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もう戻れないB14

『エー先輩!』


 速い。劇的なほどに。


 グラディオスから出撃して、まだたった数秒だろうに。


 二次加速から本加速に移行し、俺のリヴァイヴを振り返った赤いタキオンを、そのまま蹴り飛ばしやがった。


 こんなことができるのはひとりしかいない。


 ソータのイレイザーだ。今回に限ってはマルチプルジャケットを装備していない。ネイキッド状態でこそ発生するソニックブームと、それを発生させられる暴力的な加速力で勝負するつもりだ。それは奇しくも最適解であった。


『エー先輩。この敵って………』


「ああ、そうだ。ローマで沈めてやった個体が戻ってきやがった。油断すんじゃねぇぞソータ。こいつ、俺の数倍は強いと思え!」


『ガチで強いってことか。わかった。それなら最初からぶっ殺すつもりでやる!』


 剛毅な発言を可能にしてしまえるのもソータならではだ。


 後方に熱源が展開する。順次発進している後続部隊だ。予定より早い敵襲にも関わらず、全員がハンガーに集まりつつあったため、それを可能にしている。


 同時にクスドの作戦も水の泡と化した。イレギュラーがアンノウンを潰してから始まるはずの戦闘だったはずが、イレギュラーの背後にアンノウンが展開してしまっている。これでは三つ巴の潰し合いだ。


『ブリッジ! イレギュラーとアンノウンが同時に展開している! 対応を請う!』


『………パイロットチームへ。部隊を3つに分割します! あの赤いタキオンの対応をソータと副隊長が。アンノウンをシドウ隊長が率いる可変機部隊が。地上にいるアンノウンはハーモンとコウが。戦闘が推移するに連れて、こちらも戦術を更新します!』


 当然そうなるよな。クスドは間違っていない。


 出たとこ勝負になっても仕方ない変化だ。それに戦力の分散におけるバランスも悪くない。結果的に俺を温存させるべく中間に配置するはずが、もっとも戦力の高い敵と応戦することになってしまい、やりきれない心境にもなっているだろうが。


「ソータ!」


『わかってる!』


 赤いタキオンが動き出す。その予備動作パターンはビーツのものだ。


 ビーツは黒いタキオンから黒いイレイザーに乗り換えても、同じ癖を持っていた。動き出す前に両腕がわずかに動くのだ。


 脳内チップに蓄積させたデータと記録によって把握した癖を、ソータは独自の記憶力と集中力で刻み込んでいたらしい。リヴァイヴとイレイザーが、赤いタキオンの加速にほぼ同時に合わせられたのもその恩恵によるものだ。


 真正面から打ち合う、と思いきや赤いタキオンが転進。一瞬の急制動でフェイントを仕掛ける。


『この小賢しいフェイントはエー先輩の特技なのに!』


「小賢しい!?」


 きっとテンションが高くなっているせいで、普段なら言いそうもないことを述べてしまったのだろう。今はそう思っておくことにする。


 赤いタキオンは横にスライドするように加速。イレイザーがその場で半回転。慣性の法則を無視したかのようなスラスターの使い方で、俺よりも1秒早く赤いタキオンを猛追する。


 俺は無難に急制動をかけて、停止とまではいかないが反転しつつ再加速。赤いタキオンの予測軌道上に割り込んだ。


 第1クールと第2クールの中間、語られざる半年間において勃発した特務。予想外の敵の存在。それ以降、俺もそれなりに腕を上げたつもりだ。


 これまで理論上でしかできなかった技術を習得している。ソータのように力の配分を若干間違えただけで空中分解しそうなギリギリな攻め方は、やろうと思えばできるのだが、リヴァイヴにダメージを与えかねない。タキオンから進化させた、もちろん原作にないオリジナル中のオリジナル機体だが、いくら機械工学の権威とも呼ばれたケイスマンの意志によるサポートがあったとはいえ、過負荷には耐えられない。そこは操縦しながら微調整ができるようになった俺の腕の見せどころとなる。


 弧を描くように半円を周回する赤いタキオンを猛追するイレイザー。そこにリヴァイヴが割り込むと、赤いタキオンは好戦的にヘビィガンを連射。ショートライフルで応戦。イレイザーは斜め後方にいる。射線軸に入れないよう攻防を繰り広げた。


「ぐっ」


『エー先輩!」


「大丈夫だ。まだやれる」


 急速に距離を詰める赤いタキオンは、被弾しながらもリヴァイヴを強襲する。接触は厳禁だ。よってリヴァイヴを一時的に推進力をカットして下降。紙一重の回避に成功。


 頭上を通り過ぎる赤いタキオン。それを追うイレイザー。


「リヴァイヴは能力が制限されると決定打が出せないな」


 オールパーパスジャケットが使えさえすれば赤いタキオンを阻止できるだろう。アンカーから射出されるブレードを突き立てれば内側から爆発させられる。


 けれどもそれを許さないのが、俺の仲間たちだった。


『下がってエー先輩! 俺がやる!』


 イレイザーを駆るソータが、本気で赤いタキオンを追尾した。ゾクッとする。ソータが覚醒を早期に発動した。


 赤いタキオンはあの頃の、成長過程の俺やビーツとの交戦記録をフィードバックしていると考えられる。


 いくらオリジナルガリウスといえどパイロットがまだ未熟では、完全覚醒を遂げたソータとイレイザーに、技術で勝てるはずがない。イレイザーは毎秒距離を削るように短縮すると、赤いタキオンにソニックブームを纏って襲い掛かる。


 シーナが作ったマルチプルシールドは装備していたので、ブレードに接触しただけでも命取りだ。装備の剣尖にまでソニックブームを纏っている。高周波ブレードに触れるようなものだ。


 赤いタキオンもイレイザーの脅威を早期に察知したのだろう。パイロット不要の機動力を活かして、今度は赤いタキオンがギリギリで回避する。


 いや、あれはソータが赤いタキオンに、ひいてはイレギュラーにも単独で交戦を可能にした実力者ゆえの、凄まじい追い上げだ。今やソータはイレギュラーさえも脅かせるほどの実力者になったのだ。


 少しだけ乱れた呼吸を整える。バイタルに問題はない。カウンターシステムを使っていないので肉体の金属化現象も起きていない。まだやれる。


 飛翔しながら分散した戦局を分析する。


『男なら武器なんぞ捨てて拳でかかって来いよコラァアッ!』


『アンノウンに性別があるのかは定かではないが、同感だな!』


 九号機のハーモンと十二号機のコウは、途中までキルカとナリヤの変形した十号機と十一号機の背に乗り、戦闘予想ポイントまで移動してから、FタイプとGタイプに果敢に近接格闘戦を仕掛けた。


 射撃型と格闘型がいるなかで、ハーモンとコウはまずFタイプを潰しにかかる。タイタンジャケットを参考に製造したプロテクターは、防御はもちろん攻撃がヒットした部分に冷却剤を注入する仕組みだ。Fタイプはかつてコウを殺そうとした敵ではあるが、コウにトラウマなんてものはないのか、躊躇いもなく殴り、蹴る。銃身を潰したあとに胴体を殴り、沈黙させた。圧巻である。


 本命がGタイプだったか。ふたりとも意気揚々と戦闘を仕掛ける。やはり陸戦になればふたりの特徴がよく活かせる。


 最後に最奥で戦うシドウ率いる可変機部隊。ドイツ支部で惜しみない補充を受けることができた。銃弾や外付けのエネルギーパックもそのひとつで、ライフルを他方向から連射して弾幕を張り、途中でヒナとユリンがEタイプの解体へと以降した。


『エー先輩に出番なんて与えない! こいつは、ここで殺すッ!!』


 ヒナが叫ぶ。気迫のなかに焦燥が混じった声音。そしてそれを可能にする才能───覚醒。


 才覚ある人物たちが、Eタイプを早くも討伐せんとチェックメイトをかけた。


ブクマ、リアクションありがとうございます!


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