龍紋を放つA02
特例を得るにはかなり苦労した。特にクランドの説得。ドルテへの根回しはまだしも、広まってしまった噂は日を増すごとに、なぜか凶悪性を増しているだとか。
余程執念深い誰かが俺への恨みを募らせているらしいけど、いったい誰がこんなことをしているのだか。余程暇人らしい。世の中は今、大変なことになっているというのに、それだけの情熱をくだらない嫌がらせなどに捧げず、なにが違うことに活用すればいいのにな。
なんていう考えが犯人に届くはずもなく、昨日届いた最新情報によると俺がとんでもない凶悪犯だとかいうのがあった。証拠を見せてもらいたいものだ。
クランドの懸念は、俺が外出した途端に危害が加えられるのではないか、ということだ。
今のところ俺を抱えるグラディオスへ悪意が向けられることはない。グラディオスはドイツ支部を窮地から救った功績がある。
現在、アリスランドは未だ海水に半身浴をしているそうだ。アリスランドのクルーは大半がドイツ支部に輸送され、コーネリアがまだいた頃は、連れて来られたモーリスとの面談が叶った。
しかしビーツと、そしてアークだけは海にいる。アリスランドの機能はほぼ凍結。必要最低限の姿勢制御ができるようにして、またグラディオスのクルーが派遣されて沈まないよう補修したりした。これでもグラディオスの兄弟艦だ。連合軍の最新鋭艦を海の底に沈めるのはもったいない。というのがドルテの出した結論でもある。
いずれ有効活用できる日が来ると信じているのだが、ドルテ自信はドイツ支部の財産にしたいとまでは思っていないらしい。聞けば「手に余る」と弱気な発言をして、周囲の顰蹙をかっていたとか。そりゃあ、空を飛ぶ巨大な艦だ。戦利品としてドイツ支部の所属にしてしまえば、いずれアメリカ支部を超える復興も可能となるだろう。ゆえに、オーバードパワーとして認識しているのだろう。それは俺からすれば正しい選択と言えた。そして幸運でもあった。
アリスランドの隣には3隻の艦がいた。ひとつにビーツとアークを収容し、今も時間が許す限り尋問を継続中。他2隻は護衛艦だ。アメリカ支部のトップたるワプスは、あの戦争を経て、もう余計な犠牲を出したくないと思うだろうが、オルコットが降りてきたなら警戒しなければならない。
宇宙からシャトルが戻り、補給が済み次第、戦犯たるビーツが輸送される。
なお、黒いイレイザーと黒いタキオンは別々に保管されていた。黒いイレイザーはアリスランドへ。黒いタキオンはドイツ支部へ。戦力の分散を狙っている。
黒いタキオンより黒いイレイザーの方が凶悪だ。いざとなれば、アリスランドとともに海の底に沈めてしまえば、暴挙を未然に防げる。クスドの指示である。
グラディオスのハンガーは、もうブースがないのでドイツ支部のドックに置くしかないのだ。ただし、危険な機体だ。アークの状態を見るに神経接続型をいうわけでないのだろうが、もし試し乗りでもされれば、なにが起こるかわからない。整備どころか修理も禁止され、予備電力も入れずに片隅に放置されていた。たまにシーナが様子を見に行き、チェックをしているとか。
すでにシーナは一人前の整備士だ。ドイツ支部にいた頃とは比べ物にならない実力を身に着けたので、古巣にオブジェクト同然に飾られた黒いタキオンに触れられる唯一の人材として派遣されるのだ。
「土産話にしたい。シーナ。アークのタキオン、どうだった?」
「んー。これといって困ったところもないよ。お前の時みたく、神経接続型っちゃそうだけど、なんか違う。直接使った形跡がない。神経接続型だったのはむしろ、黒いイレイザーだったかな」
「黒いイレイザー、か。そういえばビーツも過去の事故で右半身を手術してたんだった。右目は義眼なんだけど、疑似覚醒を使えるようにしてたよ」
「ハァ。ヤダねぇ。なんなのこいつら。これじゃまるで、機械化してない私が最下位みたいじゃん」
「変なところで争うなよ。俺は別に、シーナまで機械化してほしいだなんて思っちゃいねぇよ」
とはいうが、シーナの胸中を聞いてしまった身としては、彼女のコンプレックスというか、負い目を知っている。
俺とビーツ。転生者にしてライバル。パイロット。様々な共通点と因縁があるなかで、この世界を動かしてしまったふたり。
だが比較してシーナは、世界というよりもグラディオスの運命のみを動かしただけで、それもたった数回で、整備士だから目立った場面はない。
俺のライバルを自称する割にはインパクトがないと思っているのだろう。
でも俺はそうは思っていない。シーナが活動を本格化させたのは、俺が不在だった頃で、俺ですら手を焼いたビーツの策をほぼ大半を打ち消し、犠牲を食い止めた。俺にとっても外せない一戦だったのを、俺が不在の状況で、たったひとりで防衛を成功させたのだ。やり方は俺を真似ていて、信頼を勝ち取りながら、段階ごとに奇策を放ち防衛策を成立させた立役者だ。
………なんてことを言うだけ、シーナのプライドを傷つけるだけか。
「さて、そろそろ朝飯の時間だ。食ったら俺はソータと一緒に行くよ」
「わかった。気を付けろよ? 海の艦、まだコーネリア少将の部下がいるんだろうけど、補充要員として派遣されたのはドイツ支部の人間だ。………刺されるかもよ?」
「………ハーモンを連れてくか」
「コウも連れてきな」
「そうする。コウも借りるぞ」
「ん」
人選については、またクランドに申請しなければならないが、護衛のことについてはアーレスも同行してくれることになっている。ハーモンとコウも連れ出すことで、確実性を上げるのなら、クランドもダメとは言わないはずだ。
「それにしても………意外だな。お前、来ないのか?」
「来てほしいのかよ」
ライラを起こし、顎を指で撫でながらも起立を促す。シーナに尋ねると、彼女もベッドから降りて立ち上がる。
「そういうわけじゃないけど、アークに会うなら連れてけって言うのかと思った」
「まぁ、感動的な再会ってわけじゃ………ないし。ほら、私もアークに嫌われてるし。ならいっそ、お前ひとりにアークきゅんの悪意が集中すればいいなって。あはは」
「サイコパスハムスターめ」
可愛い笑顔を浮かべながら、とんでもないことをほざいてくれるのだからな。拳骨おかわりさせてやろうかと思ったが、時間の無駄だ。
ライラは俺から離れ、立ち上がったシーナにべったりになる。しかし俺の左手は握られていて、どうしても離れなかった。
3人揃って食堂に向かう。すると航海航宙科の青年に「親子みたいだなお前ら。あひゃひゃ」とからかわれた。俺とシーナはまともに相手をしなかった。ライラは嬉しそうにしていた。
罰を与えんとする者は、青年の背後にいる。「その発言の意味をお聞かせいただきたいわねぇ」とユリンが肩に手を置き、コウが腕を掴む。正面に顔面破壊兵器みたいな形相をするシェリーと、笑顔なんだけど目が笑っていないヒナ。俺たちのパートナーたちが、処刑執行人となる。
それ以降、半日くらいはその青年の姿を見なかった。
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