もう戻れないB16
『灰色と赤………リヴァイヴのパイロットの正体だと? 笑わせるな。彼は正式なパイロットであり、その経緯や経歴に疑うところはなにひとつとしてない!』
『ホンシツヲ、ミアヤマッテ、イル………』
いけない。これ以上はまずい。聞かれればもっと面倒なことになる。
スラスターを絞る。爆発的な加速を得て、赤いタキオンに肉薄した。
「俺の本質がなんだってんだ! 俺は俺だ!」
『ソノウツワハ、コトナルダロウ?』
器………肉体のことか。
こいつ、どこまで知ってるんだ?
これまで何度もイレギュラーと戦ったが、この個体だけが喋る。なぜ?
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。なんとしてでもこいつを止める。
ナノマシンが使えないなら、それなりの方法で手段を講じるしかない。
「ソータ、合わせろ!」
『けどこいつ、エー先輩のことなんか知ってるみたいで………』
「俺にイレギュラーの友人がいると思うか? 確かに言語機能が備わっていたのは驚いたけど、こういう時に敵の言葉に耳を貸すな。十中八九精神攻撃に決まってるだろ! 揺さぶられるな!」
これでは必死に取り繕おうとしている俺の方が怪しく思われるかもしれない。気分は仕掛けた悪戯を悟られないよう話題を変えようとするガキそのもの。
でもこうするしかない。多少強引であってもイレギュラーに邪魔をされる筋合いなどないのだから、余計なことを言われる前に消さなければ。
ショートライフルの銃身に取り外したプレートを接続。これでワイヤーを、液体金属に含まれるナノマシンを使わずとも、オールレンジ攻撃こそ不可能だが攻撃力を増した一手を放つことができる。
「余計なこと言って、俺の仲間を混乱させてんじゃねぇよテメェ!」
早々に黙らせるべく、赤いタキオンに追いつくとプレートを突き刺す。狙いどおりタキオンの背部にあるメインスラスター付近に切先が突き立つと、高圧ガスが噴出され、赤いタキオンの背部が内側から弾け飛んだ。
内部にパイロットが搭乗していれば即死するダメージだ。しかし赤いタキオンはパイロットの代わりにアンノウンと共通するようなコアを搭載している。これを破壊すれば死ぬ。今の一撃はコアに届かなかったようだ。背部のメインスラスターと左腕を失いながらも、まだ活動ができる。腰を捻って旋回脚を放った。
これを辛くも上体を反らすことで回避し、追撃へ入る。
右手のショートライフルで突き立てた。次は左手のそれで行う。
アンノウンだけでなくイレギュラーに対しても効果があったと実証例を得られたのだ。きっと殺せる。ただ、アンノウンと同様にイレギュラーもまた高熱源体。耐熱コーティングをしているものの、内部の冷却をしなければ連発は難しいからだ。
単発式でも十分な威力が発揮できるなら、うまくやるだけのこと。
赤いタキオンが残った右腕のヒートナイフを、なんと延長した。もうナイフと呼べるリーチではない。ソードである。腕から出現した長剣を、まだ冷却が済んでいない右のプレートで受けつつも、左手のショートライフルを突き出す。回避される。あんな状態でまだ動けるのがイレギュラーの特徴だ。
「しぶとい上にしつけぇな! とっとと落ちろぉおッ!!」
『ナニヲ、アセッテ、イル?』
「普通じゃない敵を目前にして、焦らないパイロットがいるかってんだ!」
『フツウ? オマエハ、フツウ、ナノカ?』
「お前よりかはまともだ!」
『テンセイシャハ、マトモ?』
「俺の名前はテンセイシャなんてイカれたもんじゃねぇんだよ!」
子供が大人の言動のすべてに疑問を持ち、常に質問をぶつけてくるような、そんな論争になる。レベルが低いったありゃしない。
俺のことを転生者と呼ぶうちは、まだいい。問題はその具体を明かしてしまうことだ。オープンチャンネルで呼びかける赤いタキオンが、俺の秘密をどこまで握っているのかは知らないが、クランドたちにあとで根掘り葉掘り聞かれた際、誤魔化す手段が消されていく。
『テンセイシャハ、コノセカイヲ、ドウ………ナニヲ………カエル?』
「俺は変革をもたらす者なんかじゃねぇよ! 目の前のことに対処するのに必死なだけの、ただのちっぽけな人間だ!」
『ソノソンザイガ、セカイニトッテノ、アクト、ナッタトシテモ?』
「………なに言ってんだお前。さっきから好き勝手に俺が疑われるよう仕向けやがって!」
『ニンゲンハ、オオクヲ、ウタガウコトヲ、シラナイ』
「人間こそ疑心暗鬼になりやすいって知らないのかァッ!? どこの情報だそれは!」
『シロウト、シナイ』
「少なくとも、俺のことで疑われるのはご免だね。それもお前なんぞに印象操作されてたまるか!」
右のショートライフルのプレートは、もう排熱が間に合わないだろう。赤いタキオンのソードを防ぐための防衛手段として利用する。
左を温存し、隙あらばいつでも撃てるよう構える。
『地上のアンノウン消滅!』
『Eタイプ討伐完了! 残るはCタイプ含めたアンノウンだけです!』
アンノウンの方は仲間がなんとか処理してくれた。
主力がいない状態で、誰もが奮闘してくれた結果だ。
『ニンゲンノ、ベツノセカイカラ、キタモノノ、ゴウ───』
『あとはお前だけだ!』
赤いタキオンが御託を並べようとした途中で、ソータがカットする。俺も至近距離にいたのだが、ギリギリ届かないくらいの調整が施された速度によるソニックブームで赤いタキオンを轢く。
それでもゼロ距離で受けた赤いタキオンは、左の破損状況がより悪化し、左足も失う。
残るは右半身。
これで討伐が完了する? いいや、違う。イレギュラーはアンノウンと違い、奥の手を残している。
『ナラバ、ミキワメサセテ、モラウ。テンセイシャ………セイゼイ、アガケ』
来る。第三形態。
赤いタキオンはまたもや肥大化し、原型を留めぬような形態へと変化する。
前回と同じ形態だ。破損していようとその損傷さえもカバーしてしまう、歪な円錐形へ。
そこにスラスターなどの推進器があり、浮上を可能にしているのだ。
「まずいな。イレギュラー戦はいつも海上だったから活動停止まで追い込めたんだ。今回は海が遠いから、この形態になられたら完全に破壊するまで攻撃するしかねぇ」
『大丈夫だよ。みんないる。殺すまでバラバラにしてやるだけだ!』
ソータは印象操作を振り切って、赤いタキオンを疑問視はしているようだが、敵として再認識する。
剛毅な発言を実行するだけの実力は伴っている。初速からトップスピードに達し、赤い巨木へと突撃した。
赤いタキオンから機械的な部分を残しつつ赤い巨木へと変身したそれの攻撃方法は、樹木の枝を触手のように伸ばし振るうこと。突きを主軸とし払うこともできる。つまり槍と鞭が混合しているのだ。それが目視できるだけでも何十本とある。しのぐには相当な実力を要する。
が、イレイザーは根本的に違う。
ネイキッド状態での最大加速時に発生するソニックブームはアンノウンは触れた瞬間に形状を維持できなくなるほどの威力を発揮する。
イレギュラーはどうか。
結果は───上々。
イレイザーへ向けられた幾多もの触手が、それに触れる前に霧散する。
ここまで有効だとは思いもしなかった。
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明日は日曜日ですね。今からできるだけ書き溜めして、3回以上は更新したいところです。
さて、残すところあと4話(4章)なのですが、ちょっとここから難しいのです。マルチタスクを解消せねばなりませんし伏線回収もしなければなりません。計算が大変です。よって、1日2回更新が少しだけ厳しいので、来週月曜日より1日1回更新とさせていただきます。何卒ご了承ください。更新だけは継続しますので、長々とお付き合いいただければ幸いです。
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