龍紋を放つA01
第22話終盤の戦い、闇堕ちしたライラの代わりに、イレギュラー側の始まりの敵とも呼べる赤いタキオンを模した個体を討伐して2日が経過した。
コーネリアは昨日、シャトルで発った。最後まで立派にあり続けるひとだったと感心したのだけど、俺は知っている。陰でハーモンの頬にキスをするくらい溺愛していたことを。
その際、ハーモンは飼い主に無理矢理キスをされて嫌がる猫みたいな反応だったけど、拒否はしていない。姉の愛情を受け入れてはいた。誰も見ていないとわかっていても、照れていたんだな。けど残念。俺は艦内の新規監視カメラでバッチリ見ていた。今度ハーモンが生意気な態度をしたら、このネタでいじってやろうと決めている。
グラディオスならびアリスランドのふたつの艦は、大気圏の突入はもちろん、突破の能力を有している。それ以外は専用のシャトルに乗る必要があった。ドイツ支部にそれはあるのかと言えば、実はある。
地球で第2位にランクインするほどの防衛率を誇る国だ。難民のなかには技術者もいて、積極的に雇用することで技術の発展を促し、教育も滞りなく進めることで未来をしっかり見据えていた。
つまりマスドライバーだ。グラディオスが鎮座するポイントの反対側にそれはあった。何度か俺も見ているし、第1クールと第2クールの間、語られざる半年間の間に見学もさせてもらえた。
要人や物資を乗せるために、一々スペースシャトルを打ち上げるわけにもいかない。一度に100人やキャリーケースを積めるスペースがあるわけではないため、かなり小規模ではあったが、それでもコーネリアの部下たちを全員乗せられるだけのシャトルがあった。これを見越して、必要最低限の人員しか降ろさなかったのだなと改めて感心する。
ただ、コーネリアにとって予想外の事態が起きた。想定していたよりシャトルが小さかったのだ。
本来なら拘束したビーツを連れて行くはずが、人員に限りがあったので乗せられなかったのである。
そこで、アメリカ支部に降り立ったというオルコットにまだ動きがないことから、ブルゾンという右腕と数名の部下を残して、コーネリアはほとんどの部下とともに宇宙へ戻った。少将がいつまでも本来の任務を放棄して地球に滞在しているわけにもいかない。仕事が山積みとのこと。
ビーツは後日、ブルゾンたちが次の便が用意でき次第宇宙へ上がる。つまりシャトルは地球と宇宙を往復しなければならない。
さて、新たな課題が終わり、次の第23話「龍紋を放つ」に突入したはずだ。
そこではアリスランドがとある馬鹿に占拠され、ユリンもグラディオスを裏切ってアリスランドとともに逆襲するのだが、その心配は無用だ。
アリスランドは硬く封印した。キーは俺が持っている。物理的なものではない。脳内チップにインストールしていた。必要に応じて、動かす時は誰かに託すことになっている。それ無くして、アリスランドは二度と起動することはない。
「えーす。いたい?」
「いいや。もう痛くないよ。ライラが治してくれたんだろ?」
「んー。わかんない」
俺はシーナの部屋を訪れていた。ライラが会いたいというから、朝一番でシーナが電話をかけてきたのだ。ところがまだ起床時間前だったこともあり、その日俺を抱き枕にする番で、至近距離で着信音を煩わしく思ったユリンが出てしまい、苛立った声にシーナは危うく心停止するところだったと愚痴っていた。かなり強烈で怖い言葉を浴びせていたからな。その時は胸に抱かれていた俺も心臓が止まるかと思った。
朝食の時間の前だが、ライラがお呼びであるなら応じるのもいいだろう。着替えて移動し、部屋を訪れたら、ライラは俺にべったりとなる。
使っていないライラのベッドに腰かけると、ライラは俺の膝の上にうつ伏せに寝転ぶ。途端にシーナが注意して仰向けになる。ブラを着用させろと言ったのにまだしてないんだもんな。毎晩死にかけるまで絞られている俺でなければ襲われていたところだ。
しかし、たまにはライラの顔を見ながらコーヒーを飲むのもいい。
なぜなら俺はコーネリアの見送りをして以降、いやそれだけしかグラディオスの外に出ることは許されなかった。艦内は自由に歩けるのだけど。正直鬱憤が溜まる。甲板にも出られない。たまには外の空気を吸いたいのに。ライラの無邪気な笑顔を見ると、そんなストレスが緩和されていく。
理由はクランドが教えてくれた。艦長室に呼び出し「脳内チップを持つきみに隠しても無駄だろう。コーネリア少将はきみの視線に気付いていたぞ」と前置きをしてくれる。物陰で弟の頬にキスしてたところを盗み見てたのバレれたのか。監視カメラ越しだったのに。化け物かよ。今度コーネリアに会ったら殺されるかな?
俺の外出が許されない理由は、ドイツ支部で不穏な噂が飛び交っているからだとか。
俺が悪魔だとか。敵の手先だとか。スパイだとか。人間の皮を被った化け物だとか。
根拠のない噂だ。信じるに値しない───というのはグラディオスの総意であるが、ドイツ支部はそうではない。半年間で顔見知りが増えたが、グラディオスのなかと同等の絆を育めた人員はいないのだ。
所詮、噂というのはそういうものだ。とクランドが述べる。ドルテも動いているし、すぐに収まる。噂を流布した犯人の特定も急いでいるらしい。
まったく。困ったもんだね。
時として人間というのは、アンノウンよりも、イレギュラーよりも恐ろしい存在となる。
まさにそれを体現しているようだ。
「噂はともかく、ドルテ支部長ならすぐに解決してくれるって。気にすんなよお前」
「なんだ。俺がメンタル弱いこと知ってたのか?」
「馬鹿言え。狂人レベルのメンタルしてる化け物が、こんなことで落ち込むかよ。左目くり抜かれてもトラウマにならなかったくせに」
「あれはあれで、かなりのトラウマだったよ。………でも、ライラがあの仕打ちを受けなくて、本当によかった」
ライラを膝枕しながら、額に左手を沿わせて髪を梳く。指の感触を心地よさそうにしているライラは、目を細めて「おほー」と鳴いた。シーナを睨む。目を反らされる。こいつのイカれた英才教育の賜物だ。まだいたいけな少女みたいな声で笑うから許すが、汚い声で鳴いた瞬間に罰を与えていたところだ。
「私はまだ自由に出歩けるからな。古巣だし。それとなく調査しとくよ」
「ああ。頼む」
「で、今日お前はなにする予定なわけ?」
「実は特例で外出することになってる」
「は? どういうこと?」
起床時間まであと数分。シーナは自分のベッドで寝転んでいたが、飛び起きた。
「面会しに行くんだよ」
「誰に? まさか、またビーツか?」
「それはおまけ。あとひとりに会わなければならない。でも俺は付き添い人ってところかな。今回、面会しに行きたいって言ったのはソータだよ。で、ソータの頼みで俺が同行する。クランド艦長はかなり渋っていたけど、まだあの艦にはコーネリア少将の部下がいるしな。問題は少ないだろってことだ」
「………ああ、そういうことか」
第23話にはソータが面会しに行く描写がある。
俺はおまけとして同行するのだが、実はかなり興味があった。
生き別れとなった兄弟が、やっと落ち着いて会話ができるのだから。
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