龍紋を放つA03
朝食後、予定していたとおりに、俺たちは面会に向かうため、輸送ヘリに乗った。
前回ボートだったのは、単にグラディオスが同じ海域にいたゆえだ。ドイツ支部にいるグラディオスと、交戦した海域にいる艦ではかなりの距離がある。そこでドルテが輸送ヘリを貸してくれた。ヘリの操縦は砲雷科の人間が担当した。
いくら空を飛ぶとはいえ、それなりに時間がかかる。俺はソータとコウに挟まれ、正面に座るハーモンと、それから意外な人物が親し気に会話しているのを呆然と眺めていた。
『なあ、あれ。ハーモン。イギリスだぞ』
『そういや、前回ここを通った時はそれどころじゃなかったし、ゆっくり見られなかったな。………やっぱ無人か』
『いずれ、この地もアンノウンの支配から取り戻すさ。あー、その時はだな』
『見に来ようぜ』
『っ、ぁ、ああ』
ヘリコプターのなかではまともに会話できないから、機内ではヘッドセットを着用する必要があった。
そのスピーカーから流れる、男女の仲睦まじく、そしてどこか甘酸っぱく、片方は発展を期待していて、そうならないことにもどかしさを覚える声が聞こえて、俺は目を見開きっ放しだった。
なんていったって不思議な組み合わせだ。
全編見終えた俺からすれば、それは本編で決して叶うことのないペアだったのだから。
「え、えっと………な、仲良いんだな。お前ら」
『そうっすかね? 仲間として、普通なんじゃないっすか?』
『なかっ………そ、そうだぞ副隊長。これが………普通さ』
質問されるほどでもない。みたいな顔をするハーモンが、相手についての印象を正直に述べてしまったせいで、ハーモンの隣に座っていたハナが、少々傷付いた面持ちをする。
なぜハナがここにいるのかといえば、俺とソータの護衛としてハーモンとコウに声をかけたところ、偶然通りかかったハナが自分も同行すると進言したのだ。俺としては断る理由もなかったし、ヘリに搭乗できる人員が1名増えたところで影響もなかったので承諾したのだが、まさか俺たちの護衛任務をダシに使うとは思ってもいなかった。
予想外中の予想外。こんなことになるとは思ってもいなかった。
まさか、ハナがハーモンに猛烈なアタックを仕掛けているなんて。
原作では会話する機会もなかったし、エモい演出もなかったので予想の範疇にいた。
でも、これはこれで………いい!
ハナはシーナと対照的なガチ百合勢として、ヒナを狙っていたのだが、俺との関係を糾弾した際にヒナがきつめに絞めたこともあり、最近は大人しくして無力化したと思っていたのだが、まさかこうも変化するとは。
これを嬉しい誤算と言わずしてなんと言う? 待ってろよハナ。あとでヒナたちを連れて尋問してやるからな。お前の姿勢次第では、ハーモンへの再調教や後押しなどのアフターフォローは万全にしておいてやるぜ。
なんて新たな推しカプを発見し、ひとりだけ「ぅへへ」と笑っていたら、ソータとコウに引かれた。でも構わない。引きたきゃ好きなだけ引けばいい。俺の推し活は誰にも止められないのだ。
そんな甘酸っぱいふたりを眺めていると、すぐに移動が完了してしまい、艦のひとつに到着する。
甲板に降り立つと、コーネリアの部下たちが俺たちを待ってくれていた。ビーツに面会する際に案内してくれた連中だ。
「長距離の移動、お疲れ様です」
「ありがとうございます。今回もよろしくお願いします」
今回は俺だけでなく、アーレスなどの大人もいるから、コーネリアの部下たちも口調を改めた。ただ、アーレスたちはあくまで護衛である。俺はソータとともに前に出て、代表として敬礼した。ソータはまだ敬礼に慣れていないのか、手首が折れてしまっている。それはそれで可愛いが。あとで直してやろう。
「あれから、なにか進展はありましたか?」
「いや、目星いものはなにも。………それより、きみはとても気の毒だな。こんなところでも恨みを買うのか?」
「身に覚えがないんですけどね」
「わかっている。コーネリア様もそう仰られていた。ならば、我々は証拠も無しに理不尽な扱いはしない」
敬礼を終えた途端にフランクな口調に戻る案内役。
俺とともに苦笑を浮かべ、今の環境に同情してくれた。
というのも、ドイツ支部で広まっている根拠のない俺への悪評は、この艦にも蔓延していたらしく、コーネリアの部下以外、つまりドイツ支部の軍人たちは、俺に好意的な視線を向けてはくれないのだ。
等しく敵対視するような視線を突き付けてくるが、手出しはしない。なかには真偽を訝しむ目もあったので、やはり噂は噂でしかないのだろう。けれども、どうしても暴走気味な連中もいて、俺に危害を加えようとする者もちらほらといるのだが、そこはハーモン、コウ、ハナがカットする。
3人には手を出されても制圧することだけを許しているから、殴りかかるようなことはしない。防衛だけだ。反撃のための人員はアーレスたち砲雷科の特殊部隊たちのみである。もしことが起きてしまった場合、命のやり取りをするのは大人だけでいいと、アーレスが配慮してくれたのだ。
「ところで、今回はビーツ中佐ではなく、パイロットの方に面会だったか? ビーツ中佐に会わなくてもいいのか?」
「反抗的だと仰るなら、リクエストにお応えしますよ? どうなんです?」
「反抗的………とは言えないな。こちらの質問には答えるようにはなったから」
「それは残念だ。弱い者いじめの果てに、泣かせてやるチャンスだと思ったのに」
こんな発言をしているから周囲から勘違いされるのだと指摘されたら、反論の余地もない。
でもビーツに関係することで、俺は絶対に負けられないし、負けたくないのだ。どこに目や耳があるかわからないし、穏健で弱気な発言をしたと知られれば、あいつは絶対にそこに付け入るだろう。だから強気でいく。
通路にも数人のドイツ支部の人間がいて、コーネリアの部下から引き継ぎ作業を行っていた。睨まれるも無視して進む。
「アークの部屋にも監視が?」
「いや、彼の聴取はすでに済んでいる。それに………いくら我々とて、家族の再会と会談を盗み聞きするような趣味を持っているわけではない」
アークは無罪放免………とはいかないが、ビーツより減刑されるだろう。一生消えない烙印が押されるかもしれないが、処刑されはしない。それはなによりだ。是非、この機会に心を開いてほしい。
案内されたのはビーツと同じ区画ではあるが、かなり距離があった。タキオンは無いし、当然非武装で拘束もされているなら危険視はしていないのだろう。部屋の隣には監視カメラなどをセッティングしていた形跡があったが、モニターなどはすっかり撤去されている。アークは裁きの時を待つ罪人のように、その部屋に拘留されていた。
「では、ここで………いや待てエース少尉。お前も入るのか?」
「ええ。ソータの頼みですから」
「そうなのか? てっきり家族水入らずの時間を過ごすのかと思ったのだが………」
「俺個人もアークと話してみたいと思ってたので。大丈夫ですよ。暴れたりなんかしません。今日はあの沸点が低い凶悪なド腐れハムスターは連れていませんから」
笑いながらドアノブに触れる。ハーモンたちは隣の部屋に待機していた。いつでも突入できるように。アークは拘束されているが、ハーモンとコウがふたりがかりで戦っても対等に渡り合う。アーレスが本気で戦った結果、完封したと言っていたし。逃げられない部屋で俺たちを人質に取っても、結果は知れている。
「よう、アーク。元気してたかー?」
「死ね!!」
ドアを開けてソータよりも先に入ると、ベッドの上でぐったりとしていたアークが火が付いたように激昂する。感心感心。まだそんな元気があるなら、まともに会話できそうだ。
リアクションありがとうございます!
1日1回更新にして、かなり余裕がでてきたわけでありますが、PVの推移を見ていると、やはり19時台に伸びがあるわけで。1日2回更新していた時のように、読者さんが読みに来てくれるのに更新できない自分の思考能力が恨めしく思うのですが………何卒ご理解ください。もう終盤なのです。計算して書かなければ、なにか矛盾などが現れそうで怖いのです。
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