もう戻れないC02
グラディオスはドイツ支部に凱旋するように帰投した。
なにもかもが未知の敵として想定し、退けるにはドイツ支部の全戦力を投入して勝てるかわからない相手だったゆえ、ドルテたちは英雄のように迎え入れる。
グラディオスとガリウスに目立った損傷はない。結果的に上々の戦果を挙げた。
それについてはコーネリアも満足していて、グラディオスにドルテと乗艦すると真っ先にハーモンに会いに行き、褒め倒す。
仲睦まじい姉弟の姿に微笑みを浮かべるクルーたち。
ドルテはコーネリアが激甘姉モードから軍人に戻るまで待ち、用事が終わって執務モードに切り替わった彼女を連れ、艦長室へと向かう。
結果的に見れば快勝だったとはいえ、イレギュラーとアンノウンを同時に撃破したのだ。負担は大きいし、大西洋での戦争からまだ3日しか経っていない。艦の修復も完了していないグラディオスは、やっとこれで落ち着いて修復に取りかかれる。激務へと移行した。
よって艦長室にはクランドしかいない。他の各科のトップたちは現場の指揮で忙しいのだ。
「よく無事に帰って来てくれたなクランド。不敗神話を未だ継続中とは恐れ入る」
「クルーが迅速に動き、優秀なパイロットたちが前線で働いてくれたお蔭だ。私は指示を出すだけで、特にこれといった働きはしていないさ」
艦長室の一角に展開した応接セットにて、3人は向かい合って座った。まずはドルテが絶賛を送る。なにも隠すことはない。すべてが本音の賞賛を。
クランドは自ら紅茶を淹れ、ドルテに振る舞う。その隣に座るコーネリアにもソーサーに乗せたカップを差し出す。受け取ったコーネリアも質問をした。
「しかし混戦となったのだろう? 臨機応変に対応できる指揮官がいるのといないのでは、雲泥の差となる」
「戦術を組み立てるのは参謀兼副艦長代理のクスドのお陰ですよ。彼は将来、本部で務めるほどの手腕となるでしょう」
「あの小柄な少年か。それは興味深い。是非とも私の艦隊の戦術アドバイザーにもしてみたいな。クランド艦長。彼を貸し出してもらうことは可能か?」
「今すぐには難しいでしょうが、確かコーネリア少将は10隻もの艦隊をお持ちでしたな。そのすべての戦術を組み立てるのは、クスドにとって難しいことでありましょうが、できないこともないと思えます。むしろクスドの将来を考えるなら、大部隊の総指揮を執る経験も必須。このお話、いずれ少将がクスドに推薦状を書いていただけると思ってもよろしいのでしょうか?」
「もちろん。優秀な者の教育のためなら、何十通と書いてやるさ。あとその研修、ハーモンも付けろよ。愚弟が私の隊でどこまでやれるのか見てみたい」
むしろそちらの方が本音では? などと野暮なことは聞きはしない。
そしてハーモンがコーネリアの艦隊にいずれ研修という形で訪れた際には、必ず結果を挙げるだろう。それはクランドもわかっている。コーネリアはハーモンが可愛いだけで欲しがっているわけではない。弟が優秀なパイロットに成長しているから、自分のところでより磨きをかけて、世界を代表する者にしたいのだ。
「エース少尉も欲しいな。ああ、それから来週、本部から通達があるだろう。エース少尉はより特進させることが決定した。その通達が届き次第、その日より少尉から少佐となるだろう」
「二階級特進どころではない異例の速度ですね」
「宇宙での戦争は激化する一方でな。地球に降りてみてわかった。やはりアンノウンの活動拠点は宇宙だ。熱源を得るために太陽に近い場所に多く潜伏していると考えられるだろう。そこからワープし、軍、民間問わず攻撃を仕掛ける。その頻度は地上の約7倍と言える。………本部では、これまで例にない襲撃頻度から、緊急事態宣言を出すつもりではないかと噂されている。それくらいの犠牲者が出た。優秀な人材が足りないゆえ、才覚のある人材を飴と鞭を使って縛りつけたいのさ。とはいえ、私自身もエースなる人物と接してよくわかったが、あれはすでに少尉の器ではない。うかうかしていると、あなたも階級を追い抜かされるぞ。クランド大佐」
「………いやはや、ここまで来ましたか」
苦笑を浮かべるクランド。
とはいえ、エースという人物はドルテやコーネリアよりも知っているし、コーネリアの言動のとおりの印象を抱いていたのも確かなのだ。
ただひとつだけ加えるならば、エースは階級などではなく、グラディオスに収まる器ではないかもしれないと思い始めてもいた。かといって本部勤めという印象でもない。
遠いどこかで、なにかを成し遂げようとする。茫漠としていたが、イメージとしてはそれが一番近い。
「………とは言えだな」
「はい?」
急に声のトーンを落とすコーネリア。ドルテも神妙な面持ちをしている。
その空気に当てられ、焦り出す心を鎮めるクランドは努めて冷静を保った。
「件のエースは、今どこに?」
「メディカルルームです。脳内チップのことはご存知でしょう? 彼は戦闘に脳内チップの補助を受けます。それゆえ、戦闘後は必ずという確率でメディカルルームに収容され、治療を受けるのです」
とはいえ、エースの肉体に注入してしまった新たなナノマシンのせいで治療ポッドに二度と乗せられない体になってしまったので、一般的な治療しか行えないのが現状だ。以前なら数分で治る怪我も、今では数週間も要してしまうかもしれない。クランドの肝を冷やす要因だ。
「………エースが、なにか?」
エースの件でこんな厳かな表情をしているのだ。クランドとて神妙にならざるを得ない。
「あくまで噂………いや、違うな。宇宙にいる我が艦隊が入電してきたのだ。先日、地上に降下する熱源があったと。それはシャトルのようでな。連合軍本部から派遣された複数の護衛艦がギリギリまで展開していたようだ。それがアメリカ支部に降り立ったとあった」
「それが………なにか?」
「兄に確認の連絡を取ったところ、やっとついさっき返信があった。距離があるからな。本部の幹部のひとりが、とある任務のため地球に向かったと言っていた。………オルコットが来ているらしい」
「………むう」
オルコット。それは連合軍幹部のひとりで過激派のトップに立つ、デクスター家の宿敵である。そしてオルコットはビーツの、アリスランドの後ろ盾となっていた。
先の代理戦争でデクスター側が勝利することで、オルコットは勢いを失墜させることになり、今は息を潜めて返り咲く日を待っているかと思われたのだが、本拠地を自ら離れることになんの意味があるのかと言えば、隠居ではなく、なにか目的があってのことだろう。
「………ビーツを迎えに来た、と?」
「またはビーツの宿敵であるエースを狙っているのかもしれん。そして………ドルテ」
「ハッ。クランド、どうか落ち着いて聞いてほしい。これはグラディオスが南へ出撃してから数十分後に発生し、私もすぐに耳にしたことなのだが………どうやら、エース少尉について、よくない噂が出回っているらしいんだ」
「よくない噂?」
クランドは眉根を寄せる。まだふたりには告げていないが、赤いタキオンから通信があったのだ。それがエースについてのことだった。そのふたつは偶然かもしれない。しかし、タイミングにしては妙に一致する。考え過ぎかと胸中で否定する。
ドルテは申し訳なさげに、渋面しながら首を縦に振る。
「ああ。エース少尉は、なにか………我々とは違うとか。敵ではないが、敵よりも恐ろしい存在だとか。別の世界の住人だとか。私は耳にした時、すぐに根拠のない妄言だと断言したのだが、すでにドイツ支部のほぼ全域に流布されてしまっているらしい。………すまないクランド。こんなことになってしまって。エース少尉に、恩を仇で返してしまうとは情けない限りだ。事態の収束と、発生源の特定を急ぐと約束させてもらうよ」
「それについて私も助力したいところだが、そうもいかなくてな。オルコットにビーツを会せるわけにもいかん。私はシャトルで部下とビーツを移送し、宇宙へ戻る。もしオルコットが来たら、知らぬ存ぜぬを貫き通せ。いいな?」
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次回から23話なので、難しくなってきますので1日1回更新にさせていただきます。何卒ご理解ください。
次回からかなり急展開となりますので、私も計算して書かなければならないのです。
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