もう戻れないB13
まったく予想していなかった展開となった。
アンノウンとイレギュラーが潰し合うことが目的とされていたが、まさかイレギュラーが戦いを放棄する形で離脱し、グラディオスへ進路を変えたなんて。
索敵範囲の外にいたわけではないし、目視が可能な距離にいたのは認めるが、イレギュラーにとってアンノウンよりもグラディオスに関心を傾ける理由がわからなかった。
「まずい………!」
脳内チップは艦外カメラと接続したまま、一方でハンガー内の情報を一瞬で検索する。
パイロットは多くがまだ更衣室で、俺のようにスタンバイしている者がいない。
「イリス! ここから出ろ!」
「なにがあった!?」
「イレギュラーがグラディオスに接近してやがる! おやっさん! 間に合わないからこのまま出ます! カタパルトのハッチだけ開けてください! それが済んだら総員、なにかに掴まれ!」
アンノウンの阻止を可能とした条件を満たしたのは、生憎俺とリヴァイヴのみだった。
一方でハンガーのメインモニターもやっと艦外カメラと接続し、全員に緊急性を共有することができた。
リヴァイヴの緊急発進とあってはイリスは転がるようにして足場を降りる。タキオンにまだ乗っていた時代、こんなこともあったからな。二度目とあれば、全員なにをすればいいのか理解できているだろう。
「クソがぁっ! エース! オールパーパスジャケットなんぞ連発でぶっ放したら承知しねぇぞぁ! カタパルト1番解放! 二次加速はいい! リヴァイヴの進路だけ開けば、あとはエースが自分でどうにか───」
「お、おやっさん!」
「今度はなんだぁ!? ………な、んだと………ッ!?」
カイドウがグラディオスの沈没だけは阻止すべく、優先順位をすぐに変更。俺の要望を通して右側のハッチを開いた、その時。部下のひとりに飛び止められ、絶句する彼の視線の先───ハンガーに設置された巨大なメインモニターを目に下途端、目が釘付けになる。
リヴァイヴはすぐに懸架していたクレーンから解放される。
その頃になれば、もう右腕の義手のインターフェースを操縦桿の下のスロットに挿入して、レイライトリアクターを回転。強制起動をかけていた。両足が床に設置する頃にはシステムが機動し、俺にコントロール権が委ねられた。
俺はリヴァイヴを大股で一歩進ませて、一瞬だけコントロールを失い、危うく傾倒させてしまうところだった。
「嘘だろ………」
こちらに向かってくる赤い存在、イレギュラーはすでに第二段階まで変貌していた。
その姿は動物やなにかを模したものが多かったが、今回のイレギュラーはどれとも違う。
あまりにも洗練されたシルエットをしていた。
ハンガーにいた全員のみならず、俺でさえ放心しかけてしまうほどの造形。
実は、それは覚えがあった。俺にとって日常で、そして敵対するのは二度目となる。
『テン………セイ………シャ………』
緊張が強くなる。
ここからは通信が飛び交う。ハンガーのみならず、グラディオス各所から、今の謎の音声について、発生源がどこなのか、なにを言っているのか問い合わせる声が炸裂した。全体的に通信を割り込ませたのか。
「ああ………そうかい。まだ終わってなかったってことかよ。あのまま海底に沈んでいればよかったのに、無駄に足掻いたせいで浮上して、どこかの海流に乗ってローマから進んできやがったのか。お前の狙いは、最初から俺だったってことかよ!」
ここに来て露呈した新たな事実。
あのイレギュラーは交戦済みの、無力化したはずの固体だった。
それは始まりの敵とも言える、この世界の人類史において初の出現となるイレギュラーだ。
戦った場所はローマ。今は拘束したビーツと初となる共闘を経験し、お互いタキオンに搭乗してローマの空を高機動のオリジナルガリウスで苛烈に彩った。
ローマで数日滞在し、長期戦に持ち込んでやっと勝てたのだ。あの時はなにもかもがギリギリだった。
そして同時に、あの時にイレギュラーがなにかを学び進化すると知ったのだ。
結果、イレギュラーはタキオンを学習した。最終日に目撃したイレギュラーはタキオンを模して第二進化を遂げたのだ。
今、その敵がタキオンの姿のまま、グラディオスへ突進をしかけようとしている。
そうはさせない。こちらも打って出る。
リヴァイヴがハンガーの床をジャンプし、カタパルトに飛び出ると、ハッチも閉まらぬまま加速をかける。ただ本加速をかけるのはグラディオスを出てからだ。艦内でスラスターを全開にすると被害が出る。ハッチが閉まるまで待てる余裕もない。
『エース! あの敵は確か、以前きみが戦った固体………で、いいのだな?』
クランドから通信が入る。
「はい。性能はタキオンとまったく同じですけど、パイロットを不要とする分、常に全力で飛翔できるから、俺とビーツが組んでも落とすのに苦労した敵です。でも」
『ダメだ! オールパーパスジャケットの多用は禁ずる! まずは正面に捉えたイレギュラーを阻止。後続の到着を待て。全機で囲み、イレギュラーを殲滅する!』
余計なことを言ってしまったかもしれない。俺とビーツが、タキオン2機で迎撃しても苦労したと言ったのがまずかったか。いや、そんなことすでにクランドは承知している。以前、交戦記録として映像を提出したからな。
だからこそ俺が単騎で挑むことを全力で阻止する。俺の寿命を縮めないために。
みんな、優しいな。俺が歪まなかったのはこんな環境にあったからだ。もしビーツのようにアリスランド側にいたとしたら、俺もいつかビーツのようになってしまったのだろうか。
けど、その優しさにいつまでも甘えてなどいられない。
戦いはすでに始まっていて、なによりタキオンを模したイレギュラーを追尾しているEタイプが、龍に似た顎を開いた。内蔵しているアンノウンを放つ。大半は空を飛ぶが、少数が大地に降り立つ。Fタイプと、護衛をするGタイプ。下から狙撃するつもりか。
「ハーモン! コウ! 出撃したら地上に降りろ。お前たちの本領発揮する機会だ。陸戦を選んだアンノウンがいる。邪魔をするつもりだろう。根絶やしにして来い!」
『ウス!!』
『了解した!!』
FタイプならびGタイプ、ともに2体ずつ降り立っている。どれも強敵ではあるが、もう新種というわけでもない。研鑽を積み、陸上戦を好むハーモンとコウなら勝てる。そう信じて託す。
「けどまずはぁ………お前だぁああああああ!!」
『テン、セイ、シャ………ミツケ、タ!』
赤いタキオンが右腕でヒートナイフを構える。刺突の構え。あれは俺の攻撃モーションだ。自分で見るのもなんだが、自画自賛になってしまうが、かなりかっこいい。タキオンも名機だな。前世ではあと数ヶ月もしたらイレイザーとともに立体化しただろうに。
猛烈な加速をかける。赤いタキオンも応じる。
衝突するのに数秒は要さない。
「ぅおおおおおああああああああ!!」
ヒートナイフに対し、ショートライフルの銃身の下に接続したブレードで受ける。ただしリヴァイヴはショートライフルを2丁提げていて、左手で攻撃を受ける一方で右手のショートライフルを連射。
両機は切り結ぶ形で離れるが、先手は取った。赤いタキオンのコクピットブロックには、被弾痕があった。貫通こそしていない。やはりもっと攻撃力の高い手段を選ぶ必要がありそうだ。
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