もう戻れないB18
撃ち合い勝負は、ややこちらが劣勢である。
大前提として、そもそもの質量の違いがあるのだ。焼け石に水になってしまうのは至極当然の現象である。
赤いタキオンだった赤い巨木、第三形態のイレギュラーは、体内にレイライトリアクターも同然の動力を持っているのだろう。そこから発生、生成されるエネルギー量も比例して高くなり、あれだけの砲撃と浮遊を可能にしている。
しかし、だからといって諦めるほど俺たちは弱くはない。
まだ心が屈していない。誰だってそうだ。
質量が異なるほどの巨大な敵と戦ったことだってある。不可能とされていた作戦を成功させたことだってある。新種が出現する戦場で、仲間を庇いながら戦ったことだってある。
その上で仲間は誰ひとりとして欠けることなく、ここにいる。
俺の考えるなかでも最善かつ、全盛期というのが終わらず日々更新し続けている。
そんなパイロットが13人もいるのだ。
まだだ。まだやれる。語らずとも、回避や反撃のモーションでそのような硬い意志が伝わってくる。
「ビームを合わせろ! 砲台を焼き潰す!」
『了解』
第2クールで戦死するはずだったシェリーも、俺の隣にいて、ともに攻撃と回避をしてくれる。
使えるはずがなかった覚醒を習得し、声のトーンが低くなって、よりクールな印象があったが、原作にない一面を見せてくれて、脳内から俺をゾクゾクとさせ喜ばせてくれる。
五号機のスナイパーライフルとリヴァイヴが持つ新造ライフルの銃口が、ビームを照射しながら赤い巨木の表面に生える巨大化したヘビィガンに直撃する。赤い表皮も高熱源体だからこそ、あまり意味がなかったのだが、耐熱コーティングが施された銃身を模した程度では、2機の同時照射に耐えられない。
目論見どおりに1基、また1基と赤い巨木の砲台が潰れていく。
ところが、砲台ばかりに気を取られていたせいで、枝が変形して触手のようにうねり、頭上から強襲を仕掛けてきた瞬間こそ把握できたが、シェリーが反応に遅れた。ケーブルの接続を強制解除して、五号機を抱えて退避しようとした、その時。
『そのダイレクトサポート、私にももらえるかしら? エー先輩』
俺たちの前に飛び込んだ二号機が、パピヨンジャケットですべての触手を薙ぎ払った。自機も俺の回避に合わせて上昇する。
「いいだろう。好きなだけ持ってけ!」
『アハァッ! これでまともに飛べるわぁ!』
ユリンの二号機の腰部、レイライトリアクター付近に接続し、エネルギーの供給を開始。
副隊長権限で二号機の状態を確認したが、確かに危ないところだった。レイライトリアクターで生産できるだけのエネルギー量を超える運動量だったのである。パピヨンジャケットをかなりの頻度で使ったのもあって、コンデンサー内のエネルギーも枯渇寸前であった。その影響で蝶の羽を模すビームの膜のような翼も掠れてしまっている。
リヴァイヴからのダイレクトサポートで生き返ったようにビームの光彩を取り戻す。大気圏内なら、推進器を使わずとも両翼で揚力を得られるので、高速飛翔でもしない限り、彼女の言うとおり長時間の飛翔は可能だ。
俺たちを守りつつ後退。
赤い巨木はダメージを与えられることはできるのだが、再生能力を有していた。そして今回は推進器を下につけていない。内部で重力を操って浮上していると考えられる。アンノウンと同じ理屈だ。
勝利条件が前回よりもシビアだが、人員は足りている。ならまだ打てる手がある。
『三、四、十、十一号機が帰投。装備を変更ののち、再出撃します』
オペレーターが冷静に告げた。
『クスド! まだか!』
シドウが怒鳴り気味でブリッジに尋ねる。
『お待たせしました。準備が整いましたのでカウント開始します。全機射線軸より退避! 発射5秒前!』
勝つための手段を講じる仲間がいるのは大きい。
ヒントは事前にあったものな。だから勘付かれないように注意を反らせと言ったのだ。
そんな細々としたものをかき集め、確実なものとしようとするクスドはいつも正しい。間違えるはずがない。
赤い巨木は、その身に襲い掛かる砲火に臆せず、全方位に向けて反撃を仕掛ける。人間が視界に捉えた小蠅でも振り払うかのように。
が、発射まで5秒を切っていた。赤い巨木を囲む包囲網に穴が空く。射線軸から退避しようとするソータとアイリだ。イレイザーが八号機の腕を掴んで急速離脱。なんて感動的な光景。ファンからしたらそれだけで狂喜する。
赤い巨木は全面を見れるのか、その穴に向けて進み始めた。包囲網を鬱陶しく感じたのかもしれない。
そこにグラディオスから発射された陽電子砲が直撃した。
『第一射命中! 第二射用意!』
『クールダウンはこっちで請け負うぜ!』
コウとハーモンが興奮しながら叫んだ。
クスドはこれを狙っていた。コウとハーモンは改修前の機体に乗り換えて、ガリウスGの白兵戦に特化した性能を活かす道を選んだ。
だがその代わりに長時間の飛翔能力を失い、空中戦に参加できずにいた。今俺たちは雲の下にいるとはいえ、かなり高いところで戦っている。そこではいかに最新鋭機たる第七世代ガリウスGであっても、イーグルジャケットを装備していてもきついのだ。
そこでふたりは、諦めずにいつものとおりグラディオスの甲板で支援射撃に徹する方法を選んだ。クスドは間髪入れずに了承。ハンガーにて迅速な換装が行えるよう要望し、カイドウが率いる上位の弟子たちによる優れた技術者たちが九号機と十二号機の換装を行った。
通常なら換装はコウの十二号機のみで済むのだが、今回は強敵かつ対人戦ではないことから、ハーモンの九号機も支援射撃のために換装の対象となった。
重力下では敏捷力が極度に低下するほどの重量があるブラスタージャケットを十二号機に。そして同等の重量を持つが強固な装甲と冷却能力を有するタイタンジャケットを九号機へ。
それらが合わさった結果、エレベーターで直接甲板に出た2機は連携し、ブラスタージャケットを担ぐコウが射撃体勢に入ると、ハーモンがそれを肩で支えた。
ブラスタージャケットにはグラディオスの艦首にある巨大なレイライトリアクターから供給されるエネルギーを直接受け取れるようケーブルが接続されている。陽電子砲に必要とされるエネルギーはガリウスGであっても1発が限度であるが、艦から供給を受けられれば消耗を気にすることはない。
そして第一射が赤い巨木の中央を穿ち、どんな攻撃もあまり通さなかった赤い表皮が初めてボロボロと崩れていくのを確認し、第二射に備えた。
それだけの威力を発揮するのだ。エネルギーが膨大なだけ砲身にも負担がかかるところ、久しぶりにタイタンジャケットを纏った九号機が冷却機能を発揮し、ブラスタージャケットの排熱を促した。
加熱と冷却を瞬時に何度も行うと物質は脆くなるが、ギリギリを見極めればいいし、今は突破口を作るのがふたりの仕事である。おそらく3発で決めるはずだ。
冷却が数秒で完了するまでアレンがエキサイトしながらミサイルを赤い巨木の被弾部に注いでいく。ガリウス部隊もその攻撃に続いた。
『第二射、発射!』
陽電子砲が赤い巨木の傷をより深くしていく。
イレイザーが動いて枝が触手のように伸びる前に、ソニックブームで消し飛ばす。表皮に現れた砲塔の死角は真上である。イレイザーは渦を巻くように赤い巨木の頭上で旋回し、枝を伐採する。
『最後だ! 第三射、発射!』
『誰か決めてくれやっ!』
「あいよぉっ!」
かなりの深さまで穴が空いていたが、第三射にて完全に穴が空く。
それでもまだ消えないのであれば、とっておきがある俺のリヴァイヴの出番だ。
赤い巨木の内部に入り、オールパーパスジャケットのプレートをすべて異なる方向へ突出させる。
狭い空間だ。ナノマシンを使って射出するまでもない。ヒンジを使って上下左右に動かすだけで、すべてが突き立った。
「じゃあな、お喋り野郎。もう二度と俺の前に現れるんじゃねぇ」
プレートに仕込んだ高圧ガスを注入。同時にスラスターを噴射して脱出。狭い穴のなかにいつまでもいるわけにもいかない。
今回は体内のなかから膨張させてやった。プレートに仕込まれた高圧ガスすべてを注入した甲斐があり、赤い巨木はパンパンに肥大化。コアを圧迫粉砕したのだろう。巨体が弾けて消し飛んだ。
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