータのことを洗脳したんだろう!?」
「んー。どうだろ。俺、無意識にソータにディープなキスしようとした時あったもんなぁ。あいつ可愛いから。ほっぺも食べようとしたことあったっけ」
「なおのこと気持ち悪い!」
「ま、そう言うなって。そういうのは本人から聞けばいい。ソータ。もういいぞ」
「え」
アークが扉を見る。
俺の合図で入室したソータを見て、泣きそうになった。
生き別れの双子の兄弟で、それも運命のいたずらで殺し合うことになってしまったものな。
アークの気持ちは痛いくらいわかる。今、なにを考えているのかもわかる。
だから俺がやることは、たったひとつだ。
「エー先輩。みんなすごい顔してた」
「あー。まぁ、そうだよな。わかってる」
アークの隣に座るためとはいえ、いらない情報を同行者に聞かせてしまった。なかにはソータにとっても聞かれたくないものもあったのだろう。かなり恥ずかしそうにしていた。兄弟揃って可愛いな、こいつら。抱きしめてもいいかな?
「ソータ………僕は………」
「アーク。俺は、お前を許せたわけじゃない。お前は俺から、エー先輩を奪おうとした。ビーツの言いなりになった。それは今となっては取り返しのつかない事実だから」
「………うん。そうだね」
アークと対面したソータは、眉根を寄せて、淡々と胸中を告げる。アークは粛清を受け入れんと、俯いて双子の兄の言葉を受け入れる。
でも、ソータのすべては決してそれだけではないことを、俺は知っていた。
「実際、エー先輩がいないグラディオスは本当に不安定だった。なにかが壊れてしまったんだ。俺たちが俺たちらしくなるなにかをエー先輩は持っていて、それを失ったグラディオスはアリスランドに復讐することだけしか考えられなくなって、俺もお前やビーツに殺意を抱いた」
「………うん」
「でも、それは実際の感情の半分くらいだったよ。全部じゃない」
「え?」
驚いて顔を上げるアーク。もうソータは険しい表情をしていなかった。
「俺がお前を許すつもりになったのは、エー先輩が帰って来てくれたからかもしれない。そうでなきゃ、俺はお前を一生許さなかった。でも、そうならなくてよかったって、本当に思ってるんだ。………アーク。少しずつだけど、思い出してきたんだ。家族のこと。だから俺、やっとお前のことを俺の弟なんだって自覚できてさ。………お前が寂しかったように、俺も寂しかったよ。施設ではいつもひとりだった。学生になってアイリと会って、少しずつ変わってきたけど、やっぱり家族がいないって寂しさはどこかにあった。………でも、もう違う。アークがいる。それも双子の弟だ。家族なんだよな………そうだろ?」
儚げで、泣きそうになっているソータ。
それを見たアークは立ちあがろうとするが、拘束されていたのでうまくいかない。
それを見たソータは自ら歩み寄り、アークを抱擁するのだった。
原作どおりの展開だね。この抱擁のシーンに涙したファンは少なくないだろう。腐女子も歓喜したんじゃないかな。双子の兄弟愛に目覚めたとか。
けど逆に不可解だ。
あの生粋の腐女子たるシーナが、同性愛カップリングが叶わぬと知って、あろうことか交際相手かつ最推しとかいうコウの尻を鉄の棒で掘ろうとしたあいつが、ソータとアークの感動シーンを見逃すなんて。
俺だって感極まって、ソータごとアークを抱きしめようと思ったくらいだ。でもそれをやるとせっかくの感動シーンがブチ壊れるからやらないけど。
聞けばシーナは、アークが初めてヘルメットを脱いでソータの弟だと宣言した日、単独で立ち向かったとか。誰もが驚愕し、警戒するなかで腐女子モード全開で突撃したシーナに、アークは言い負かされたとか。頭おかしいと思うけど、それがあいつの推し活なら口出しできないし、あの時はシーナに一任していたこともあるし。俺いなかったし。
それくらいアークのことを推しているシーナが自ら欠席すると宣言するとは、どういう魂胆なのだろうか。
「やっと………やっと、ソータに触れた」
「俺も嬉しいよ。アーク」
「僕だって嬉しい。余計なのが凝視して来なければだけど」
おっと………視線が鬱陶しかったかな? アークに睨まれてしまった。
「そう言うなって。俺、エー先輩に色々助けてもらったんだ。エー先輩がいなければ、俺はここにいないかもしれないし、精神的にまともじゃなかったかもしれない」
「………例えば?」
「俺、ガリウスに乗るために、ましてや戦争をするためにアスクノーツ学園のパイロット科に入学したわけじゃない。今ならまだしも、当時は軍人としての志なんてなくてさ。周囲とのすれ違いやわだかまりがあったんだ。何度も挫けそうになった。周囲に目を向けていられる余裕なんてなかった。でも、エー先輩がケアしてくれたから、俺はこうして、まともにここにいる」
「………確かに、それはわかるけど。この前のソータとは、顔付きや雰囲気も違うし」
「だろ?」
この前と言うと、シーナが活躍した時のことか。アークが原作どおりにグラディオスに現れ、全員の敵意を受けながらも降伏を促した時のことだ。
原作ではソータはハーモンの死による怒りよりも、困惑と恐怖が勝り、アークにまともな対応ができなかったが、シーナから聞くと今回は俺を失った怒りが全開となり、復讐のための鬼神になろうとしていたとか。
そりゃあ、今の落ち着いたソータと比較すれば、かなり違うのだろうけど。
「ソータ。そりゃ言い過ぎだ」
「そんなことない。俺、軍人になって、エースパイロットって呼ばれて期待されるような奴じゃないんだよ。そんな覚悟なんてなかったのにさ。それでも前向きになれたのは、エー先輩がいつも俺を構い倒してくれたからだ。………アーク。エー先輩はビーツとは違うよ。信頼できるひとなんだ」
けれどもアークはまだ受け入れられないのか、俺を見ても睨みつける視線をやめとうとはしなかった。
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